カポーティ(2005年アメリカ)

Capote

個人的には、あまり感心しないタイプの映画ではありましたが...
それでも、このベネット・ミラーという新進気鋭の映像作家、たいしたもんだと思う(笑)。

いや、いきなり高飛車な意見で恐縮なのですが...
これがデビュー作だというから驚きなもんで、凄過ぎて鼻に付く、そんな映画でしたね(苦笑)。

映画を支えているのは、フィリップ・シーモア・ホフマンの独壇場的な芝居。
数多くの出演者がいますが、彼だけ違う次元で芝居していることは否定できません。
チョット彼がやり過ぎてしまったのは、完璧に「分かる人にだけ分かるモノマネ」みたいになっちゃった点だ。

決して悪い芝居ではないし、そりゃオスカーを獲ったぐらいで、その価値は十分にある仕事です。
実在したトルーマン・カポーティの生前の映像を観たことがある人なら、彼の芝居がどれぐらい似ているか、
それがよく研究されていて、怖いぐらいのレヴェルにまで達していることに気付いた人も数多いだろう。

映画は84年に他界し、『ティファニーで朝食を』などを書いた
実在の小説家トルーマン・カポーティが彼の代表作である『冷血』を書き上げるまでを描いた作品であり、
生前はマスコミへの露出も多く、私生活がセンセーショナルだったトルーマン・カポーティらしい、
スキャンダラスな一面と、まるで対照的に彼が抱えていた孤独に触れていますね。

そう、この映画、タイトル通り、
トルーマン・カポーティの生涯にクローズアップしたという意味では、
ひじょうに優れた作品であり、ベネット・ミラーの演出力の高さも特筆に値します。

トルーマン・カポーティと言えば、トンデモない大酒飲みだったということと、
ホモセクシャルであったということで、映画の中でも、しっかりと触れられています。
特に注目したいのは、映画の序盤にクリス・クーパー演じる刑事と最初に接触するシーンで、
刑事はトルーマンを見て、突然、「オレは違うよ」と言い、思わずトルーマンは「何が?」と聞き返します。
このやり取り、思わず刑事がトルーマンの性癖に牽制したのかと思わせられる一方で、
トルーマンが自身の性癖をコンプレックスに抱え、過剰反応してしまったのかとも解釈できます。

実に多様なニュアンスのある映画に仕上がっているのですが、
最後の最後まで、実に落ち着いた映画に収めたのは、ベネット・ミラーの上手さだと思いますね。

実在のトルーマンは第二次世界大戦後、自身が小説家として成功し、
毎夜の如く、セレブリティのパーティに顔を出し、ド派手な生活が話題となりましたが、
『冷血』を書き上げた後、突如としてスランプに陥り、小説を書けなくなってしまいました。
結果として、アルコール依存症とドラッグ中毒に起因する心臓発作を起こして84年に急死するまで、
彼は一作も書くことができず、マスコミに露出するたびに、徐々に意味不明な発言や
数々の奇行を露わにするうち、彼の晩年はゴシップにまみれ、評価を下げることとなってしまいます。

映画ではトルーマンの影の部分にスポットライトを当てることによって、
トルーマンが『冷血』の執筆にあたって、より精神的な混乱を増長させてしまい、
よりアルコールやドラッグに対する依存が深まっていくことを示唆的に描けていますね。

ただ...やっぱり僕はこれがデビュー作ってのは、感心しないんだなぁ。
前述したように、勿論、映画としては良く出来ているし、素晴らしいんですよ。

僕が手放しで、この映画を賞賛できないのは、何となく評論家筋の顔色をうかがったような面を感じること。
僕の考え過ぎなんだろうけど、どことなくこの映画の姿勢が素直に感じられないのが、気になるんですよね。

もう一つ、この映画で大きなポイントとなるのは、
『アラバマ物語』の原作者である女流作家ハーパー・リーの存在だ。
元々、トルーマンとハーパー・リーは幼馴染だそうで、お互いに幼少時代の隣人だったそうだ。
お互いに小説家としてデビューしてからも交流があり、実際にトルーマンが『冷血』の取材旅行では、
ハーパー・リーも記録係として同行しており、『冷血』は彼女に献呈したとのことです。

この2人は実に複雑な人間関係だったようで、
『アラバマ物語』が映画化されたときの試写会にトルーマンが招待されたものの、
トルーマンは精神的にドン底の状態で、バーで飲んだくれていたところ、
ハーパー・リーに映画の感想を聞かれて、「騒ぐほどの出来じゃない」とつぶやくシーンが印象的ですね。

それと併せて、この映画の大きなミステリーは
何故、トルーマンがドキュメントした一家惨殺事件の犯人に大きく入れ込んだのかということだ。

それは彼のジャーナリズムに基づく動機であったのか、
彼の性的嗜好に基づく動機であったのか不明瞭なところなんですが、これをボカして描いているのは上手い。
そこでハーパー・リーの言葉がラストに鮮烈に突き刺さります。「あなたは救いたくなかったのよ」と。

まぁ凄い映画なんだけど・・・
最初っから、こんな内容だってのは、あんまり感心しないなぁ。
ベネット・ミラー、いきなりこんな映画を撮ってしまったら、この後、大変だろうに・・・。

とまぁ・・・余計な心配すらさせてしまう、デビュー作とは思えぬ出来。
しかしながら、これは観る人を映画の方から選んでしまう作品だろう。
実在のトルーマンを知らぬ興味のない人には、この映画、正直言って、チョット苦痛だと思う。。。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ベネット・ミラー
製作 キャロライン・バロン
    マイケル・オホーヴェン
    ウィリアム・ヴィンス
原作 ジェラルド・クラーク
脚本 ダン・ファターマン
撮影 アダム・キンメル
編集 クリストファー・テレフセン
音楽 マイケル・ダナ
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン
    キャサリン・キーナー
    クリフトン・コリンズJr
    クリス・クーパー
    ブルース・グリーンウッド
    ボブ・バラバン
    エイミー・ライアン
    マーク・ペルグリノ
    アリー・ミケルソン

2005年度アカデミー作品賞 ノミネート
2005年度アカデミー主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度アカデミー監督賞(ベネット・ミラー) ノミネート
2005年度アカデミー脚色賞(ダン・ファターマン) ノミネート
2005年度全米俳優組合賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
2005年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度ニューヨーク映画批評家協会賞新人監督賞(ベネット・ミラー) 受賞
2005年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(キャサリン・キーナー) 受賞
2005年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(ダン・ファターマン) 受賞
2005年度ボストン映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度シカゴ映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度ワシントンDC映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度サウスイースタン映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演女優賞(キャサリン・キーナー) 受賞
2005年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度サンディエゴ映画批評家協会賞監督賞(ベネット・ミラー) 受賞
2005年度サンディエゴ映画批評家協会賞脚色賞(ダン・ファターマン) 受賞
2005年度ユタ映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度フロリダ映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度カンザスシティ映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度アイオワ映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度トロント映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度トロント映画批評家協会賞助演女優賞(キャサリン・キーナー) 受賞
2005年度バンクーバー映画批評家協会賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度インディペンデント・スピリット賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞
2005年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(ダン・ファターマン) 受賞
2005年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(フィリップ・シーモア・ホフマン) 受賞