キャッチ22(1970年アメリカ)

Catch 22

正直言って、まるで意味不明な映画なのだが(笑)...
これは理不尽なほどに一方的で、強烈なほどにハレンチな映画ですね(笑)。

第二次世界大戦、真っ只中の地中海付近にある米軍キャンプ。
このキャンプに在籍する兵士たちの多くは、戦争の影響により、既に常軌を逸しており、
常識では考えられない言動、行動を伴っていた者たちばかりが日々、訓練に従事しており、
その中の中年に差し掛かった兵士ヨサリアンを主人公に、数奇なドラマが展開する作品です。

監督は67年に『卒業』を発表し、アメリカン・ニューシネマのムーブメントを巻き起こした、
マイク・ニコルズの監督作であり、やはりニュースネマ・ムーブメントのパイオニアとも言うべき、
個性派な映画監督ならではの独特な作品であり、これはインパクトがひじょうに強い。

しかしながら、未だに僕も、一体、何を描いている映画なのかよく分からないのが難点で、
おそらく本作の熱心なファンから見れば、おろかな見解になってしまうのでしょうが、
この映画、意味不明な内容であるからこそ、猛烈なエネルギーを感じさせるような感じで、
こういう内容であることに、それなりの意味を持たせられている作品と言っていいと思います。

この映画の主人公、ヨサリアンは戦争に行きたくないがために、
軍医に相談して、何とかして精神疾患と診断してもらって、戦争を回避しようとしますが、
軍部は兵士たちのハードルをドンドン下げて、誰でも戦地に送られるようにします。

そして軍医はヨサリアンに、
「自分のことを精神疾患だから危険なので、除隊させてくれ」なんて申し出る奴は、
自分を冷静に見つめることができており、精神状態が正常と判断されるので、
除隊は認められないと言い、ヨサリアンはどうしても軍隊から抜けられません。

しかも、同じキャンプにいるマイローという男は、
何を思ったか、戦争が終わった後の兵士たちの生活を担保するためにと、
キャンプに送られる物資を片っ端から株式に変更し、その株式を一時的に預かるという不可解な行動に出る。

ヨサリアンはじめ、野郎ばかりのキャンプ生活にやさぐれた兵士たちは、
次第に色々な意味合いで欲求不満がたまり、小さなことから異常行動が出始め、
女性が近くにくれば、異常なまでに発情状態。ヨサリアンに至っては、「着たくないから」との理由で、
制服を着ずにほぼ全裸の状態で、勲章を受けるという、常軌を逸した状態が続きます。

同じ年にロバート・アルトマンが『M★A★S★H マッシュ』という風刺映画を撮っていますが、
本作は『M★A★S★H マッシュ』以上に個性的な映画と言っても、いいと思いますね。

さすがにブラック・コメディな映画とは言え、
ここまで観客に対して一方的に、意味不明なストーリーを描き、
正体不明のカタルシスをも感じさせるような内容の映画というのは、本作以外に出会ったことがありません。

この映画は反戦映画というより、戦争に参加したくない人々を描いた映画で、
ひょっとすると、感覚的には『M★A★S★H マッシュ』よりも、『戦略大作戦』の方が近いのかも。
『M★A★S★H マッシュ』と比べたら、本作の方が遥かに上を行く暴走で、エネルギーも凄いんですよね。
特に映画の終盤で、誤って綿を大量に購入してしまい、処分に困ったマイローのご乱心により、
ドイツ軍と取引して、自軍を爆撃させるという、訳の分かんないカオスに至る様子は、あまりに強烈だ。

僕はさすがにマイク・ニコルズがここまで、暴走した映画を撮る人だなんて思わなかったですね。

脚本のバック・ヘンリーは78年の『天国から来たチャンピオン』で監督デビューした、
映画脚本家なのですが、彼自身、俳優として本作はもとより、数多くの作品に出演しております。
正直言って、よく分からない部分がある映画ではあるのですが、おそらく彼のシナリオがもっと酷ければ、
映画は更に訳が分からなくなっていたのでしょうね。そうなると、さすがにここまで評価されなかったと思います。

それと、豪華なキャストが凄い映画ですね。
特に戦地に愛人を連れてくるドリードル将軍を演じたオーソン・ウェルズの登場には驚いた(笑)。
そりゃ凄いオーラの出てる人なんですけど、こんなふざけた映画に出演していたとは(笑)。。。

ちなみに本作にサイモン&ガーファンクル≠フアート・ガーファンクルが出演しておりますが、
当初はポール・サイモンも出演する予定だったらしく、企画段階で配役変更となったらしいです。

サイモン&ガーファンクル≠ヘ70年に大傑作『Bridge Over Troubled Water』(明日に架ける橋)を
発表して、アッサリと解散してしまい、アート・ガーファンクルだけが本作に出演したことが解散の遠因では
ないかと噂され、一時的に話題となりましたが、ポール・サイモンも解散後、映画俳優としての活動を
増やしていただけに、マイク・ニコルズと彼らの間に何が起こったのか、凄く気になりますね(笑)。

本作はアメリカン・ニューシネマ期だからこそ、認められた作品であり、
おそらく5年前の65年であれば、映画化は不可能であっただろう。

かなり猥雑なシーン演出もあって、主人公のヨサリアンは変態だし(笑)、
その流れから、オーアが軍隊からいち早く抜け出すために、何度も墜落の練習をしているというのも
強烈なブラック・ユーモアだし、戦闘機が曲芸飛行をやっていて、海の上に立つ台にいる、
水着姿の男性に突撃して、胴体真っ二つなんて、当時としてはビックリさせられるシーンもあります。

ひょっとすると、今、製作しても「不謹慎極まりない映画だ」と一蹴されるかもしれないが、
こういうのがボンボン出てくるほど、やっぱりアメリカン・ニューシネマの時代って、刺激的だったんだなぁ。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マイク・ニコルズ
製作 マーチン・ランソホフ
    ジョン・キャリー
原作 ジョセフ・ヘラー
脚本 バック・ヘンリー
撮影 デビッド・ワトキン
出演 アラン・アーキン
    マーチン・バルサム
    リチャード・ベンジャミン
    オーソン・ウェルズ
    アート・ガーファンクル
    ジャック・ギルフォード
    アンソニー・パーキンス
    マーチン・シーン
    ハリー・ディーン・スタントン
    ジョン・ボイト
    ポーラ・プレンティス
    エリザベス・ウィルソン
    バック・ヘンリー
    ボブ・バラバン
    チャールズ・グローディン