新・明日に向って撃て!(1979年アメリカ)

Butch And Sundance : The Early Days

69年の名作『明日に向って撃て!』の序章とも言える、ブッチとサンダンス・キッドの出会いを描いた西部劇。

『明日に向って撃て!』と言えば、何と言ってもポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの名コンビぶりで、
特にロバート・レッドフォードにとっては、このサンダンス・キッド役が彼の代名詞とも言えるキャラクターでしたが、
それから約10年が経過してから製作された本作は、続編でもなく、むしろ時代背景としては戻った内容です。

監督はイギリス出身のリチャード・レスター、ビートルズ≠ニの関係で有名なディレクターですが、
70年代以降は『ジャガーノート』や『ロビンとマリアン』などシリアスな映画を撮ったりしていたり、
それでいて『スーパーマン』シリーズの第2作と第3作では、一転して好き放題やったりして掴みどころが無いけど、
本作を観ると、決して力の無いディレクターではないと思うし、『明日に向って撃て!』を踏襲しつつも、
自身のオリジナリティや個性的なタッチで綴ることが出来ていて、決して中途半端な志しで撮ったものではありません。

まぁ、製作と原作という形で『明日に向って撃て!』で脚本を書いていたウィリアム・ゴールドマンが
加わっていたので、さすがに『明日に向って撃て!』のイメージや流れを、崩し過ぎることはなかったけど、
本作の企画を聞いた当時の映画ファンからすれば、どうやって続編を作るんだよ・・・と不安でしかなかったと思います。

そこは前述したように、ブッチとサンダンスの出会いを描くということでクリアするのですが、
それでもあまりに有名になり過ぎた『明日に向って撃て!』をフォーマットにした作品なわけですから、
作り手やキャストにとっても、大きなプレッシャーだったでしょう。リチャード・レスターの演出はともかくとして、
主演2人のウィリアム・カットとトム・ベレンジャーは、スター性という観点からは前作と比較するのは可哀想ですが、
それでも本作でサンダンス・キッドを演じたウィリアム・カットは、ロバート・レッドフォードの面影を感じさせる面構えだ。

欲を言えば、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの間に若干の年の差があることは
映画を観て明らかだったので、続編である本作のウィリアム・カットとトム・ベレンジャーでは、
もう少し年の差があることが明白なキャストであった方が良かったとは思う。まぁ、トム・ベレンジャーも悪くはないけど。

スゴい傑作だとまでは言わないけれども、この続編もなかなかな佳作だと思います。
映画の出来はなかなかのものです。ジフテリアの血清を届けようとスキーを使ってまで頑張ったり、
ブッチに恨みを持つOCと決闘することになったり、列車強盗を試みたりと、とにかくバラエティに富んだ内容だ。

リチャード・レスターのことだから、意味不明にふざけたり、演出上で“遊んだり”するのかと思いきや、
本作ではそういったことは全て封印したようで、終始、ストレートにしっかり描こうとする意図が見えている。

それは『ジャガーノート』を観れば分かることですが、リチャード・レスターはしっかりとした映画を撮れる人です。
本作なんかもガン・アクションになると今一つというか、あまり積極的にガン・アクションを描いていないのですが、
西部劇としての風格を見事にスクリーンに漂わせており、決して二束三文の“なんちゃって西部劇”ではありません。

とは言え、映画の序盤でサンダンスが山の頂上で食事をとるところにブッチが行って、
戻ろうとするものの、あまりの急斜面を見て「これ、どうやって降りるだよ!」とツッコミを入れたりしていて、
ところどころでリチャード・レスターなりにギャグを押し込んでいて、僅かながら彼らしさがエッセンスではあるのですが。

クライマックスの列車強盗のシーンなんかは、独創的な発想でなかなか面白い展開でした。

騎馬隊が乗り込んでいることを知っているブッチは、後方の貨車に乗せられていた馬を
荒野に解き放つことを考えていて、騎馬隊の追跡を不可能にするという展開が、上手く映画にフィットする。
現実にここまで上手くいくかは分かりませんけど、ブッチらを追ってきた捜査官レフォースが彼らを取り逃がし、
前作で執拗に追ってくる捜査官としてレフォースが描かれることが伏線となっているかのようで、実に面白い。

ただ、個人的には『明日に向って撃て!』との関連性を、敢えてこの続編から見い出すとしたら、
やはりブッチとサンダンスの絆の深さを、もっとしっかりと描いて欲しかったと思う。これだけでは伝わらない。
コンビを組むに至る過程は描けていると思うが、普通のコンビではないという前提に立って欲しかった。
その「普通のコンビではない」と思わせるためのエッセンスが、本作には欠けていて、これなら「普通のコンビ」だ。

この2人が「普通のコンビ」ではないから、『明日に向って撃て!』のような映画が誕生したわけで、
西部の世界にその名を轟かせた理由を、この序章にしっかりと込めることが、本作の大きなテーマだったはずだ。
映画としては決して悪い出来ではないのですが、それはあくまで普通の西部劇映画として考えたときの話し。
そこは敢えて、『明日に向って撃て!』の続編として考えれば、どうしても肉薄し切れなかった部分ではないかと思う。

前作でキャサリン・ロス演じるエッタが、ブッチとサンダンスにとって大きな存在となる女性なのですが、
欲を言えば、この続編の中でエッタとの出会いについても、キチンと描いて欲しかった。ここは特に大事なはずなのに。
僕はてっきり、エッタとの出会いは描いているものだと思い込んでいたので、かなりの肩透かしだったとは思う。

確かにこういった部分で少しずつ物足りなさが残るのと、キャストの地味さで、本作はヒットしませんでした。
やはりあれだけ神格化された名作の続編ともなると、大胆に思い切ったことをやるという感じではありませんしね。

リチャード・レスターらしく、派手にふざけたシーン演出はありませんが、
本作は彼の持ち味はしっかりと生きていて、基本はコメディに軸を置いたかのような部分があって、これは面白い。
スカンクにおしっこかけられるシーンも、ブッチとサンダンスがスキーの練習をするシーンもスゴく良いと思います。

但し、ブライアン・デネヒー演じるOCとのエピソードはどこかチグハグな印象を受けた。
このブライアン・デネヒーは粗暴で良いのだが、執拗さやしぶどさが足りない。どうせなら、最後まで絡んで欲しかった。
彼が途中退場してしまい、クライマックスの列車強盗のシーンで全く絡んでこないというのは、とても勿体ない。

収監される前の理髪店でのシーンからしても、手段や方法を選ばぬ危険な男という印象なのですが、
ブッチのことを一方的に恨んでいて、やっとの思いで果樹園でブッチを見つけ襲撃するも、OCの狙いは外れてしまう。
ここまでいいのだが、ここでもOCはアッサリと引き下がってしまう。もっと観客にとってストレスな存在にして欲しい。
普通に考えて、あんなにアッサリとブッチのことを諦めてしまうなんて、OCの性格を考えれば、ありえないでしょう。
これでは都合良くブッチに絡んできて、都合良く引き下がり、挙句の果てには退場してしまうキャラクターになってしまう。

せっかく、ブライアン・デネヒー自身はとても良い仕事をしているだけに、
印象的な悪役にすることを作り手が放棄してしまったかのような描き方で、ブライアン・デネヒーにとっても可哀想だ。

決して悪い続編ではなく、序章のパートを描いたあたりが賢かったとは思うのですが、
それでももっとエキサイティングな西部劇にはできたかな。どこか、もう一押しが足りなかったように思う。
前作のジョージ・ロイ・ヒルの演出は賛否があったと思うので、必ずしもあの路線を踏襲する必要はないと思うが、
ああいう楽天的なムードが持ち味だった前作と比べると、本作は特徴、というか個性が弱い当たり障りの無さを感じる。

まぁ、この当たり障りの無さは...良く言えば、そつがない映画という見方もできるでしょうが、
それでもリチャード・レスターがもっとやりたい放題やった西部劇というのも、個人的には観たかった気がする。
もっと、ふざけようと思えば、そう出来た内容でもあったと思うのですが、映画が崩れることを心配したのかな。

そういった思い切りの良さを出せなかったせいか、映画の個性という点では、どうしても前作に負けてしまう。
例えばサンダンスがもっと徹底した破天荒なところがあったとか、そういう突き抜けたものが本作には欲しかったなぁ。
まぁ、ロバート・レッドフォードと同じ役を演じるとなっては、ウィリアム・カットも相当に難しい役どころだったでしょうが。

しかし、この邦題は...もっと良い邦題をつけてあげて欲しかったなぁ。
内容的に単純な続編ではないということもあるのだろうけど、いくらなんでもこの邦題はないなぁ〜。
そもそも『明日に向って撃て!』というタイトルにこだわらずに、違うタイトルを付けても良かったと思うんだけど・・・。

過大な期待さえかけなければ、そこそこ面白い作品なのだけれども、この邦題は完全に名前負けしてますね。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 リチャード・レスター
製作 ガブリエル・カツカ
   スティーブン・バック
   ウィリアム・ゴールドマン
原作 ウィリアム・ゴールドマン
脚本 アラン・バーンズ
撮影 ラズロ・コバックス
音楽 パトリック・ウィリアムズ
出演 ウィリアム・カット
   トム・ベレンジャー
   ジル・アイケンベリー
   ジェフ・コーリー
   ブライアン・デネヒー
   ジョン・シャック
   マイケル・C・グウィン
   ピーター・ウェラー
   アーサー・ヒル
   クリストファー・ロイド

1979年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート