キャットウーマン(2004年アメリカ)

Catwoman

まず褒めますが(笑)...
鳴り物入りで劇場公開に至った割りに、いざ公開されたら大酷評だった本作。
僕は観る前から、そうとうに覚悟しておいただけに、正直な感想...「予想してたより、面白かった」って感じ。

いやいや、この映画の監督をしたポトフだか、ピトフだかっていうフランス人の監督さん、
この人が撮った01年の『ヴィドック』はもっとお話しにならない酷い出来だっただけに、これはもっとマシな部類。

映像美だけで見せようとするのはいいけど、
『ヴィドック』の時は目まぐるしく動き回るカメラワークに酔いまくって、映画どころではなかったですからね。
それに比べれば、本作の方が遥かに映画という土台に近づいて勝負できたレヴェルと言っていいだろう。

本作は言うまでも無く、92年の『バットマン リターンズ』で創出された“キャットウーマン”と呼ばれる、
女性キャラクターのスピンオフ作品で、最新のVFXなども駆使して描いたアクション映画なのですが、
そりゃハル・ベリーには申し訳ないけど、『バットマン リターンズ』で“キャットウーマン”を演じた、
ミシェル・ファイファーのカリスマ性には敵わないし、ましてやティム・バートンのダークな世界観を
ピトフは的確に表現できているわけではないから、『バットマン リターンズ』と比較するのは可哀想だろう。

但し、僕がこの映画で「良かったなぁ」と思えるところは、
ヒロインが何故、“キャットウーマン”になったかという経緯を割愛せずに、しっかりと描けたところですね。
(できることならば、是非ともヒロインの名前もセリーナにして欲しかったところですが...)

確かに映画の前半はペースが遅くてイライラさせられるかもしれませんが、
僕はこれは必要不可欠なパートだったと解釈していますし、ここにスピンオフを企画した意味があったと思います。

ヒロインにハル・ベリーを抜擢したのも正解で、最初は心配でしたけど、
いざ観てみると彼女がしっかりとコスチュームにマッチしていて、全編にわたっての大熱演ですね。
それだけに、こんな酷評は残念なのですが、その評価にはハル・ベリーは納得したみたいですね(笑)。

なんせ、未だに伝説的なのは、かの有名な年間ワースト映画を表彰するゴールデン・ラズベリー賞。
本作はこのゴールデン・ラズベリー賞に大量ノミネートされ、見事に本命視されてしまい、
結果として7部門ノミネート中5部門で受賞という、不名誉な記録を作ってしまいましたが、
ノミネート者が授賞式には出席しないという通例を破り、ハル・ベリーは授賞式に出席し、
熱烈なコメントを出し、自らが本作に出演したことに誇りを持っていることをアピールしたのですから。

で、この映画の何がいけなかったかを考えてみました。

具体的に何処がどうとは言いにくいのですが、
僕が感じた本作に最も大きく欠如している点と言えば、それは悪役キャラクターの魅力でしょう。
正直、これはシナリオにも問題がありますが、もっと強いインパクトを持った悪役を立てて欲しい。

ハッキリ言って、この映画はシャロン・ストーンに悪としての強さが欠如していたことが大きなハンデですね。
こんなに弱々しい悪役キャラクターでは、さすがに“倒し甲斐”が無いことに加えて、映画の“山”が作れない。
これだけ動きの激しいアクション・シーンが展開するわけなのですから、もっと超人的な悪役であって欲しい。

この結果、キャットウーマンの復讐を描けていないんですよね。
少なくとも本作はバットマンのような正義のキャラクターと対決するキャットウーマンではなくって、
自らを死に至らしめた悪党たちに復讐するためのキャラクターであったはずで、あくまで復讐劇なんですよね。
それが実質的にはキャットウーマンを紹介するだけ終わってしまうのですから、“宝の持ち腐れ”状態です。

それと、ピトフがよく分かっていなかったのか...
もっとキャットウーマンが“猫”的なキャラクターであることを強調して描いて欲しかったですね。

思えば、『バットマン リターンズ』で最初にキャットウーマンがバットマンと対峙するシーンでは、
キャットウーマンは一言、「ニャーォ」と鳴いた瞬間、彼女の後ろの建物が爆破されるわけで、
装飾された長い爪も、もっと活用されたアクション・シーンだったはずなのですが、本作は全く目立ちません。
一体、何のためのキャットウーマンなのか、その由来しか分からない構成になってしまっているのです。

猫的な側面が全く活かされず、ひたすらムチを持ってのアクションに執心だったあたりには、
全く違う方向性の映画を目指しているのかと、余計な心配をしてしまうほどでしたね...(苦笑)。

あと、かなり気掛かりだったのは、ローン刑事を演じたベンジャミン・ブラットの存在感が弱いこと。
ハル・ベリーと対等に渡り合ったとは言い難いし、登場時間が短過ぎるのも、いただけない。
キャットウーマンにクローズアップするのは分かるけど、彼の存在がもっと効果的であれば、
僕は本作、映画としての面白味が増したと思うし、映画のラストももっと引き締まったと思いますね。

大方の映像をCGで表現した街並みの情景は圧巻ですが、
今の技術力を考えれば、あまり高いレヴェルとは言えない気もしますね。
このレヴェルであれば、一部はセット撮影するなど、気合の入った部分も観たかったですね。

まぁ・・・確かに誰しも勧めたい傑作ではないし、
ましてや『バットマン リターンズ』を観て、ミシェル・ファイファーに倒されたいと思った人間として(笑)、
決して満足できるスピンオフではなかったけれども、酷評するほど悪い映画でもないと思う。
あまりこういう言い方はしたくないけど...これを上回る愚作ってのは、もっと他にたくさんありますけどね。。。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ピトフ
製作 デニーズ・ディ・ノヴィ
    エドワード・マクドネル
原案 テレサ・レベック
    ジョン・ブランカトー
    マイケル・フェリス
脚本 ジョン・ブランカトー
    マイケル・フェリス
    ジョン・ロジャース
撮影 ティエリー・アルボガスト
編集 シルヴィ・ランドラ
音楽 クラウス・バデルト
出演 ハル・ベリー
    シャロン・ストーン
    ベンジャミン・ブラット
    ランベール・ウィルソン
    フランセス・コンロイ
    アレックス・ボースタイン

2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 受賞
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(ハル・ベリー) 受賞
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ランベール・ウィルソン) ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(シャロン・ストーン) ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ピトフ) 受賞
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ジョン・ブランカトー、マイケル・フェリス、ジョン・ロジャース) 受賞
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(ハル・ベリー、ベンジャミン・ブラット、シャロン・ストーン) 受賞