007/カジノ・ロワイヤル(2006年アメリカ・イギリス合作)

Casino Royale

6代目ボンドに就任した、ダニエル・クレイグによるシリーズ第21作。

これまでのシリーズのカラーからも、少し変えてきたようで、
やたらとダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドはストイックに見える。
これまでのボンドとは一線を画すカッコ良さで、新たな女性ファンが増えることは間違いないだろう。

監督は95年の『007/ゴールデンアイ』でもメガホンを取ったマーチン・キャンベルで、
11年ぶりの“007シリーズ”の監督となりましたが、無難な作りになっているのは、良い意味で安心できる。

言ってしまえば、本作はボンドが殺しのライセンスである“00”の番号が与えられて、
間もない頃という設定であり、実は67年にピーター・セラーズ主演で一度、映画化されている。

今回はボンド・ガールにエヴァ・グリーンを配役して、
ボンドが心から女性に魅了されてしまうというストーリー展開が異色ではあるのですが、
映画の終盤の展開には、ボンドが英国諜報部員として活躍できる理由が語られている。

少し内容が説明的になっているせいか、ストーリーの進行が遅く、
上映時間が2時間を大きく超えてしまうという長さで、どうしても映画の印象が悪くなってしまうのですが、
一番、僕が注文を付けたかったのは、如何にも“007シリーズ”らしいアクション・シーンの少なさですね。

おそらく現時点で、シリーズで一番、アクション・シーンが少ないのではないでしょうか。
せっかくダニエル・クレイグのような肉体が引き締まった役者をボンドに据えたのにも関わらず、
エキサイティングなアクション・シーンは映画の前半に1回、終盤にもう1回ある程度で、どうも物足りない。
“007シリーズ”特有の、アイテムを使ったアクション・シーンも皆無に等しく、カー・チェイスも少ない。
シリーズ通して考えれば、確かにこの作品の位置づけは、とても重要なのですが、物足りなさを感じましたね。

まぁ・・・次作『007/慰めの報酬』への序章でもあるのですから、
次作とセットで考えなければいけない作品だとも思うのですが、それにしてももっとシリーズの醍醐味を
しっかり味わえる、エキサイティングな作品として最低限の役割は果たして欲しかったというのが本音ですね。

ましてやダニエル・クレイグの屈強な肉体を観ると、
アクション・シーンで活用しないのは、あまりに勿体ないと思えてならないことは言うまでもありません。

映画の冒頭で、一人の黒人男性をひたすら追跡するアクション・シーンがあるのですが、
これが超人的な跳躍を見せて逃亡する黒人男性を、ただひたすら執念で追い続けるボンドという構図が、
とても見応えがあって、時間的にもたっぷり長めにとっていたこともあって、素晴らしかっただけに、
この冒頭のアクション・シーンに次ぐ、魅力的なアクションの見せ場を作れなかったことは致命的だと思いますね。

それでいて、上映時間が異様に長くなってしまったものだから、余計に印象を悪くしています。

もう一つ注文を付けるならば(笑)、
映画の主題の一つでもある、カジノに関する描写にもっと緊張感を出して欲しかった。
ほぼボンドとル・シッフルの直接対決がメインに描かれるわけで、1億ドルを超える賭け金なわけですから、
もっと手に汗握るような緊張感みなぎる駆け引きが表現できないと、何の意味も無いと思うんですよねぇ。

そういう意味で、ル・シッフルにあまり大きな見せ場が無かったというのも、いささか拍子抜け(苦笑)。
ひょっとしたら、過去、最も扱いの悪かった悪役キャラクターになるのではないでしょうか?

主演のダニエル・クレイグは、過去のボンドには無かったストイックさとクールさを持ち、
とかくボンドと言えば、女ったらしというイメージが強かったが、彼が演じたボンドは女性にそこまで優しくない。
そうであるがゆえ、ボンドがエヴァ・グリーン演じるヴェスパーに本気で恋する姿にギャップがあるのですが、
僕は彼が頑なに演じ続けた、新たなボンド像はとても新鮮で、とても良かったんじゃないかと思いますね。

従来のショーン・コネリーの女ったらしっぷりもボンドらしさだし、
ロジャー・ムーアのギャグ路線も、ティモシー・ダルトンの典型的なスパイっぽさも、
ピアース・ブロスナンのスマートさも、いずれもボンドらしさとして取り込まれてきたものであることを考えれば、
本作でダニエル・クレイグが示した感覚も、また新たなボンドらしさとして容易に受け入れられるでしょうね。
(まぁ・・・一作のみだったため、ジョージ・レイゼンビーは蚊帳の外だけど...)

随分と行動も、バイオレントで初めての殺しを経験するシーンにしても、
手慣れたプロって感じではないが、彼が演じるボンドはどちらかと言えば、直情的だというスタンスを
強く本作で打ち出しているのは良かったと思いますね。これはマーチン・キャンベルの強い意志の表れでしょう。

そういう意味で、映画の作り方には一貫性が感じられるのは良いですね。
マーチン・キャンベルも、『007/ゴールデンアイ』でそこそこ良い仕事をして評価されただけに、
本作での仕事もかなりの期待を背負っていたと思うのですが、見事に応えてはいますね。

前述したように、冒頭のアクション・シーンは素晴らしい出来。
アクション・シーンの少なさが不満ではありますが、VFXなどを駆使した人間離れしたアクションを卒業し、
本作というか、ダニエル・クレイグが演じるボンドは、とても人間らしい部分を強調するコンセプトのようだ。
一見すると、時代に逆行しているような気もするが、僕は映画の本来的な醍醐味を追求しているようで、
マーチン・キャンベルが目指した本作でのアクションの方向性は、決して間違ってはいないと思いますね。

ジャンカルロ・ジャンニーニ演じるマティスの存在もミステリーとして残しているが、
この辺は次作『007/慰めの報酬』とのつながりで、大きなポイントとなる存在でしょう。

何故に、ここにきて“007シリーズ”の一番、最初の原作を再映画化したのか、
その理由が分かるようで分からなかったのですが、67年にピーター・セラーズ主演で映画化したときは、
製作権を巡って訴訟沙汰になるなど、いわくつきの映画化だったということで、仕切り直したかったようですね。

せっかく、そんな記念すべき一作だったにも関わらず...主題歌がなんか、合ってないのが気がかり・・・(笑)。

(上映時間144分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マーチン・キャンベル
製作 バーバラ・ブロッコリ
    マイケル・G・ウィルソン
原作 イアン・フレミング
脚本 ニール・パーヴィス
    ロバート・ウェイド
    ポール・ハギス
撮影 フィル・メヒュー
編集 スチュアート・ベアード
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ダニエル・クレイグ
    エヴァ・グリーン
    マッツ・ミケルセン
    ジュディ・デンチ
    ジェフリー・ライト
    ジャンカルロ・ジャンニーニ
    シモン・アブリカリアン
    イワナ・ミルセビッチ

2006年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞