チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(2007年アメリカ)

Charlie Wilson's War

酒と女が大好きな下院議員チャーリー・ウィルソン。
胡散臭い、知り合いのプロデューサーに誘われてラスベガスに行くと、プールに浸かりながら、
全裸のストリッパーとテレビを観ながら、コカインをたしなむ。そう、彼は決して模範的な議員ではない。

しかし、時は80年代。
何故か誘われるがままに訪れて視察したソ連の荒くれに悩むアフガニスタンの惨状を見て、
チャーリーはソ連を叩くためには、抵抗勢力があるアフガニスタンへ資金援助した方がいいと考えます。

結論から言います。
「良い映画だけど、訴求しない」...これが正直な僕の感想です。

監督はアメリカン・ニューシネマを思いっきり通過し、80年代以降も細々と生き延びてきたマイク・ニコルズ。
なるほど、本作は確かに彼らしいシニカルな視点から描かれた政治映画であり、戦争映画である。
その時代のアメリカ、そして後年に強い影響を与えたアメリカの外交を実に生々しく描けている。
一見すると、「アメリカ万歳!」と主張しているように見えるかもしれませんが、これは逆説的表現です。
これは強烈な皮肉で、敢えてこう描くことによって、問題提起をしている好例と言えます。

よくもまぁ・・・実在のチャーリー・ウィルソンがこの映画の内容に怒らなかったなぁと感心しますが、
残念ながら実在のチャーリー・ウィルソン、2010年に他界されているんですね。

まぁ映画の要点は、チャーリーが対ソ連政策の中で
アフガニスタンへの軍事資金援助を大量投入した方が得策であると判断して、
その資金から得た最新の武器を手に、アフガニスタンの抵抗軍はアメリカの望み通り、ソ連軍を撃退します。

結果として、ソ連軍はアフガニスタンへの侵略を諦めるのですが、
映画の終盤、チャーリーは真の意味でのアフガニスタンへの資金援助は何なのかということに気づきます。

撮影当時、75歳という年齢であったマイク・ニコルズですが、
まだまだ映像作家として気鋭の状態であるようで、いろいろな意味で面白い撮り方をしている。
これはおそらく賛否両論だろうが、アフガニスタンへのソ連軍の侵略シーンなんかにしても、
まるでシューティング・ゲームのようにゲーム感覚で行っていることを露骨に描いたり、
今度はアフガニスタン抵抗軍の反撃も、最新追尾小型ミサイルを用いて、やはりゲーム感覚で描く。

前述したように、一見するとアメリカを称えるような描写に見えるかもしれないが、
マイク・ニコルズは映画の最後の最後で、強いメッセージ性を帯びた問題提起を行います。

「アメリカが正義」であるか否かはともかく、例えば軍事介入や政治介入などにしても、
色々と率先してアメリカが行うけれども、自国本位に行われるものだから、アフターケアが悪いという点。
それは例えば、アフガニスタン救済のためと、抵抗軍に武器や弾薬を提供する決断をしたにも関わらず、
ソ連を撃退したらパタンと資金援助を止めて、アフガニスタン国民の生活救済にはまるで積極的ではない点だ。

挙句、予算委員の中にはアフガニスタンとパキスタンの違いすら、よく理解していない委員がいる。
多少の誇張表現もあるかもしれませんが、往々にして「こんなもんだよ」と言わんばかりの皮肉です。

この映画のスタンスって、アフガニスタン抵抗軍への資金援助自体は否定しないけれども、
キチッとした信念を持って、アフターケアまで完了できなかった点では反省材料って感じなんですね。
それをマイク・ニコルズ流のユーモアを持って描くわけですから、そりゃ独特な映画になって当然ですね。

こういう視点が生まれる根幹には、アフガニスタン支援に際して、多くの犠牲を払っていること、
この映画で描かれた抵抗軍である“ムジャーヒディーン”が後に派閥を作って、“タリバン”となったこと、
これら国際政治を揺るがす、多くの波紋を呼ぶ原因となっていることを見逃せないからだと思うんですよね。
(皮肉にも劇中、ガストが言っていた「アメリカは宗教戦争には加担しない」という台詞が印象的です)

主人公のチャーリー・ウィルソンをトム・ハンクスが好演していますが、
この映画は意外にも(...と言ったら失礼だが...)、金持ちマダムを演じたジュリア・ロバーツが良い。
チャーリーの良き理解者として、時にしたたかに金を集め、世の中を動かそうとする実力者を見事に体現。

でも、やっぱり訴求しない。
この映画が決定的に力不足なままで終わってしまったのは、問題提起も中途半端だったからだろう。
勿論、マイク・ニコルズ流のユーモアで、強いメッセージはあるのですが、今一つ“押し”切れていない。
これはフラッシュ・バック形式をとった、映画の結びの弱さに起因するのですが、もっと工夫して欲しかった。

個人的にはアメリカが意図しなかった産物の表現も欲しかったと思うし、
やや原作から逸脱して、飛躍した映画になるが、その後のアフガンを描いても良かったと思う。

いずれにしても、まるで茶化すように軽く戦争を描いてしまっているがゆえ、
もっと強烈な結末を用意しない限りは、訴求力のある映画にはならないという好例になってしまった感がある。
(まぁ・・・この決定力不足なあたりも、マイク・ニコルズの映画らしいけど・・・)

どうでもいい話しですが...下世話にも、もし仮に議員になったら、
事務所はチャーリーのような職員構成にしようと思った世の男は、決して僕だけではないだろう(笑)。。。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マイク・ニコルズ
製作 トム・ハンクス
    ゲイリー・ゴーツマン
原作 ジョージ・クライル
脚本 アーロン・ソーキン
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
編集 ジョン・ブルーム
    アントニア・ヴァン・ドリムレン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 トム・ハンクス
    ジュリア・ロバーツ
    フィリップ・シーモア・ホフマン
    エイミー・アダムス
    ネッド・ビーティ
    エミリー・ブラント
    オム・プリ
    ケン・ストット
    ジョン・スラッテリー

2007年度アカデミー助演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) ノミネート
2007年度ワシントンDC映画批評家協会賞脚色賞(アーロン・ソーキン) 受賞