突破口!(1973年アメリカ)

Charley Varrick

名匠ドン・シーゲルが撮った、たまらなく渋くカッコ良いアクション映画だ。

タイトルになっている、元曲芸飛行士のチャーリー・バーリックを主人公とした映画で、
大型の農業コンバインが普及したおかげで、曲芸飛行と農薬散布だけで生計を立てられなくなったチャーリーが、
仲間を募っては、田舎町の銀行を襲って少額の金を強盗する日々に転じていたものの、いつもの調子で実行した
銀行強盗で思わぬ大金を盗んだことから始まる、複数の男から命を狙われ、反撃にでる姿を描いています。

主演のウォルター・マッソー演じるチャーリーのキャラクターがどことなく一貫性がないのが
本作の難点ではありますが、こういう荒っぽいところがあるのは、ドン・シーゲルの映画っぽくて好きだ(笑)。

70年代のドン・シーゲルは何と言っても『ダーティハリー』が有名な監督作品ですが、
76年の『ラスト・シューティスト』は、まるで西部劇の息の根を止めるかのような印象的な作品だったし、
80年の『ラフ・カット』で遺作となりました。そんな中で撮った本作ですけど、彼の職人芸のようなところがよく出ている。

ジョン・バーノンにアンディ・ロビンソンという助演陣を観ちゃうと、
どうしても映画が『ダーティハリー』の延長線のように観えちゃうのですが(笑)、映画の途中でも
ジョー・ドン・ベイカー演じる粗暴な殺し屋モリーが、写真店を営む女性から「イーストウッドには見えないわよ」なんて
台詞を脚本に入れちゃうあたりも、やっぱり作り手も『ダーティハリー』を意識していた証拠だと思いますね。

まぁ・・・妻への深い愛情を再三再四、表現していたチャーリーでしたが、
いくら相手を欺く計画のためとは言え、銀行の頭取の秘書の家に強引に乗り込んでいって、
自分からベッドに誘うようなことを言って、相手の女性もまんざらではなく、ベッドインしちゃうあたりは共感を得難いかも。

ただ、慎重な性格に見えて、時に大胆な策を講じて相手を巧みにかく乱するチャーリーの賢さと、
サラッとやってのけるスタイリッシュなところを、ウォルター・マッソーが演じるというのが、実に渋くてカッコ良い。

この映画は特に冒頭の銀行強盗を実行に移すシーンからして、すこぶる快調でカッコ良い。
また、ラロ・シフリンのジャジーな音楽も抜群にカッコ良く、正に映画が動き出す瞬間を表現するかのようだ。
ウォルター・マッソーをこんなにカッコ良く撮った映画は、おそらく他に無いと思う。彼の代表作とまでは言えないが、
70年代は何本かアクション映画に出演していたので、その中でも本作は有数の出来の作品ではないかと思う。

アクション・シーンにしても派手さはありませんが、凶行がガラスに映る姿を映すなど、
さり気ない工夫を凝らして、一つ一つの見せ方を変えているのが面白い。この辺はもはや職人芸のようだ。

チャーリーを追う、ヤバい殺し屋モリーを演じたジョー・ドン・ベイカーも時代錯誤なキャラクターだが良い。
マフィアに雇われたモリーですが、マフィアが用意した露出度の高い若い女の子が集まる娼館に泊まることになり、
女主人から「この娘(こ)をつけますか?」と言われるも、「オレは娼婦とは寝ない主義なんだ」と言い放ち拒否。

思わず、「女性には興味ないのか?」と思わせられるものの、
チャーリーの足跡を追って辿り着いた写真店の、セクシーな女性には有無を言わさず迫っていって、
いきなり彼女の頬をビンタして、女性に言うことをきかせるという、究極の女性蔑視の塊のような扱いをするという
現代でこれをまともに映像として表現したら、コンプライアンス上の問題になりそうな表現ですが、なんとも妙な描写。

クライマックスの複葉機でなんとかして逃げようとするチャーリーと、車で執拗に追い迫るモリーの攻防も面白い。
「いくらなんでも、そりゃ無理だろ・・・」とは思っちゃいますが、それを力技で映像化してしまうドン・シーゲルの
良い意味での破天荒さこそが本作の魅力であり、このチェイスの終わりなんて、ほぼマンガのような構図だ。

あんまり繊細なところまで気配りが出来た映画というわけではないのですが、
ドン・シーゲルが直感的かつ思い切って勢いで撮ったような感じが、この映画の醍醐味であります。

小細工はないし、警察の捜査も普通にやっている感じで、全く無力なわけではないのですが、
警察はチャーリーに肉薄できないし、映画の終盤には警察の存在がほぼ蚊帳の外になっているのも印象的。
そこで最後の賭けにでたチャーリーが、複葉機から降りてきて見せる彼の仕掛けが、なんとも良いアクセントになる。
ほぼ直球勝負のような映画ではあるのですが、ポイントで変化球勝負をする上手さもあるのが、なんとも試合巧者だ。

映画の冒頭で妻が銃撃を受けたことで、やむなく逃走に使った車を“処分”せざるを得なくなるシーンなんかも、
妻との最後の時間を、実に名残惜しいように気持ちの整理をつけながらチャーリーが過ごすシーンが印象的だ。
結果的には火薬を使うことになるのですが、これも安直に爆破をアップで表現しないのも、なんとも絶妙な演出だ。

この辺がドン・シーゲルがハリウッドでも、名匠と言われる所以なのかもしれません。

まぁ、ドン・シーゲルもヒット作を狙っていたというわけではないのかもしれませんが、
本作のようなカッコ良いアクション映画が、数年前のレンタルショップの“発掘良品”なる企画で
再注目を浴びるようになったという、日本での埋もれ具合がなんとも寂しい。こういう映画の宿命かもしれませんが。。。

チャーリーの強盗を手伝った若造を演じたアンディ・ロビンソンも、
『ダーティハリー』のサソリ座の男のインパクトが強過ぎて、70年代後半にはステレオタイプなサイコパスの役しか
自分に回ってこないことに嫌気が差して、一時期は俳優を引退していたというが、本作ではそこまで極端ではなく、
大金を目の前にして、イキがっちゃう若者で慎重にやりたがるチャーリーに楯突いたことで、逆に生贄のような扱いを
受けてしまうという役どころですが、短い出演時間ながらも強い個性を残す助演ぶりで、脇もしっかり固められた映画だ。

だからこそ、僕はこういう映画こそ埋もれさせずに、語り継いでいくことの尊さを訴えたい(笑)。
傑作とまでは言わないけど、これは70年代前半を代表する、この時代だからこそ成し得た秀作だと思うので。

チャーリーの誤算は、まず初っ端から警察に見つかり、マークされてしまったことだろう。
いくら賢い奴でも、こうなってしまうと色々と計算外の出来事が起きてしまう。だから計画が大狂いだ。
しかも警察官が犠牲になったものだから、地元警察を本気にさせてしまい、加えてマフィアから逃げなければならない。

この映画はチャーリーが計算外の誤算があって、窮地をなんとか脱さなければならない
というシチュエーションから始まるだけに、チャーリーは常に先手を打たなければならない状況になったわけですね。
しかし、そこからのチャーリーは相手の行動を正確に読み切り、リスクに備えて行動するようになります。
(言ってしまえば、冒頭の銀行強盗はどこか打算的でリスクに備えてはいなかったのかもしれない・・・)

チャーリーが何とか逃げ切ろうと決心したのは、ひょっとしたら妻を銃撃した警察への復讐心があったのかも。
もっとも、犯罪に手を染めたのはチャーリーなので偉そうなことは言えませんが、それでもどんな手段を使ってでも、
何とかして相手を出し抜いて、逃げ切ることで警察への義憤を晴らすことに置き換えたかったのかもしれません。

一般的なピカレスク・ロマンとはチョット違う気がしますけど、
ドン・シーゲルなりにアウトローの生きざまをスリリング、且つ正攻法なアプローチで描いた作品として評価できます。

ドン・シーゲルはシナリオの段階で、視覚イメージを固めて撮影に入っており、
撮影前にスタッフやキャストと入念な打ち合わせを重ねて、撮影内容はほぼシナリオ通りに済ませたという。
しかも、ほぼ無駄なカットを作らずにスケジュールを進めて、撮影時に大きな変更も無かったというからスゴい。
こういったところも職人芸というか、プロ中のプロでイーストウッドが師と仰ぐ所以をうかがわせますねぇ。

そのドン・シーゲルの初志貫徹さと同様に、本作のチャーリーも初志貫徹を貫き通す姿が実に良い。
そこには、映画を邪魔するようなメッセージや社会性など一つも無い、純然たるエンターテイメントがある。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ドン・シーゲル
製作 ドン・シーゲル
原作 ジョン・リーズ
脚本 ハワード・ロッドマン
   ディーン・リーズナー
撮影 マイケル・C・バトラー
音楽 ラロ・シフリン
出演 ウォルター・マッソー
   ジョン・バーノン
   ジョー・ドン・ベイカー
   アンディ・ロビンソン
   シェリー・ノース
   フェリシア・ファー
   ノーマン・フェル
   ベンソン・フォン
   ウッドロウ・パーフレイ
   ウィリアム・シャラート
   ジャクリーン・スコット
   マージョリー・ベネット

1973年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ウォルター・マッソー) 受賞