明日に向って撃て!(1969年アメリカ)

Butch Cassidy And The Sundance Kid

賛否が分かれる名作ではありますが、個人的にはジョージ・ロイ・ヒルの持ち味が
良い方向に機能した作品ではないかと思っていて、実に味わい深い西部劇であると思っています。

微妙なところではありますが、やはり本作のアメリカン・ニューシネマの代表作品として数えられ、
確かに激しいガン・アクションや、クライマックスのボリビアで2人がとてつもない人数の現地警察に包囲されたり、
ヒロインである女性教師を演じたキャサリン・ロスを、まるでブッチとキッドが“共有”しているかのような、
それまでの映画界では描いてこなかったアプローチがある点では、目新しさがある作品ではあります。

特にガン・アクションについては、思いのほか直接的な描写も多くあって、
67年の『俺たちに明日はない』から続く、ハリウッドのニューシネマ・ムーブメントの大きな潮流を感じさせる。
そこをジョージ・ロイ・ヒルの楽天的なユーモアを交えた、まるで“照れ隠し”のような演出もあって、そうは感じさせない。

この辺の調和が実に見事なものであり、これらの組み合わせが上手くいかなかったら、
映画は酷い出来になってしまいがちですが、本作は決してそうはならずに、上手い具合の調和を見せている。
やっぱりポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビというのは、当時では最高のコンビなのだろう。
そこに絡んでくるのが、当時、人気絶頂のキャサリン・ロスが2人の恋人のようないるなんて、良いキャスティングです。

この、ジョージ・ロイ・ヒルの演出が好きになれない人もいるだろうけど、
もう廃れてしまった文化や雰囲気を、独特なユーモアを交えつつも、何とも言えない哀愁を感じさせるという、
現代の映画界ではなかなか見られないタイプの映画を撮れる人であって、これはこれで彼の個性だったと思う。
本作は彼の代表作の一つですが、どちらかと言えば、73年の『スティング』の方が人気があるのかもしれません。

ただ、僕はこれはこれで個性と割り切ってしまったところはあるけど、それでも気になるところはある。
例えば、映画の前半はブッチとキッドが延々と謎の追跡者に執拗に追われるシーンが続くのですが、
これが追跡者のことを一切描こうとしないので、なんだか緊張感が高まらない。追われる側の心理は描くが、
何をしでかすか分からない、というような追跡者の恐ろしさが希薄なので、この前半が冗長に感じられてしまう。

それから、キャサリン・ロス演じるエッタをブッチとキッドがまるで“共有”しているかのような感覚を
西部劇の中で描くことは、当時としては新しかっただろうとは思うが、もっとエッタにクローズアップして欲しかった。
ボリビアに行ってからは少しだけ絡んでくるが、基本的に映画の前半はほぼ不在になってしまうのが、とても残念。

そして、特に映画の中盤、ボリビアへ行く3人を表現するシーンで、
途中立ち寄ったニューヨークで豪遊するのを、お得意のセピア色のストップモーションの連続で表現するのですが、
これも長過ぎる。せっかく新感覚の西部劇をやろうという気運が高い作品なのに、こんなに弛緩してしまうのは残念。

映画は実在の人物である、ブッチ・キャシティとサンダンス・キッドという2人の実在の人物をモデルに
ウィリアム・ゴールドマンが執筆した脚本を映画化したようですが、どこまでが実話なのかは分かりません。

ボリビアに渡って警察に包囲されて死んでしまったらしいのですが、
仮にこの映画の通りだとしたら、ブッチとキッド、もっと言えばエッタを含めて彼らはただの無法者です。
ブッチは口々に「もうオレは年をとり過ぎているんだ」と言っていて、実際に中年男性となっていたわけですが、
言ってしまえば、遅すぎる青春を描いた作品とも言えるのでしょう。ブッチとキッドの関係性は、まるで兄弟のようだ。

そう思って観ると、キャサリン・ロスとの三角関係は余計にフクザツですが・・・。

銀行強盗や列車強盗から足を洗おうと宣言し続けますが、ブッチとキッドは結局、なかなか辞められません。
そういう意味では、どう見てもボリビアへ移住したときが辞め時だったのですが、結局は強盗家業に転じてしまう。
これは彼らの性(さが)だったのでしょう。勝手も法律も、言葉も分からないボリビアでいきなり銀行強盗なんて、
あまりに無謀な行動ですが、後先考えずに行動に移してしまうあたりが、強烈なまでに刹那的に映りますね。

この辺もアメリカン・ニューシネマにカテゴライズされる所以なのでしょうが、
べつにジョージ・ロイ・ヒルには新しい映画を撮ろう!なんて気概は一切なかったでしょうから、
ひょっとしたらアメリカン・ニューシネマと言われることはジョージ・ロイ・ヒルにとって心外だったのかもしれませんね。

何よりニューシネマと言われるのは、あまりに有名なラストシーンのストップモーションでしょう。
確かにこのラストシーンのインパクトは大きいし、ブッチとキッドの行く末を暗示している、実に“映える”ラストだ。
ただ、ストップモーションではなく、キチッとド派手に描いた方が良かったのではないかと思いますがねぇ。
この辺は作り手も、『俺たちに明日はない』のラストの二番煎じになることは嫌ったのかもしれませんが。。。

バート・バカラック作曲の Raindrops Keep Fallin' On My Head(雨に濡れても)があまりに有名ですが、
新しい乗り物だとセールスマンが言っていたので、新しもの好きのブッチが買ってきた自転車に使って、
エッタと2人乗りしたり、ブッチが曲乗りしたりとコミカルなシーンが映画の前半にありますが、これは“浮いて”いる。

正直言って、べつに無理して...このシーンを入れなくとも良かったのではないかと思いますけどね・・・。

とは言え、本作が誕生したことでポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビが
映画ビジネス上、大きなコンビになったことや、映画にインパクトを持たせるツボを押さえているあたりが的確で
僕はそれだけでも本作は映画史に名を残す価値ある名作だと思います。こういう映画はなかなか作れません。
(本作との出会いがなければ、ロバート・レッドフォードはサンダンス国際映画祭を企画しなかったでしょう)

実際はどうだったのかは知りませんが、本作で描かれるブッチは人を殺したことがないと言っています。
結局は強盗をやらないと生きていけない男なのですが、列車強盗を繰り返したことで鉄道会社の社長を
怒らせてしまったことがブッチの運の変わり目。金を奪われた鉄道会社の社長が凄腕の刺客を送り込むわけです。
当然、凄腕の刺客に多額の報酬を支払うわけで、それを知ったブッチは「その金をくれれば強盗を辞めるのに!」と
まるで自分勝手な主張を繰り広げるので、道徳的にはアレですが、僕にはこの辺がシュールな面白さだと感じた。

まぁ、ユーモラスに描いてはいますがコメディ映画というわけでもなく、ニヤリとさせられる映画というわけではない。
ただ、ブッチとキッド、エッタの不思議な三角関係にしてもそうですが、少しずつ新しい感覚を採り入れている作品だ。
時代性もあったのでしょうが、悲劇的な物語であるにも関わらず、悲観的になり過ぎないようにしたのかもしれない。

僕はアメリカン・ニューシネマ期の映画が好きなんだけど、個人的には本作はそこまでという感じではない。
同じ年に製作された西部劇としてなら、ペキンパーの『ワイルドバンチ』の方が新感覚西部劇という感じだし、
ニューシネマとしてなら『真夜中のカーボーイ』の方が、いろんな意味で映画の質感がニューシネマっぽい。
どうしても本作は『俺たちに明日はない』の男同士のバディ版で、マイルドな描写にしたという印象になるのですが、
ジョージ・ロイ・ヒルの楽天的な描写と妙な味わいのある作品に仕上がっているところが、本作の特長だと思いますね。

そんな楽天的に描きながらも、どこか冷めたようにブッチとキッドを突き放して描くのも印象的だ。
だからこそ、クライマックスのストップモーションが映えるところはあると思うのですが、あくまでアウトローの物語と
映画の前提を忘れさせないように、過剰に2人の物語がヒロイックにならず、破滅的な雰囲気を残したのかもしれない。

また、コンラッド・L・ホールの実に美しいカメラが素晴らしいことも忘れてはならない。
映画の序盤でブッチとキッドが逃げ回るシーンが冗長に映っても、何とか見せてくれたのはカメラのおかげでもある。
嫌味なズーミングを使ったりすることなく、追跡隊の遠景を効果的に映し、スゴく頭の良い撮影だと思いました。

だからこそ、この追跡隊をもっとキチッと描いて欲しかった。追跡隊のリーダー格なんかは、
何らかの執念を持って追跡していることを描けていれば、また違ったドラマも描くことができたのでしょう。
そうすれば、映画の前半を占めるブッチとキッドの逃走劇も、もっと良い意味で緊張感溢れる展開になっただろうし。

ちなみに本作の序章とも言うべき、ブッチとキッドの若い頃の姿を描いた作品が、
79年の『新・明日に向って撃て!』として製作され、コンビをトム・ベレンジャーとウィリアム・カットが演じました。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョージ・ロイ・ヒル
製作 ジョン・フォアマン
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 コンラッド・L・ホール
特撮 L・B・アボット
音楽 バート・バカラック
出演 ポール・ニューマン
   ロバート・レッドフォード
   キャサリン・ロス
   ストローザー・マーチン
   クロリス・リーチマン
   チャールズ・ディアコップ
   ジェフ・コーリイ
   サム・エリオット
   ヘンリー・ジョーンズ

1969年度アカデミー作品賞 ノミネート
1969年度アカデミー監督賞(ジョージ・ロイ・ヒル) ノミネート
1969年度アカデミーオリジナル脚本賞(ウィリアム・ゴールドマン) 受賞
1969年度アカデミー撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
1969年度アカデミー作曲賞(バート・バカラック) 受賞
1969年度アカデミー歌曲賞(バート・バカラック) 受賞
1969年度アカデミー音響賞 ノミネート
1970年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ロバート・レッドフォード) 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(キャサリン・ロス) 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞監督賞(ジョージ・ロイ・ヒル) 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞脚本賞(ウィリアム・ゴールドマン) 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(バート・バカラック) 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1970年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
1969年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(バート・バカラック) 受賞