チェンジング・レーン(2002年アメリカ)

Changing Lanes

チョット物足りない部分はあるけど、まずまずの出来の映画ではないでしょうか。

タイトル通り、高速道路で無理に車線変更しようとした若手弁護士が、
急いでいるからという理由だけで事故相手の黒人男性を事故現場に置き去りにしたことから、
執拗な嫌がらせの枠組みを超えた、闘いへと突入する様子を描いたサスペンス映画。

この映画の主人公ギャビンはどう考えてもイヤな男で、正直言って、彼を敵視せざるをえない。
しかしながら一方のギプソンも、典型的なダメ男で一概に彼に対して同情的になれない。

従って、この映画を最初に観た時、率直な感想は「どっちもどっち」という言葉しか出てきませんでした。

まぁその感想は今も変わらないのだけれども(笑)、
もうチョット主人公のギャビンに関しては掘り下げても良かったと思いますね。
少し彼に関する描写が表層的なのが気になるし、作り手がギプソンに同情的な描き方をしている傾向がある。
それゆえ、映画自体が完全に中立的な立場をとっているとは言い難いのが、どうしても気になってしまいます。

映画のストーリー上、大きな鍵を握っているギャビンが関わったという遺言状作成に関するエピソードについても、
もう少し深く言及して欲しい。映画の焦点を絞りたかった意図は分かるけど、これは重要なセオリーであり、
もう少し細かい事情まで描くべきだったと思いますね。そうすればギャビンが置かれる状況が、
如何に法規上ヤバい状況なのかということが、より明確になったはずだと思いますね。

まぁ今まで交通事故のトラブルにここまで大真面目にフォーカスした映画というのが、
ありそうで無かったですから、物語の着想点としては悪くなかったと思うし、そこそこ魅力ある題材ですね。
そういう意味で本作は価値があると思うし、もっと評価してあげても良かったのではないかと思いますね。

多少、ステレオタイプには映りましたが、
自己中心的な振る舞いが目立つ弁護士のギャビンを演じたベン・アフレックも健闘していると思うし、
彼と対決するギプソンを演じたサミュエル・L・ジャクソンも的確な芝居で映画に安定感を持たせている。

そういえば、どういう縁か知りませんけど...
ギャビンの職務上のボスであり、義理の父親を演じたのがシドニー・ポラックでしたね。
残念ながら亡くなってしまいましたが、俳優としてもなかなかの存在感ですね。
(映画監督としては、もう一花咲かせて欲しかったけど。。。)

監督のロジャー・ミッチェルは99年に『ノッティングヒルの恋人』を監督した人らしいけど、
映画の出来としては『ノッティングヒルの恋人』の方がずっと良かったかなぁ。
本作はストーリーを進行させることに一生懸命になり過ぎた傾向があって、映画が全体的に急ぎ足になっている。

ただ、前述したように悪い出来ではなく、まずまずの完成度と言ってもいいと思いますね。
サスペンス描写の基本は押さえていますし、無言のラストの余韻もなかなか良い幕切れだと思う。

ただなぁ〜っ(笑)、映画に重みが感じられないんだよなぁ〜。
まぁ尺の短さも多少なりとも影響しているとは思いますが、観ていて、なぁ〜んか軽い(笑)。
この辺は作り手の意向もあるでしょうが、ラストを観る限り、もうチョット重みのある内容でも良かったと思う。

やっぱりそこで必要だったのはギャビンの改心に至るまでの心の動きだと思うんですよね。
正直言って、ここの描写が不足しているのがこの映画、実に大きく損をしてしまっていると思う。
あれだけ傲慢かつ自己中心的に事故現場で理不尽な態度をとって、相手方を放置したわけですから、
お世辞にも大人として褒められた男とは言えない。しかも相手の対応にキレてしまって、
ハッキングさせて相手の資産までをも取り上げるという暴挙に出てまで、ファイルを取り戻そうとする。

ハッキリ言って、かなり質(たち)の悪い男です。

それがギプソンの境遇に如何にして気づくのか?
そして自分が行ったことの重大性に如何にして気づくのか?
本作は中盤あたりから、常にこの課題を抱えたまま進んでいくのですが、一向に答えが出ません。
それどころか、一番、これらの答えを出すことが映画に説得力を持たせる鍵を握っているのに、
これらが中途半端に描かれてしまうわけですから、どうしたって映画に重みは出ませんね。

やはりこの辺は作り手たちが、もっとケアできなければならない部分だと思いますね。

ギプソンの心の揺れ動きに関しては、
割りと細かく表現できていただけに余計に残念に感じられてしまいます。

まぁ本作では裁判に遅刻して将来に暗雲が立ち込めるという別な要素があるのですが、
交通事故って、殺人事件にまで発展したことはありますからね。軽微な事故でも、侮れません。
車のハンドルを握ると人間性までもが変化する人もいるだけに、それだけ影響力が強いものです。
だから事故を起こした場合、自分の非を認めたくないという気持ちがはたらき易いのかもしれませんね。

いずれにしても「大人なんですから、責任ある行動、振る舞いをしましょう」ってことですかね。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロジャー・ミッチェル
製作 スコット・ルーディン
原案 チャップ・テイラー
脚本 チャップ・テイラー
    マイケル・トルキン
撮影 ザルヴァトーレ・トチノ
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ベン・アフレック
    サミュエル・L・ジャクソン
    キム・スタウントン
    トニ・コレット
    シドニー・ポラック
    ティナ・スローン
    ウィリアム・ハート
    アマンダ・ピート
    リチャード・ジェンキンス