キャデラック・マン(1990年アメリカ)

Cadillac Man

ニューヨークの高級車専門店に勤めるジョーイ。
彼は別れた妻と娘に、養育費も支払わずに、別れた家族との関係が上手くいっていない。

私生活ではマフィアから借金をし、次から次へと女性と関係を持ち、
その中には金持ちの妻もいて、雪だるま式に悩みが膨らんでいたところ、
元々、営業成績が芳しくなかった彼はリストラの対象となり、一日で車を10台以上売らなければクビになることに。

そんな中、同じ車屋に勤務する女性の亭主が、
妻の不貞を疑い、ライフルと爆弾を携えて、営業中の店舗へ乗り込んでくるサスペンス・コメディ。

監督は87年に『追いつめられて』がなかなか面白かったロジャー・ドナルドソン。
彼はできるんだか、イマイチなんだか、その手腕がよく分からない映像作家の一人で、
彼の監督作品はいつも判断に困るのですが(苦笑)、本作はどうにも良くなかったですね。
正直言って、彼にコメディ映画は難しかったようで、明確な笑いどころもよく分からない内容で残念でした。

80年代は良質なコメディ映画が、実は数多く製作された時期ではあるのですが、
やはり時代の流れにあやかることができなかったのか、作り手の腕がかなりモノいってますね(笑)。
ロジャー・ドナルドソンって、コメディ映画をほとんど撮ったことがないだけに、経験の乏しさを痛感する。

が、しかし...オリジナルのシナリオを読んだわけではないが(笑)、
これって、映画化するだけの魅力を持ったストーリーだったのだろうか?と疑問に思うんですよね・・・。

ロビン・ウィリアムス主演で、ほぼ彼の独壇場とも言うべき、
全編出ずっぱりで、お得意のマシンガン・トークも繰り出しているのですが、
結果的にそれだけで映画を救うことはできませんでしたね。ほとんど空振り状態なのが、虚しい・・・。

いくらキャストが頑張っても、ひたすら空回りしてしまうような感じなんですよね。
それは立て籠もり犯を演じたティム・ロビンスにしても同様。かなり危ない精神状態を表現するのですが、
何をしでかすか分からない籠城犯の恐ろしさがあるわけでも、ズレた面白さがあるわけでもなくって、
どれを取っても中途半端な存在に終わってしまっているのが、ただただ勿体ないですね。

これって、ある意味で“ストックホルム症候群”をテーマにした映画のような気がするんですが、
最終的には主人公にとって、都合良くエンディングを迎えるって展開にしたのは巧かったですね。

なんか、途中で『狼たちの午後』みたいなストーリー展開も見え隠れしたりして、
いろんな映画のパロディをしたみたいなところもあるのですが、ロジャー・ドナルドソンはどこか真面目ですね。
常にエンディングを意識しながら映画を撮っているみたいで、どこかコメディ映画に必要な爆発力を
映画の中で持てずに終わってしまったという、例えは悪いが、残尿感みたいなものが残りますね(笑)。

映画の冒頭で見られた、主人公のジョーイが車の助手席に向かって、
カメラに問いかけるような手法もユニークではあるのですが、特に大きな意味はなく、
出すだけ出しておきながら、どこかアイデア倒れという感じで終わってしまったのも、なんだか勿体ない。

もう少し、この映画の中でロジャー・ドナルドソンが何をしたかったのか、
もっとハッキリとした形で表現して欲しかったですね。この映画、そういうビジョンに欠けている気がします。

ロビン・ウィリアムスのマシンガン・トークに任せるにしても、これは中途半端ですね。
得てして、こういう映画は共演のティム・ロビンスのような存在で、怪演を引き出すものですが、
本作のティム・ロビンスにしても、どこか良い意味で爆発し切れない、中途半端さが残るんですよね。
(本作製作当時、既にティム・ロビンスはハリウッドでも注目の存在であったことは間違いないはず・・・)

この映画、コメディ映画としての魅力も欠けているのですが、
最低限の描写と意味合いで、主人公ジョーイをもっと描き込んでいれば、良くなったと思う。
この映画を観る限り、ジョーイがどれぐらい車のセールスの腕に長けていて、
ありとあらゆる女性と不倫関係になる、自堕落さは理解できるものの、それぐらい男性的な魅力に溢れる、
その理由がよく分からないのです。少なくとも、彼が女性からモテなければ、こうはならないはずなんだから。

まぁ・・・ある意味で、これは漫才映画のようでもあり、
ロビン・ウィリアムスがツッコミで、ティム・ロビンスがボケをかますといった具合で、
日本的な映画という解釈もできますが、それならば2人のコンビをもっと早く出して欲しいですね。
上映時間は1時間37分しかないのに、本論に入るまでに映画の最初の35分使うのは、いただけません。

意味ありげに、車屋の向かいにあるチャイニーズ・レストランを幾度となく登場させるのですが、
この存在もコメディ・リリーフになることなく、ただ単に警察の捜査拠点になるだけだし、
映画の冒頭で描かれる、故障した霊柩車に商談を吹っ掛けるエピソードも、予想外に活きてこない。

担当刑事が、どうも事件を本気で解決する気があるのか、よく分からないというのは面白かった。
最後の最後で、ジョーイも快く思っていなかった、その刑事に車を売り込むというのも悪くはない。
しかし、そんな良さも、どことなく爆発し切れなかった映画の不発な感覚に押し潰されてしまったようですね。

ある意味で、ジョーイが事件を解決するためにか、
それとも自暴自棄になっただけなのか、その真意はよく分かりませんが、
店の女性店員ドナを寝取ったと宣言して身代わりになるというのは、彼なりの善行なのかもしれませんが、
それがラストには結実するということになれば、ジョーイの勇気は事件解決の原動力だったということになる。
こういうことを描いているということは、実は本作って、凄く道徳的な映画だったのかもしれませんねぇ(笑)。

これは企画の段階から、どこまで魅力的だったのかは分かりませんが、やはり映画化するにあたって、
凄く難易度が高かったことは間違いなく、当時のロジャー・ドナルドソンには難し過ぎる企画だったのかも。

これが当時なら、フランク・オズあたりが撮っていれば、映画は違ったかもしれませんが、
ロジャー・ドナルドソンにとっては、彼の腕を上げるためにも、本作へのチャレンジは必要だったのかもしれない。
但し、僕の知る限り、本作の後の監督作品を観るに、本作での経験は特に活きていないですね(苦笑)。

熱心なロビン・ウィリアムスやティム・ロビンスのファンにはオススメできますが、
単純にコメディ映画を観たいという人には、あまり強くオススメできないというのが本音ですね・・・。

(上映時間97分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ロジャー・ドナルドソン
製作 チャールズ・ローヴェン
    ロジャー・ドナルドソン
脚本 ケン・フリードマン
撮影 デビッド・グリブル
音楽 J・ピーター・ロビンソン
出演 ロビン・ウィリアムス
    ティム・ロビンス
    パメラ・リード
    フラン・ドレジャー
    ザック・ノーマン
    アナベラ・シオラ
    ロリ・ペティ
    エリック・キング