救命士(1999年アメリカ)

Bringing Out Of The Dead

ハリウッドを代表する生粋のニューヨーカーの一人、マーチン・スコセッシが描く
大都市ニューヨークで救急救命士として働く男の苦悩をエキサイティングに描いたヒューマン・ドラマ。

あまり評価が高まらなかった作品ではありますが、
僕はこの映画はもっと評価してあげてもいいと思っています。いや、冗談抜きに。
確かに革新的な技術を基に撮られたわけでも、トリッキーな展開があるわけでもなければ、
ニコラス・ケイジが凄い芝居をしているわけでもない。けど、本作はそれでも魅力的なフィルムだと思う。

そりゃ愉快な内容ではないし、観終わった後の感覚はそうとうにヘヴィで重い。
しかもチョット質(たち)が悪いのが、劇的なことが起こるわけでも問題解決を見るストーリーでもない。

言うなれば、恒常的に救えなかった少女の幻想を見てしまう主人公が、
次第に精神的な均衡を失いながらも、一人の女性と出会うことによって、安らぎを手にし、安眠を手にする。
(ここで勘違いしてはいけないのは、あくまで幻想が消えたか否かについては、言及していないということ)

だからこそ本作の良さが伝わりにくいのかもしれませんが、
マーチン・スコセッシが本作の中で一番、強く描きたかったのはニューヨークだろう。
勿論、主人公の苦悩を描くことも大切だったとは思いますが、あくまで本作の趣旨はストーリーを彩る街なのです。

この映画のシュールな魅力をどこまで理解できるかによるところが大きいとは思いますが、
映画の終盤にある、ドラッグ・ディーラーのサイがベランダの柵に突き刺さった状態で発見され、
救助活動にあたるシーンでは、ロバート・リチャードソンのカメラがひじょうに印象的だ。
火花を散らしながら柵の一部を焼き切ってしまうのですが、夜の空に飛び散る火花のコントラストが実に美しい。

主演のニコラス・ケイジの病み度合いがまた凄いのですが、
ただ今回の彼は良くも悪くも無難な演技。相変わらずハイテンションな芝居は上手いんだけど。

映画は主に3晩を物語の舞台としております。
最初が従来組んでいたジョン・グッドマン演じるラリーとの夜。
次がラリーの代理としてコンビを組むことになったヴィング・レイムス演じるマーカスとの夜。
最後が気性の粗いトム・サイズモア演じるトムとの夜と、連続して続いていきます。

その中でも一番、傑作なのはマーカスの夜で、無線で指令の女性と遊んじゃう余裕っぷりで、
パーティーでヘロインのやり過ぎでブッ倒れたティーンを救うシーンで、彼のドラッグ仲間と思われる、
数名の男女と一緒に手を取り合って、神に祈って意識を取り戻させるシーンなんか、まずまずの面白さ。
そして極めつけは、いつもの調子でサイレンを鳴らして爆走させようとしたら、
脇から路駐(路上駐車)してた車が出てきて、深夜の市街地で大クラッシュさせてしまう。
この圧倒的なまでの強引さとパワフルさは、映画の大きな武器となっていることは確かだと思うのです。

当然、救命活動よりも勤務中に何を食べるかにご執心なラリーとのエピソードや、
精神的に病んでしまったノエルのこととなると、ウサ晴らしとばかりに暴力的になるトムとのエピソードなど、
いずれのエピソードもある一定以上の魅力を兼ね備えていると言ってもいいと思いますね。

この辺の映画全体を見通したかのような構成は実に上手くいっており、
これは編集も含めたスタジオワークの上手さによるところが、ひじょうに大きいと思いますね。

こういったポイントをしっかりと押さえた作りが、映画を見事に魅力的なものへと仕上げているのです。
この辺の映画全体を見通したかのような構成に、マーチン・スコセッシの力量の高さを感じますね。
主人公が見続ける“ローラの幻想”のイメージなんかも、如何にも彼らしい映像でニヤリとさせられる。

とまぁ・・・実に魅力的なフィルムだっただけに、
僕は映画のラストシーンでもう一押し欲しかったと思いますね。チョットこれでは弱いかな。
確かにマーチン・スコセッシの気持ちもよく分かるんだけれども、もっと力強く訴求するラストにして欲しかった。
どうせ映画の最初っから最後まで、ずっと半ば力技であるかのような強引さで走ってきたのだから。

今更、マーチン・スコセッシに『タクシードライバー』みたいな映画を求めても、
「それは無理な要求だ」としか思えなかったのですが、なまじこういう出来の映画を観てしまうと、
まんざらこれから撮れないこともないのかなと、チョット期待させられちゃいますね(笑)。
(とは言え・・・僕は『タクシードライバー』はそこまで好きな映画ではないだけれども。。。)

それにしても相変わらず音楽の選曲が良いですね。
マーチン・スコセッシによる夜のニューヨークの街並みをバックに聴くヴァン・モリソンはまた格別だ。
トムとの夜では勢いそのままを象徴するクラッシュ≠焉A見事にフィットしている。
(ヴァン・モリソンもクラッシュ≠焜jューヨークとは、まるで関係ないミュージシャンだが)

流れるようなネオンに、浮遊感漂うカメラ。これはとても力のある映画だと思いますね。

まぁ医療ドラマを期待した人には向かないかとは思いますが、
近年のマーチン・スコセッシ監督作としては出色の出来と言っていいと思う。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マーチン・スコセッシ
製作 スコット・ルーディン
    バーバラ・デ・フィーナ
原作 ジョー・コネリー
脚本 ポール・シュレイダー
撮影 ロバート・リチャードソン
美術 ダンテ・フェレッティ
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ニコラス・ケイジ
    パトリシア・アークエット
    ジョン・グッドマン
    ヴィング・レイムス
    トム・サイズモア
    マーク・アンソニー
    クリフ・カーティス
    メアリー・ベス・ハート

1999年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞撮影賞(ロバート・リチャードソン) 受賞
1999年度フロリダ映画批評家協会賞撮影賞(ロバート・リチャードソン) 受賞