キャスト・アウェイ(2000年アメリカ)

Cast Away

これは劇場公開当時、大きな話題となった不慮の航空事故で無人島へ不時着し、
4年間もの長期間に亘り、単独で無人島のサバイバル生活を送った、FedEx社の社員を描いたドラマ。

監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで知られるロバート・ゼメキスで、
この圧倒的なスケールと、相変わらずのトム・ハンクスの気合の入った役作りのおかげで
実に見応えのある、他には真似できない映画に仕上がっている。作り手も相当な手応えがあった作品でしょう。

まぁ、当時から話題となっていましたが、映画製作のスポンサー企業であるがゆえ、
仕方がないのかもしれませんが、映画の中身が完全にFedEx社の広告になっているのは賛否が分かれるところ。
ただ、ある意味では実在するFedEx社という名前を前面に出して展開しただけあって、説得力も生まれたでしょう。

別にノンフィクションの映画化というわけでもなく、あくまでフィクションなのにFedExも理解がありますよね。
だって、死亡者を発生させるような航空機墜落事故を企業名を出して、映画の中で描くのですから。

また、撮影当時大きな話題となりましたが、主演のトム・ハンクスの役作りはスゴいものがある。
93年の『フィラデルフィア』、94年の『フォレスト・ガンプ/一期一会』に続いて、早くも3回目のアカデミー主演男優賞かと
騒がれただけあって、墜落事故前と墜落後の無人島生活、そして帰還後のエピソードと3回に分けて撮影していて、
それぞれのステージで体型や風貌を変えて大熱演しています。僕は3回目の受賞があっても、おかしくなかったと思う。

映画が始まって30分で、早くも事故に見舞われて主人公は一人になってしまいます。

飛行機は予定航路から外れてしまい、フィジー沖にある謎の無人島に流れ着いてしまったようだ。
一緒に流れ着いたのは、救命胴衣など僅かな物品だけで、食料品も便利なものは何一つ無い。
一介のエンジニアにしかすぎなかった主人公でも、生き延びるためにありとあらゆる手を尽くそうとします。

ココナッツから何とか栄養を得ようとしたり、火を起こそうとしたり、SOSのサインを大きく作ったり、
主人公は色々なことをやりますが、この無人島には誰一人寄り付くことがなかったせいか、助けは一向に現れません。

流れ着いたFedExの荷物の中にあった、“ウィルソン”と名付けたボールを相棒に見立て、
主人公は“ウィルソン”を話し相手にして、なんとか孤独な心を奮い立たせようとします。そこから4年間という時間、
想像を絶する長い長い孤独な時間を、一人でこの無人島で過ごしますが、やはりこれは精神を病んでもおかしくない。
肉体的に生き延びることすら難しい状況の中で、この孤独...精神的にも壊れてしまわないよう過ごしたのでしょう。

それでも、徐々に追いつめられていく主人公はこの無人島は出ない限りは、
生き延びることができないと考え、自作のイカダを製作して、大海原に出る決心をするのです。
この決断はとても大きい。状況的に、どう考えても海に出てしまった方が、絶望的な状況に見えるからです。

どうしても現実に置き換えて考えてしまうからイヤなものですが(笑)...
主人公は飲料水がまともにゲットできない環境で、よくこれだけのサバイバル生活に挫けずに生き延びましたよ。
その上、映画で描かれたような孤独な環境で、欠落し失った時間が大きいからこそ、帰還後も難しいわけで。

映画はCGをふんだんに使っていますが、さすがはロバート・ゼメキスのプロダクションの仕事だ。
クオリティが高い。自作のイカダで大海原に出た主人公に、次々と大波が押し寄せる映像表現などは、
大迫力の臨場感溢れる描写で、これは素晴らしい仕事だ。同じ時期にウォルフガング・ペーターゼンが監督した、
『パーフェクト ストーム』なんかも同じようなシーン演出がありましたが、その迫力は本作に及ばぬものでした。

ありとあらゆる手を尽くしても、誰からも見つけてもらえないのは、この上なくやるせないことだろう。
会えぬ恋人ケリーとの再会を糧(かて)に、主人公はなんとか諦めずにサバイバル生活を続けますが、
それも限界を迎えて大海原へ出るわけで、絶望的な状況になった時の人間の決断力が高まるのを感じさせますね。

映画は前半の約30分が事故前のエピソード、その後約75分がサバイバル生活の描写、
ラスト約35分が帰還後のエピソードというバランスですが、意外に帰還後のエピソードのウェイトが高かったですね。

ロバート・ゼメキスもホントは帰還後のエピソードに力を入れたかったのかもしれません。
映画の実際の撮影もストーリー順に撮影されたらしく、サバイバル生活の撮影後、インターバルを空けて
帰還後のエピソードを撮影したようで、わざわざトム・ハンクスの準備ができるのを待っていたようですから、
やはり恋人ケリーとの微妙な関係については、作り手も本作の大きなキー・ポイントであると思っていたのでしょうね。

確かに、ケリーは長く捜索したものの遭難した主人公が見つからなかったために、
葬儀までやって、主人公との日々を忘れるために、新たな人生を築いていたわけですからね。
ケリーとの再会を糧(かて)にサバイバル生活を耐え抜いた主人公からすれば、この再会はとてもツラいものですよね。

本作の優れたところは、こういったエピソードを描くことで、単なるサバイバル・ドラマに終わらせなかったところで
特に耐え切れずにケリーの自宅まで、主人公が会いに行ってしまうシーンの切なさは、本作のハイライトだろう。

こういうところまでしっかり描けたという点では、ロバート・ゼメキスが成熟したことの証明かもしれない。
個人的にはロバート・ゼメキスには遊び心を忘れて欲しくないのだけれども、この頃はドラマも撮れるということを
証明しているし、実写映画ではやり尽したという感覚があったのか、この後はモーション・キャプチャーがメインに。

2時間を大きく超える上映時間ではありますが、良い意味で見応え十分でありながら、
これはアッという間の143分。一気に見せてしまうのは実に見事で、全くダレることなく構成できている。

主人公のサバイバル生活があまりに障害少なく成立してしまうことは気になりましたが、
それを除けばバレーボールの“ウィルソン”との精神的なつながりなど、色々と工夫しながら描いていて魅力的だ。
さすがに4年間という壮絶なまでに長過ぎる無人島での生活を耐えしのぐには、こういう“仲間”は必要不可欠だろう。
それもこれも恋人ケリーとの再会を夢見ていることが原動力であったはずで、だからこそ本作の終盤は切ない。

個人的には、どうせ帰還後のエピソードにそれなりに時間を割くのであれば、
もっと主人公とケリーの葛藤に迫る部分があっても良かったとは思うかな。死んだと思ったかつての恋人が無事に
帰還してきたわいいものの、新たな人生を歩み始めている難しさ。一方、夢にまで見た愛する恋人との再会を果たすも、
その恋人は新たな人生を歩んでいる姿を目の前にする。適当な言葉ではないかもしれないが、現実は残酷だ。

時の経過は止めることができるわけでも、戻すことができるわけでもない。
だからこそ、時として現実は残酷なものに見えることがある。これは本作の一つのテーマでもあると思うので、
もう少し掘り下げても良かったような気はしますね。ロバート・ゼメキスだったら、もっと上手く描けたはずです。
(そういう意味では、主人公の恋人ケリー役のヘレン・ハントは少し物足りなかったかも・・・)

とは言え、これはロバート・ゼメキスとトム・ハンクスがタッグを組んだから実現した作品だと思う。
また、ドン・バージェスのカメラも素晴らしい。人選からして、適材適所で実に的確なものだったということでしょう。

自分が主人公と同じ立場に置かれたら、仮に墜落事故で生き延びたとしても、
無人島でサバイバル生活なんて、到底無理だろうなと思った(笑)。ここまで気力・体力はありませんね。
ホントに自分だけの環境で、何から何まで自分でやらなければ生きられない生活を4年間なんて、想像を絶する。
その間、病気もできないし、贅沢はおろか、怠けた生活など送れないし、常に危機意識を高めておかなければならない。

こういうときに、特別な力を発揮できる人こそ、きっとホントに強い人間なのだろうなぁ。

(上映時間143分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロバート・ゼメキス
製作 トム・ハンクス
   ジャック・ラプケ
   スティーブ・スターキー
   ロバート・ゼメキス
脚本 ウィリアム・ブロイルズJr
撮影 ドン・バージェス
音楽 アラン・シルベストリ
出演 トム・ハンクス
   ヘレン・ハント
   クリストファー・ノース
   ニック・サーシー
   ナン・マーティン
   ドミトリ・ボードリン

2000年度アカデミー主演男優賞(トム・ハンクス) ノミネート
2000年度アカデミー音響賞 ノミネート
2000年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(トム・ハンクス) 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(トム・ハンクス) 受賞