ブロードウェイと銃弾(1994年アメリカ)

Bullets Over Broadway

新進舞台劇作家が執筆した新作を上映することになったものの、
マフィアから資金提供を受けて、舞台を上映することになったがために、
マフィアのボスの恋人を出演することが条件となってしまい、様々な問題が次々と発生し、
頭を悩ませながらも、出演女優の一人、ヘレンに恋してしまい、更に混乱していく姿を描いたコメディ映画。

おそらくウディ・アレンがこの路線で映画を撮り始めたのは、
本作あたりから顕著になってきたとは思うのですが、やはり丁寧に作っているのは好感が持てますね。

確かに映画の出来は良いとは思うのですが、
僕は敢えてウディ・アレンの監督作という観点から考えると、あまり好みとは言えない作品なんですよね。

個人的にはウディ・アレンが撮るコメディ映画って、
僕は勝手に、バ●バ●しい内容であって欲しいと思っているせいか、例えば『おいしい生活』のように
ドタバタとした「くっだらねぇ〜」と笑い飛ばせる内容であって欲しいんですよね。

おそらくこの映画が10年早く製作されていたとしたら、
主人公の役はウディ・アレン自身が演じていていたのでしょうが、本作はジョン・キューザックに任せています。

まぁジョン・キューザック自身もそのことを悟ってか、
どうも芝居のクセがウディ・アレンに似ていて、僕はもっと彼のオリジナリティがあっても良かったと思う。
複雑な立場に追い込まれ、いつも微妙な表情をするあたりもソックリだし、機転を利かせようと
手振りを交えながら、やたらと言葉を間違えながらも早口で台詞を繰り出すあたりもソックリだ。

映画全体として気になってはいたのですが、
確かにジョン・キューザックの演技スタイルと近いものはあるとは思いますが、
やはり何処か無理しているような違和感があって、もっと自然に演じれば良かったのになぁと思いますけどね。

これはダイアン・ウィーストが凄く高く評価されたのですが、
僕は明らかにマフィアの用心棒チーチを演じたチャズ・パルミンテリの映画だったと思う。
やはり彼のキャラクターがあったからこそ、本作はここまで面白くなったと言っても過言ではありません。

最初はマフィアのボスの恋人を見張るためにと、まるで興味の無い舞台劇のリハーサルを見ることになり、
嫌々ながらも各シーンの台詞や、登場人物のキャラクターにダメ出ししながらも、次第に舞台劇の内容に
興味を持ち始め、やがては「オレの舞台」と主張し始め、主人公もあまりチーチが的確なアドバイスを出すため、
彼の意見を無視し切れずに、最終的には彼に意見を求めに行くという展開に陥るのは、実に面白かった。

こういう本末転倒みたいなエピソードはウディ・アレンの十八番ではあるのですが、
本作は決して行き過ぎたドタバタ感は作らず、落ち着いた仕上がりになっており、
ウディ・アレンの映画特有のセカセカした忙しない雰囲気が苦手な人も、楽しめるとは思いますね。

評価されたダイアン・ウィーストは確かに、主人公を惑わす不思議な魅力のある、
中年女性ヘレンを熱演しておりますが、これならば同じ彼女の出演作としては、90年の『シザーハンズ』や
91年の『リトルマン・テイト』の方が印象的な良い仕事ぶりだったと僕は思いますけどね・・・。

唯一、ウディ・アレン流のコメディを踏襲するキャラクターとして登場するのは、
とてつもない大食漢の俳優を演じたジム・ブロードベントなのですが、そんな彼がボスの恋人との
浮気な関係を感づかれ脅された挙句、思わず劇終了後に彼女の楽屋に連れ込まれたときに、
タイミング悪くボスが登場し、ギリギリのところで難を逃れようとするエピソードなんかも、そんなに悪くない。
(逃げ出す時の服装が、あまりに情けないけど、なんか可笑しい・・・)

惜しむらくは、できれば主人公の恋人を演じたメアリー=ルイーズ・パーカーの扱いが小さかったこと。
個人的にはもっと彼女を観たかったし、最初は必死にヘレンとの浮気を否定していた主人公が、
180度方向が変わって、一転して浮気を告白したときに、まるで落ち着いたように彼の話しを聞いて、
アッサリと「実はアタシも浮気してるの」と告白し、自分の贖罪に必死だった主人公が、
何故か今度は裏切られた気持ちが強くなり、形勢逆転してしまうという流れも面白かった。

まぁ本作でも共通して言えるのは、
やはりこういう風にして形勢を変えることによって、ウディ・アレンが映画を動かすことなんですね。
僕はこういうウディ・アレンのスタンスは好きなんですよね。欲を言えば、もっと動かして欲しかったんだけど・・・。

それにしても、主人公は若くして成功を手にしかけているものの、
次から次へと問題が降りかかってきて、本望ではない方向へと進んでしまうのが印象的ですね。
僕も不器用な部分があるから、自分のせいもあって、上手く物事が進まないことがあるのですが、
必死にあがけばあがくほど(笑)、より事態が悪化していくこともあって、もどかしいんですよねぇ。

おそらくそういう不器用な人物を描くのが、ウディ・アレンは好きなんでしょうね。
映画人としては成功した側面ばかりが強調されるウディ・アレンですが、
ひょっとすると本人も不器用な人なのかもしれませんし、自分の姿を投影しているのかもしれませんね。

別にそんな不器用な姿を憐れむわけでもなく、紆余曲折を経ながらも教訓を得て、
ある一つのサヤに収まる姿を、ウディ・アレンなりに実に温かな視線で描いております。
これは85年の『カイロの紫のバラ』あたりで獲得した、一つの彼のスタイルだろう。

とまぁ・・・ウディ・アレンが撮る温かな映画が好きな人にはオススメの一本ですね。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ウディ・アレン
製作 ロバート・グリーンハット
脚本 ウディ・アレン
    ダグラス・マクグラス
撮影 カルロ・ディ・パルマ
出演 ジョン・キューザック
    ダイアン・ウィースト
    ジェニファー・ティリー
    チャズ・パルミンテリ
    メアリー=ルイーズ・パーカー
    ジャック・ウォーデン
    ジム・ブロードベント
    トレイシー・ウルマン
    ハーベイ・ファイアスタイン
    ロブ・ライナー
    ジョー・ヴィテレッリ

1994年度アカデミー助演男優賞(チャズ・パルミンテリ) ノミネート
1994年度アカデミー助演女優賞(ダイアン・ウィースト) 受賞
1994年度アカデミー助演女優賞(ジェニファー・ティリー) ノミネート
1994年度アカデミー監督賞(ウディ・アレン) ノミネート
1994年度アカデミーオリジナル脚本賞(ウディ・アレン、ダグラス・マクグラス) ノミネート
1994年度アカデミー美術監督賞 ノミネート
1994年度アカデミー美術装置賞 ノミネート
1994年度アカデミー衣裳デザイン賞 ノミネート
1994年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(ダイアン・ウィースト) 受賞
1994年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ダイアン・ウィースト) 受賞
1994年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(ダイアン・ウィースト) 受賞
1994年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ダイアン・ウィースト) 受賞
1994年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
1994年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(チャズ・パルミンテリ) 受賞
1994年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(ダイアン・ウィースト) 受賞
1994年度インディペンデント・スピリット賞オリジナル脚本賞(ウディ・アレン、ダグラス・マクグラス) ノミネート