キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(2002年アメリカ)

Catch Me If You Can

これは質の高い、大人のためのエンターテイメントとでも言うべき作品ですね。

タイトルは「捕まえられるなら、捕まえてみろ〜!」って意味ですけど、
確かにそんな内容に終始した内容で、スピルバーグの監督作品にしては少々大人しい作品だ。

1980年にフランク・W・アバグネイルJrが自身の体験を小説にしたノンフィクションがベースですが、
単身で生き延びるためにエアラインのパイロット、医師、エージェント、弁護士など幾つも身分詐称して、
周囲の人々を信用させ、次々と偽装した小切手を使っては大金を不正に入手した罪状で、
連邦刑務所に収監されたものの、その偽装の腕前をFBIに認められてスカウトされた結果、
金融詐取に関する捜査に協力することで大成功を収め、今や著名なセキュリティ・コンサルタントになった、
フランク・W・アバグネイルJr自身の半生を、テンポ良く描いたヒット作。僕も素直にこれは面白いと思った。

かなり原作の時点で誇張して描いていると本人も言っているので、
おそらくこの映画で描かれたこと全てが真実というわけではないのでしょうけど、
いくら愛する両親の別離がショッキングだったとは言え、20歳そこそこでこれだけのことを考え、
どういうことを準備したら良いのかを自分で考え、そして臨機応変に行動に移すというのがスゴい。

どうやら実在のフランク・W・アバグネイルJrは、収監されて釈放されてからは、
FBIに協力して働いたものの、ニューヨークにはいたくないと主張したために、デキサス州で釈放されたらしく、
いろんな仕事を転々としたものの、就業した先々で過去の犯罪歴がバレて、すぐに解雇されることを繰り返し、
生活に困った彼は、自らの犯罪歴を逆手にとって、銀行に自らの犯罪歴や手口を明かし、偽造小切手の使用対策に
自らを雇うように売り込み、これが口コミで全米各所で評価され、コンサルタントとして生きていくことになったようだ。

スピルバーグはたまにこういう映画を撮るのですが、とっても「お上手」ですね。
映画の理想的な構成をよく分かっているようなバランスの良さで、如何にも優等生的な映画という気がします。

もう少しフランクを追う、FBI捜査官カールの存在を緊張感と恐怖をもって描いた方が良いという意見もあるけど、
おそらくフランクにとってはカールは脅威というよりも、戦友とも言うべき感覚だったのではないかと思います。
いつかは捕まるということも自覚していながらも、詐欺師の生活は始めたらやめられないと言わんばかり。
フランクは10代後半のときには既に詐欺師として生計を立てていたということになるのですが、
おそらくその若さにして、自分はいつまでも続けられないと思いながらも、詐欺から足を洗えないジレンマに
悩みながら行動していたようで、突然、純朴な看護師に恋して結婚しようとしたり、様々な葛藤が描かれます。

しかし、フランクが何故このような詐欺師に転じたのかというのがポイントなわけですが、
本来のフランクは親離れができていない、永遠に仲の良い両親と暮らしていたかったのかもしれない。

どちらかと言えば、マザコン気味で母親のことに関しては、最後の最後までこだわっています。
父親は尊敬の対象であり、逃亡生活の中でも常に手紙を送ることは忘れずにいました。
長にわたる孤独な逃亡生活の中で、フランクが常に求めていたのは母性、そして暖かい家庭だったと思います。
そうであるがゆえに映画のクライマックスでは、追い求めていたものに絶望したかのような表情が忘れられない。

子は必ずいつか、親離れする時が来ます。
精神的に、という意味もありますし、社会的にという意味もあります。
日本人の感覚としては「いつまでも仲の良い両親と暮らし続けたい」という願望は、チョット怖いというか、
なかなか受け入れられないメルヘンという感じがしますけど、このクライマックスでフランクが見せた表情は
その全てが幻想であったことに対する絶望を感じて、何とも言えない切ない気分にさせられましたね。

フランクは決して、ネグレクトを受けていたわけではありません。
たぶん、反抗期を迎える時期に、両親を羨望の存在として見て、彼の人格が形成されたのではないかと思う。
そうであるがゆえに、国税庁から追われ事業を辞める羽目になった父親にショックを受け、
母の不貞を許せずに、押し寄せる生活の変化を拒絶したのでしょうし、詐欺師生活への転身はその反動でしょう。

自分の理想であったことが、実はそうではなかったと悟った時こそ、
その反動が大きなエネルギーに転換される可能性があると思います。それくらい彼にとっては大きなことでした。

ただし、ただしだ・・・(笑)。ディカプリオは相変わらず、若々しい。
が、しかし...撮影当時の彼は28歳くらいでしたが、さすがに当時の彼が10代後半のフランクを
演じるにはさすがに無理があると言うか、さすがに年をとり過ぎていましたね。この辺は、もっと考えて欲しかった。

映画の中では、何人かの女性と関係を結ぶニュアンスで描かれていますので、
少なくともフランクは、職業だけでなく年齢も偽っていたわけで、これに気付かれないというのも、なんだか妙だ。
これはディカプリオのルックスだから成立した話しではないのか? 彼は老け顔だったのか?と疑問が広がる。
さすがにフランクと関係する女優陣であるエイミー・アダムスとジェニファー・ガーナーは同世代にしか見えないし。。。

他のキャストで言ったら、フランクの父親を演じたクリストファー・ウォーケンはさすがの存在感だ。
それから、エイミー・アダムス演じる看護師の父親を演じたのが、こちらもベテランのマーチン・シーンだ。
長年の映画ファンであれば、この2人を同じシーンで対峙させて欲しかったなぁという願望があったかもしれませんね。

一方でフランクを追跡するFBI捜査官カールを演じたトム・ハンクスは、当初の想像以上に存在感が弱い。
いつものトム・ハンクスの調子とは違うように見えたので、いささか肩透かしを喰らったような印象だ。

それにしても、有能な犯罪者であるならば、犯罪者心理や手口がよく分かっているはずで、
むしろ警察やFBI側に取り込んでしまうという発想が、如何にもアメリカ的で実に興味深い。
勿論、私も犯罪者の罪状によると思うけど、一方で日本は前科者には厳しいお国柄であることは間違いなく、
犯罪被害者の方々がいる以上、前科者がそう容易く陽の目を見る社会環境になることは好ましくはないでしょう。

しかし、罪を償い、反省の態度と言動が見られる前科者が社会復帰して、
更生するためのプログラムとしては、その前科者の能力が役立つものがあるのであれば、
新たな犯罪を防ぐ、若しくは現在進行中の犯罪の捜査に役立てるということ自体は、あってもいいのではないかと思う。

但し、こういったシステムを運用するのも人間であり、
暴走や悪用を監視する機能も必要になってくるわけで、おそらく賛同は得られにくいだろう。

おそらくスピルバーグも、本作を撮影するにあたっては、
そこまで気張っていたわけではないでしょうけど、私はたまに彼が撮る、こういう作品が好きだ。
勿論、スピルバーグの十八番であるSFも好きなんだけど、作品に楽しんで撮っているような余裕を感じる。
しかも主人公にディカプリオを据えて、どこか甘いタッチのドラマを撮るというのだから、映画ファンにはたまらない。

そういう意味で、このどこか甘い、と言うか緩い作風の映画に賛否はあるでしょう。
確かにこういうのはスピルバーグではないという人の気持ちも、よく分かります。スピルバーグは人を脅かすために
映画を撮り続けているような人で、とにかくスクリーンを通して観客をビックリさせたいと常に思っているから。

でも、そんな人が突然、こんな映画を撮ってしまうのだから、余計に魅力的に映るわけなんですよ。

(上映時間140分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 ウォルター・F・パークス
   スティーブン・スピルバーグ
原作 フランク・W・アバグネイルJr
   スタン・レディング
脚本 ジェフ・ナサンソン
撮影 ヤヌス・カミンスキー
編集 マイケル・カーン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 レオナルド・ディカプリオ
   トム・ハンクス
   クリストファー・ウォーケン
   マーチン・シーン
   ナタリー・バイ
   ジェニファー・ガーナー
   エイミー・アダムス
   ジェームズ・ブローリン
   フランク・ジョン・ヒューズ
   ブライアン・ホウ

2002年度アカデミー助演男優賞(クリストファー・ウォーケン) ノミネート
2002年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
2002年度全米俳優組合賞助演男優賞(クリストファー・ウォーケン) 受賞
2002年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・ウォーケン) 受賞
2002年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(クリストファー・ウォーケン) 受賞