チャーリーズ・エンジェル(2000年アメリカ)

Charlie's Angel

往年の人気TVシリーズの映画化で、当時の若手人気トップ女優を集めたアクション映画。

劇場公開当時、日本でも大ヒットしていましたし、すぐに続編も製作されました。
賛否はあると思いますが、ミュージック・ビデオを多く手掛けてきたマックGの監督デビュー作なだけあって、
当時の最新技術であるVFXやワイヤー・アクションを駆使して、次から次へと目まぐるしくアクションを展開します。

個人的には十分に楽しめる内容でしたし、冒頭から“つかみはOK!”って感じでのスカイ・アクションで
これはエンターテイメントとしては極めて優秀な、ハリウッドの良い部分を結集したアクション映画だったと思います。

確かに目新しいものは何もないし、往年のTVシリーズのアイデアのみに頼ったところはある。
現代の感覚で見ると、このお色気作戦の描き方は賛否があるだろうし、今ならこういう描写は避けるだろう。
でも、だからと言って、それを理由に作品を否定したいとは思わないし、時代の変遷や社会性の変容を感じ取れる、
良い教材として残り続けるので、あまりに常識の範囲を逸脱していたものでなければ、残していきたいものと思う。

マックGも日本のサブカルチャーが大好きだったようで、日本に関する妙な描写が多いのも印象的だ。
相撲をギャグのように描いたのもそうだけど、ピチカート・ファイブ≠フ曲を流すなど、なんだか着眼点が違う(笑)。

まだまだキャピキャピしていた頃のキャメロン・ディアスが、映画の冒頭からお尻フリフリダンスを披露したり、
ドリュー・バリモアも胸元が大きく開いた服装で相手を誘惑して気を逸らしたり、映画版はとにかく大胆にアピールする。
まぁ、こういうのが見たいオッサンたちは喜ばせたでしょうけど、悪く言えば、映画としての新鮮味はあまり無い。

この辺はマックGの撮影前からの課題だったのでしょうが、
そこを補うためか、VFXなどを駆使して派手なアクション・シーンの数々を連続的に披露して、
観客を飽きさせないようにしている。ただ、往年の人気シリーズの映画化ということもあり、不変的なことも多くあり、
これらは往年のTVシリーズのファンのことを想うと、やはり変え難い部分が多くあって、作り手も難しかっただろうなぁ。

主要キャストにルーシー・リューを加えたこともあるのかもしれませんが、
派手なワイヤー・アクションが目につくことから、香港映画へのオマージュとも解釈できる作品ですね。

敵がアジア系ではないあたりは、多少なりとも配慮があったのかもしれませんが、
女性版の“007”に加えて、香港映画のテイストが加わって、どこか既視感のある作品ではありますが、
そこは主要女性キャストの魅力を前面に出すことで、次世代の女性の力を強調したかったのでしょうね。

そして、この頃のハリウッド映画での流行りでしたけど、
やたらとマスクを使った変装を多用して、半ば「何でもアリ」のような状態にして、数々のトラブルを解決する。
この辺はトム・クルーズの『ミッション・インポッシブル』シリーズのイーサン・ハントを思い起こせられるシーンですね。

まぁ、映画全体としてやたらとステレオタイプに撮られた映画ですが、
欲を言えば悪党たちは、もっと強い存在として描いた方が良かったかな。チョット弱過ぎる。
彼らの真の狙いがチャーリーにあるのであれば尚更、もっと手強い敵であってエンジェルたちが苦労しないと。
あまりにスムーズに闘いが進んでいくし、エンジェルにピンチらしいピンチが訪れないのは、なんだか勿体ない。

映画の途中で3人がそれぞれ爆破テロにあったり、銃撃にあったりとしますが、
これらのピンチも緊迫感が希薄で物足りない。個人的にはもっと持続したピンチがあった方が、
映画のクライマックスの爽快感が格段に違うと思うので、もっと根気強く悪党をしっかりと描いて欲しかったなぁ。

サム・ロックウェルなんかは当時、あまりメジャーな役者ではありませんでしたが、
この頃から大きな役をゲットするようになり、00年代に入ると主役級を任せられる役者になってましたからね。
彼ならばもっとインパクトのある悪党を演じることができたと思うんですよね。もっと突き抜けたものが欲しかったなぁ。

特に本作は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのクリスピン・グローバーが“痩せた男”として出演しており、
インパクトが大きいキャラクターであったため、彼なんかはもっと執拗にエンジェルたちを追い詰める存在で
あって欲しかったし、もっと彼らとの対決もクローズアップして欲しかった。上映時間が短いだけに、もっと描けたはず。

しかし、キャスティングはこの映画版も抜群のキャストを揃えましたね。
往年のTVシリーズではファラ・フォーセット、ケイト・ジャクソン、ジャクリーン・スミスの3人が人気を博しましたが、
テレビ版では表現し難かったシーンも含めて、本作の主要女性キャスト3人はテレビ版を凌駕した面はあると思う。
並みの映画で、これだけのキャストを揃えることは難しく、ドリュー・バリモアが製作に加わったことも大きかったでしょう。

一時期、ボスレー役のビル・マーレーが本作だけで降板になった理由の一つとして、
撮影現場で悪態をついて、ルーシー・リューらに侮辱的な発言をした挙句、口論になったことが話題となりました。
気難しい性格で有名なビル・マーレーですから、あんまり不思議ではないにしろ、ポリコレに厳しくなった現代なら
大きな問題になったであろう出来事でした。現代だったら許容されるものではないだろうし、途中降板だったでしょうね。

そんなビル・マーレーがボスレーを演じるには、少々年をとり過ぎている印象もなくはないのですが、
ひょっとしたら彼がチャーリーを演じるくらいでも良かったのかもしれません。既に大御所感もありましたしね。

良くも悪くも、ハリウッドのマーケット・リサーチの強みが生かされた作品のように思いますが、
ビジネスライクなところだけではなく、映画の起承転結はしっかりしていて、基本はしっかり押さえた作品です。
そこにマックGの経験から構築された彼の持ち味を生かした、スピード感溢れる映像感覚を上手く融合している。

それは、オリジナルのTVシリーズの醍醐味をよく研究しているということもあるのでしょうね。
ファンがエンジェルたちにどういう活躍を求めているのかが、作り手たちもハッキリと理解しているかのよう。
ドリュー・バリモアなんかは製作にも加わっているので、彼女はTVシリーズからのファンだったのかもしれません。
やっぱり、こういう人がスタッフとして加わっていないと、古いファンを喜ばすことも難しくなってきますからね。

こういったバランスを上手く整えることができた企画だったので、結果として成功したのでしょう。

正直言って、ハリウッドもこういう企画、失敗したことも多いですからね。結構、リスクある仕事です。
古いファンが多いということは、例えば本作のようにマックGの映像センスを融合させること自体、賛否があるはずで
本作の出来に往年のファンの全てが満足しているわけではないだろう。そこはプロダクションもビジネスとして
割り切っているところはあるのだろうが、温故知新を意識しつつ、成功する確率が高い布陣を敷いているのが分かる。

こういう仕事をいとも簡単にやってのけてしまうあたりが、やっぱりハリウッドなんだなぁ〜って思う。
最近は結構ハズレも多いけど、やっぱり最低限のクオリティのヒット作を生み出すノウハウは持っていますからね。

ちなみに本作でチャーリーの声を担当したのはジョン・フォーサイス。彼はTVシリーズでも担当していました。
チャーリーという謎の大富豪に雇われた3人の美女スパイという設定自体が、少々胡散クサいですが(笑)、
彼をキャスティングできたことも本作にとっては大きかったですね。これは往年のファンも大喜びだったことでしょう。

前述した妙な相撲大会やキャメロン・ディアスの謎な日本語を、受け流すことができれば(笑)、
まずまず充実したエンターテイメントとして楽しめる作品だ。映画の冒頭からエンジン全開フルストットルって感じで、
そのままの勢いでクライマックスまで突き進んでいく感じがいい。女性のスパイ映画というのも希少なので、
本作がヒットしたこと自体は意義深かったし、シリーズ化されたことも大きかった。話題性だけの映画ではないと思う。

ただ、少し穿った見方なのかもしれませんが、
当時、何故、アジア系女優のルーシー・リューがエンジェルの1人に選ばれたのかは気になりますね。
確かに何本かメジャー映画に出演したりして売れ始めていた時期でしたが、何か違った狙いがあったのかも・・・。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マックG
製作 ドリュー・バリモア
   レナード・ゴールドバーグ
   ナンシー・ジュヴォネン
脚本 ジョン・オーガスト
   ライアン・ロウ
撮影 ラッセル・カーペンター
編集 ウェイン・ワーマン
音楽 エド・シェアマー
出演 キャメロン・ディアス
   ドリュー・バリモア
   ルーシー・リュー
   ビル・マーレー
   ティム・カリー
   サム・ロックウェル
   ケリー・リンチ
   クリスピン・グローバー
   ルーク・ウィルソン
   マット・ルブランク
   トム・グリーン
   LL・クール・J