シカゴ(2002年アメリカ)

Chicago

いくら本作の前年に『ムーラン・ルージュ』で
「これはミュージカル映画の革命だ!」と度肝を抜かされたとは言え...
さすがに本作がアカデミー賞を受賞したと聞いたときには、「なんで今どき、ミュージカル映画やねん!」と
ツッコミの一つでも入れたくなりましたが、いやはや実際に本作を観て納得しました(笑)。

いやぁ、これはまったくもって、素晴らしいエンターテイメントですね。
これはお見事としか言いようがないミュージカル映画の美味しい部分だけを切り取った作品ですね。

少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが...
僕はこういう映画にこそ、ハリウッドの底力というのを感じずにはいられません。
ミュージカル・シーンは全て、まるでお手本とも言えるぐらい模範的な撮り方をされており、
僕はこういう、ある種、攻撃的なミュージカル・シーンが大好きなんですよね。

僕は本作、実は最初に映画館で観たのですが、
複数回観ている、今、改めて再見しても、当時、映画館で興奮したことを思い起こさせてくれます。
それぐらいに、『ムーラン・ルージュ』とはまた違った意味での猛烈な勢いを持った映画ですね。

まぁ日本でも本作はアカデミー賞受賞作ということもあってか、
劇場公開当時はそこそこヒットしていたように記憶しているのですが、それも納得です。
この水準なら、これからも更に違ったステージへと進んだミュージカル映画が開拓できるような気がします。

特にこの映画はヴェラを演じたキャサリン・ゼタ=ジョーンズが素晴らしい。
映画の前半にあったような激しいダンス・シーンを中心的に担当(?)しているのですが、
特に彼女のダイナミックな動きが、より画面に躍動感を与える結果となっており、彼女の機能は大きいと思う。
女性囚人たちを紹介するシーンで、5人くらいの女性囚人のエピソードを紹介するのですが、
このシーンにしてもヴェラの歌と踊りが群を抜いて圧倒的なパワーがあります。

まぁ正直言って、中身は「“ド”ミュージカル映画」みたいなもんなので(笑)、
ミュージカル映画の面白さが理解できないと言われてしまえば、それまでの内容です。
残念ながら『ムーラン・ルージュ』とは違って、従来のミュージカル映画の概念を打破した内容ではないし、
音楽の使い方なども、ミュージカル映画の常識を打ち破った使い方ではありません。

とは言え、この映画で僕が驚かされたのは、
前述した攻撃的なまでに躍動感溢れるミュージカル・シーンの効果的な使い方と、
計算され尽くされたセット撮影に於けるカメラワーク、そして見事なライティング(照明)が織り成す、
完璧なまでの画面設計で、とてもじゃないけど、本作がロブ・マーシャルの初監督作とは思えない。

これらは台詞ではなく、踊りと振り付けを中心にストーリーを語ってしまおうとする、
長年、ミュージカルの振付師として活躍するロブ・マーシャルのスタンスが活きていますね。

彼自身、ボブ・フォッシーの大ファンで本作はかねてから構想の中にあったらしいのですが、
本作の撮影にあたって、ミュージカル・シーンを第一に考えたことが功を奏していますね。
この映画、ミュージカル映画の本質を見失って、中途半端なものになっていたら、
ここまで騒がれることはなかっただろうし、賞賛されることもなかったかもしれません。

ただ、敢えて言おう(笑)。
レニー・ゼルウィガーもキャサリン・ゼタ=ジョーンズもとても頑張っているが、
弁護士ビリーを演じたリチャード・ギアに関して言うと、さすがに微妙な違和感があったことは否めない(笑)。

タップのシーンなんかもとても上手いのだろうけれども、
動きともう一つ、僕は大切なものを思い出しました。そうです、歌なんです。これ、とっても大事。

勘違いしてはいけない。別にリチャード・ギアが音痴なわけではない。
しかし曲のアレンジメントという意味では、少し外れているためか、声質と曲が合っていない。
それゆえ、どうしても僕の中では彼のミュージカル・シーンに於ける微妙な違和感を拭い切れませんでしたね。
この辺はロブ・マーシャル自身がもっとケアしなければならない部分ではなかったかと思いますね。

そう、実はこの映画、リチャード・ギアだけではなく、
全体的に女優陣と比べると、男優陣のミュージカル・シーンは物足りないものが残ります。
それはいろんな意味での迫力、インパクトといったものが欠けるせいでしょうね。
この不足な部分は、映画の序盤にあるクイーン・ラティファ演じる“ママ”の歌のシーンを観ると痛感させられます。

そういう意味で本作はかなり女性優勢の映画なのかもしれません。
この辺は女性の匙(さじ)加減で、世論がどうとでも変わってしまうというストーリーから一貫性がありますね。

最終的には自分たちの過去を利用するラストに帰結させるシナリオもお見事なのですが、
それ以上に21世紀にミュージカル映画の息吹きを残す、素晴らしい勢いのある一作ですね。
どちらかと言えば、ロブ・マーシャルは寡作の映画監督なので、もっと積極的に映画を撮って欲しいと思う。
本作での成功を考えると、尚更、彼のような映像作家、演出家の台頭というのが必要不可欠なんですよね。

ちなみに本作のオリジナルはブロードウェーでは、
75年にボブ・フォッシー脚本で上演されて以来、約2年にも及ぶロングラン上映となり、
90年代に入ってからもリバイバル上演され、日本でも上演されるなど名作中の名作らしいです。

日本では初演時、弁護士ビリーは植木 等が演じたんですって。
そう思って観ると、不思議とリチャード・ギアが植木 等に観えるから不思議だ(←オイオイ)。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ロブ・マーシャル
製作 マーティ・リチャーズ
原作 ボブ・フォッシー
    フレッド・エッブ
脚本 ビル・コンドン
撮影 ディオン・ビーブ
編集 マーティン・ウォルシュ
音楽 ジョン・カンダー
    ダニー・エルフマン
出演 レニー・ゼルウィガー
    キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
    リチャード・ギア
    クイーン・ラティファ
    ジョン・C・ライリー
    ルーシー・リュー
    テイ・ディグス
    ドミニク・ウェスト
    クリスティン・バランスキー

2002年度アカデミー作品賞 受賞
2002年度アカデミー主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) ノミネート
2002年度アカデミー助演男優賞(ジョン・C・ライリー) ノミネート
2002年度アカデミー助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ) 受賞
2002年度アカデミー助演女優賞(クイーン・ラティファ) ノミネート
2002年度アカデミー監督賞(ロブ・マーシャル) ノミネート
2002年度アカデミー脚色賞(ビル・コンドン) ノミネート
2002年度アカデミー撮影賞(ディオン・ビーブ) ノミネート
2002年度アカデミー歌曲賞(ジョン・カンダー、ダニー・エルフマン) ノミネート
2002年度アカデミー美術賞 受賞
2002年度アカデミー衣裳デザイン賞 受賞
2002年度アカデミー音響賞 受賞
2002年度アカデミー編集賞(マーティン・ウォルシュ) 受賞
2002年度全米俳優組合賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2002年度全米俳優組合賞助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ) 受賞
2002年度全米映画監督組合賞監督賞(ロブ・マーシャル) 受賞
2002年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ) 受賞
2002年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2002年度ラスベガス映画批評家協会賞助演男優賞(ジョン・C・ライリー) 受賞
2002年度フェニックス映画批評家協会賞編集賞(マーティン・ウォルシュ) 受賞
2002年度フェニックス映画批評家協会賞衣装デザイン賞 受賞
2002年度フロリダ映画批評家協会賞主題歌賞 受賞
2002年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>作品賞 受賞
2002年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>主演男優賞(リチャード・ギア) 受賞