ブルース・オールマイティ(2003年アメリカ)

Bruce Almighty

人気俳優ジム・キャリーが久々のメガヒットとなったコメディ映画。

確かにこれは面白かった。
無駄のないスマートな構成で、ジム・キャリーの個性が嫌味にならないギリギリの作品だと思う。
監督は『ライアー ライアー』のトム・シャドヤックで、実に上手くまとめている。

要するに、映画はアンカーマンを目指すTVキャスターのブルースの物語なのですが、
望み通り、自分がアンカーマンに指名されなかった苛立ちから“神”を恨み、
“神”に選ばれたブルースは、突如として“神”こそが持つ全能を手にする。
しかし、仕事で成功すると同時に、彼は恋人との生活にヒビを入れてしまうという物語。

日本では、しばらくジム・キャリー主演作が日本でヒットすることはありませんが、
週間全米興業収入成績で『マトリックス・リローデッド』が公開第2週目で本作に敗れるなど、
以前、全米に於けるジム・キャリーの根強い人気を証明する作品となったことは否定できず、
同時にトム・シャドヤックの特長が、最もよく活きた作品と言っていいと思いますね。

ブルースの恋人を演じたのは、人気TVシリーズ『フレンズ』のジェニファー・アニストンで、
この頃あたりからハリウッド女優としての地位を確立したようなイメージがあって、
本作でもコメディエンヌとしての魅力を、実に的確に表現できるようになっていますね。

やっぱりこういう仕事ができるというのはひじょうに大きなことであって、
本作なんかにしても、彼女の存在あってこそ、平均水準以上の面白さが出たような気がしますね。

派生的ではありますが、ブルースのアイデアを悪びれることなく“パクる”、
嫌味なライバル・キャスターのエバンを演じたスティーブ・カレルの面白さも特筆もので、
映画の中盤にある、ブルースに操られるシーンはベタではありますが、まずまずの面白さ。
(ちなみに本作のスピンオフ的な続編『エバン・オールマイティ』も製作されました)

映画の土台が良くなければ、ここまで派生していかないですからねぇ。

トム・シャドヤックの演出は堅実な傾向にあるのは重々承知ですが、
『ライアー ライアー』といい、02年の『コーリング』といい、まだまだ上手くなっている印象があります。
僕はまだまだ伸び代のある、ポテンシャルの高い映像作家ではないだろうかと思いますね。
どちらかと言えば、寡作な傾向にあるディレクターなことが、少し残念ですね。
もっと数多くの映画を監督して、もっと多くの経験を積めば、まだまだ上手くなるはずです。

ジム・キャリーという強烈な個性を有する役者を主演に起用しているだけに、
演出家の“色”が出しにくいという障害はあるのですが、コンビネーションが良いのでしょうか、
ジム・キャリーの芝居を上手く活かしながらも、“それだけ”の映画にしていない上手さがある。

同じことはモーガン・フリーマンにも言えるのですが、
トム・シャドヤックって、出演者たちの個性を殺さずに、上手く映画のバランスをとるのが上手いですね。

映画は全能の神という存在の難しさを知ることにより、
自らの人生が如何に恵まれ、そして愛されていることを知り、一時的に壊れかけた男が
次第に再生していく姿を描いたハートウォーミング・コメディなのですが、これで仮にジム・キャリーが
暴走演技に走り、演出家が彼の芝居を制御できなければ、映画は完全に壊れてしまいます。

映画の前半は特にブルースの自己中心的な考え方が鼻につく部分もあるのですが、
往々にして人には自己中心的な部分があると、僕は思っているせいか、あまり気にならなかったかな。
むしろ、全能という状態であっても、満足な状況を作ることができない歯がゆさが印象的です。

まぁ、それでも部分的に披露されるジム・キャリーのギャグもまずまず面白いんですけどね。

特に何故か、クリント・イーストウッドのモノマネが登場したり、
名作『十戒』ばりにカフェで飲んだコーヒーが真っ二つに割れたり、まずまずの面白さ。
(そうそう、地味に本作はCGを効果的に上手く利用していますね)

が、敢えて一つ注文を付けさせてもらうならば...
ブルースが神と接触するシーンはシチュエーションも含めて、あまりに貧相な発想だと思った。
これはできることなら撮り直して欲しいくらいなのですが、雑居ビルのフロアというのは、あまりに芸が無い。
別に異世界を表現する、大掛かりなセットまでは必要ないとは思いますが、いくらなんでも、これは残念な結果。

まぁホントはブルースが人助けに目覚めるという展開なのに、結果的に最も大きく助けられるのは
ブルースの人間性だったというのは、往年の名作『素晴らしき哉、人生!』の頃から共通したテーマ。
しかしながら、そんな使い古されたテーマであっても、新鮮な形で表現できるハリウッドの底力を感じます。

あまり派手さはないジャンルの映画ではありますが、
僕は本作のようなタイプの映画にこそ、ハリウッドの底力を感じますね。
こういうタイプの映画をサクッと、いとも簡単に撮れてしまうあたりが、ハリウッドのプロダクションの強さです。

完璧な映画とまでは言えないにしろ、あまり過度な期待をしなければ、
そこそこ楽しめる作品かと思いますが、ひょっとすると、ジム・キャリーの熱心なファンには物足りないかも。。。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 トム・シャドヤック
製作 マイケル・ボスティック
    ジェームズ・D・ブルベイカー
    ジム・キャリー
    スティーブ・コーレン
    マーク・オキーフ
    トム・シャドヤック
原案 スティーブ・コーレン
    マーク・オキーフ
脚本 スティーブ・コーレン
    マーク・オキーフ
    スティーブ・オーデカーク
撮影 ディーン・セムラー
編集 スコット・ヒル
音楽 ジョン・デブニー
出演 ジム・キャリー
    モーガン・フリーマン
    ジェニファー・アニストン
    フィリップ・ベイカー・ホール
    キャサリン・ベル
    リサ・アン・ウォルター
    スティーブン・カレル
    ノーラ・ダン
    エディ・ジェイミソン
    サリー・カークランド