バーレスク(2010年アメリカ)

Burlesque

これはどちらかと言えば、映画を観るというより、
クリスティーナ・アギレラのミュージック・クリップを観るという感覚の方が近いのですが(笑)、
映画の前半は結構良かったんじゃないかなぁと思う分だけ、収穫はあった作品だと思う。

21世紀に入ってからは、どことなく定期的にミュージカル映画が発表されている気がしますが、
やはり僕の中では、01年の『ムーラン・ルージュ』のドギツさが鮮烈な記憶となっていて(笑)、
どうしてもあれぐらい激しく攻撃的なミュージカル・シーンじゃないと、興奮を味わえなくなってきています(笑)。

クリスティーナ・アギレラも、99年にデビューしているわけですから、
歌手としてデビューして既に10年以上経っていたはずで、何故にここにきて、
映画出演を決意したのか、その真意はよく分かりませんが、映画初出演という割りには頑張っていますね。
本作を観る限り、おそらくシェールの存在が大きいはずで、クリスティーナ・アギレラはかなり助けられている。
元々は、歌手としての方が有名だったシェールも、久しぶりに歌って踊っての大活躍なのは嬉しい。

しかし、そんな映画の勢いが長続きしない。
さすがにこれでは、勿体なく、映画の終盤の印象が悪くなってしまう。こういうのは、どうせなら逆の方がいい。

個人的には、もっと勝気にミュージカル・シーンを使って欲しい。
この辺は映画の志向が違うとは言え、『ムーラン・ルージュ』や『シカゴ』との大きな違いで、
映像自体は確かに煌びやかなんだけど、映画に強い流れを作ることができなかった印象ですね。

そして、前述したように、映画の途中はクリスティーナ・アギレラの
PV(プロモーション・ヴィデオ)のようになってしまうのはチョット残念で、途中からこの映画の作り手が
一体、何を見せたかったのか、何をどう描きたかったのか、サッパリよく分からないんですよねぇ。

グラマラスなクリスティーナ・アギレラの魅力を強調する部分もあるにはあるのですが、
元々、ストーリー性を期待できないジャンルの映画であるがゆえ、ミュージカル・シーンでは
クリスティーナ・アギレラの個人プレーではなくって、やはり役者陣のアンサンブルで見せるべきでしたね。
そりゃ、何人かと一緒に踊ってはいますが、彼女ただ一人が目立つという構成は明らかな失敗です。

そう、この映画はやはり踊り子で、もう一人、ビッグネームを起用すべきでしたね。

映画の序盤で唯一、シェールが持ち前のハスキー・ボイスを披露して、
歌って踊ってという感じでステージに上がってくるのが、彼女のファースト・ショットなんですね。
往年のシェールのファンからすれば、久々のシェールの活躍は嬉しいのではないでしょうか。

監督のスティーブン・アンティンは90年代、テレビの業界で活躍したらしいのですが、
どうも、映画のコンセプトをもっとしっかり持った方がいいかなぁという気がしますね。
これでは、悪い意味でのプログラム・ピクチャー感丸出しで、もっと違う方向で企画を考えて欲しかったなぁ。

まるで、クリスティーナ・アギレラのためだけにある映画になっているように見えるのは、
結果的にクリスティーナ・アギレラが女優として映画に出演したのは、本作だけだからなんですね。
これでは、彼女のPVを映画館で流すために撮ったかのような映画と言われても、仕方ないですね。

だから曲の使い方にしても、基本的に下手ですね。
コンサートの構成なんかもそうなんですが、この映画の曲の使い方も緩急が利いていない。

緩急が上手く付いていないがゆえ、せっかくのミュージカル・シーンが
ちっとも魅力的に映らず、映画の中でも全く効果的なものになっていないあたりが残念でなりませんね。
やはり前半にアップテンポな曲を集めて、映画の中盤からクリスティーナ・アギレラにバラードを熱唱させ、
半分、彼女の独演会状態にさせてしまい、そのまま映画が終わってしまうというのは、あまりに流れが悪い。

映画の前半はミュージカル映画になっているとは言え、
映画の中盤からは、ほぼクリスティーナ・アギレラのプロモーションなんですね。

でも、結局、こういう構成にしたって、彼女は映えないと思うんですよねぇ。
だって、彼女のプロモーションをしたいのであれば、音楽で勝負すればいいだけ。
あくまで本作で彼女は女優デビューしたわけなのですから、映画女優としての魅力を見い出さなければ、
厳しい言い方ではありますが、この映画が本作を撮ることに大義は無いと思うんですよね。

とは言え、本来的には企画自体は面白かったはず。
かつて『コヨーテ・アグリー』という映画がヒットした経緯もあるけど、こういう若い女の子の
サクセス・ストーリーを基調としたミュージカルは、面白くしようとすれば、いくらでもできるのになぁ〜・・・。

助演陣でも、踊り子たちで目立った助演が無かったことを不満に感じるも、
スタンリー・トゥッチ演じるゲイのクラブの舞台監督ショーンの存在感が突出している。
こういうバイプレイヤーは大切にしたいところで、本作もシェールだけでなく、彼らも必死になって、
主演のクリスティーナ・アギレラを輝かせようといることが、観て分かるのは嬉しいですね。

ストーリー面では、あまり過度な期待をしてはいけない映画です。

ヒロインの恋愛エピソードは中途半端で映画は終わってしまうし、
クラブの買収を目論んでいたマーカスとかいう富豪との、イザコザも中途半端にした挙句、
マーカス自身もどうなったのか決着を描くことなく、映画はエンディングを迎えてしまうし、何もかもが中途半端。

結局、この映画はあくまでクリスティーナ・アギレラが主人公であって、
劇中で描かれるストーリーは添え物でしかないのです。もっと言えば、ミュージカル・シーンの迫力も
映画の序盤だけという不発感を抱えたままということなんで、ある程度の割り切りが必要な映画です。
その割り切りさえできれば、この映画はそこそこ楽しめるのではないかと思うんですがね。

少し甘めに、この映画を振り返ってしまいますが、
クリスティーナ・アギレラももっと真剣に映画女優にチャレンジしたらいいのに・・・と思えてならないですね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 スティーブン・アンティン
製作 ドナルド・デライン
脚本 スティーブン・アンティン
撮影 ボジャン・バゼリ
編集 ヴァージニア・カッツ
音楽 クリストフ・ベック
出演 クリスティーナ・アギレラ
    シェール
    エリック・デイン
    ピーター・ギャラガー
    スタンリー・トゥッチ
    アラン・カミング
    サム・ジガンデイ
    ジュリアン・ハフ
    クリスティン・ベル
    キャム・ギガンデット