ガルシアの首(1974年アメリカ)

Bring Me The Head Of Alfredo Garcia

いやぁ、これは凄い。サム・ペキンパーにしか撮れない、至上の一本だ。

確かに美しいフィルムとは言えない。キレイな構図があるわけでもない。
血生臭い描写もあれば、ロケーションはどこも汚らしい。ましてや出演者が美男であるわけがない。
だって、これはサム・ペキンパーの映画だもの。誰もそんなことを期待してないですよね(苦笑)。

70年代に入って、サム・ペキンパーは映像作家として多くのファンを抱え、
数多くの秀作を発表するようになりますが、僕は72年の『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』が
大好きで彼の最高傑作とさえ思っているのですが、強いて言えば次点が本作ですね。

相変わらず、主演のウォーレン・オーツはいい面構えしているし(笑)、
映画に漂う独特な浮遊するような空気が素晴らしく、鮮烈な銃撃戦も緩急が利いていて効果的だ。

但し、この映画は男性本位の映画であることは否定できません。
確かに往々にして、サム・ペキンパーの映画は男性本位の視点であることが多いのですが、
特に本作はその傾向が強く、エリーナを演じたイゼラ・ヴェガの扱いを観ていると、
特段、深い意味が感じられないのにヌードになるシーンがあったりして、やたらと露出度が高いです。

途中、クリス・クリストファーソン演じる暴走族が彼女をレイプしようとするシーンなんかは、
映画のメインストーリーに対して、あまり強い意味はないシーンですからね。
そしてクリス・クリストファーソンにしても、当時既に歌手として知名度は高かったし、
徐々に映画にも多く出演し始めていた時代ですからね。よくこういう役を引き受けたなぁと感心してしまいます。

但し、別にこれらを否定するつもりはありません。
あくまで調和という意味で、これらのシーンが映画の雰囲気をブチ壊すものではないし、
何よりどこか牧歌的な風情があって、画面の統一感が保たれているんですよね。

特に前述した暴走族が何故かエリーナをレイプすることを諦め、
岩陰で力なく絶望してしまうシーンなんかは、サム・ペキンパーらしいセンチメンタリズム全開だ。
このシーンでエリーナが見せる女性的な包容力と言いますか、憂いが凄く印象的ですね。
この一連のシーンも男性本位と言えばそれまでですが、これは複雑な感情が交錯するシーンだと思います。
(このシーンでは特にイゼラ・ヴェガの芝居が上手かったですね・・・)

いかにもサム・ペキンパーらしいスローモーションの使い方など、
編集面でかなり彼の個性が強く出ているのが嬉しいですね。
そういう意味では、本作が彼の一つの到達点であったと言っても過言ではないと思いますね。

こういう言い方をすると、理不尽な映画のように感じられるかもしれませんが、
いかにもサム・ペキンパーらしいご都合主義が横行する、一方的な映画です。
何故に、危険な仕事と知りながらも、ベニーがガルシアの首を持ってくる仕事に執着するのか
よく分からないし、この仕事に愛するエリーナを無理矢理、巻き込む姿は正直言って、共感性が薄いと思う。

「ガルシアに首を持ってこい!」と言われた賞金稼ぎの男たちの中でも、
酒場でピアノ弾きを勤めていたベニーに、ガルシアの話しを振る2人の中年男を演じた、
ギグ・ヤングとロバート・ウェッバーの存在感が抜群に素晴らしいですね。

この2人は特に映画の後半にあった、田舎道で“障害”に塞がれていたベニーの前に再び現れ、
ベニーの窮地を救うシーンで描かれるバイオレンス描写が、正しくこの映画のハイライトですね。

このサム・ペキンパーのスローモーションを多用したバイオレンス描写を観ると、
“散り際の美しさ”をよく分かっているツボを押さえた演出だと実感するんですよね。
もっと言えば、銃撃戦に於ける、銃を撃つカッコ良さではなく、銃弾で撃たれるカッコ良さを描いているんですね。
(強いて言えば、僕はこれがサム・ペキンパーの美学だと思う)

敢えて言えば、この映画は単純な賞金稼ぎの映画ではありません。
確かに映画の序盤、仕事を引き受ける動機は「金」なのですが、映画の後半ではすっかり様相が変わります。

実際にガルシアに首を持って、依頼主へと向かうベニーの行動を支えているのは、
紛れもなく怒りの感情そのものです。だからこそ彼は猛烈なまでの執念を見せるようになっていきます。
そんな強い情念を見事に演じてみせる、ウォーレン・オーツは一世一代の名演と言えます。

個人的には映画の終盤にある、ホテルの一室での銃撃戦などは
チョット雑に感じられたことが残念で、もう少し繊細に描いて欲しかったところですね。
あと、多く指摘されているように、全体的に映画のテンポが悪い部分が感じられるのも残念。
この映画が僕にもどうしてもサム・ペキンパーの最高傑作とは呼べない理由はここにあって、
厳しい言い方をすれば、この映画の中からは決定打が見当たらない。これが大きなネックだろう。

しかしながら、サム・ペキンパーの映画が好きな人は必見の一本ですね。
特に『ワイルドバンチ』のような映画が気に入った人には、十分に楽しめる一本でしょう。

最初に述べたように、サム・ペキンパーにしか表現しえない空気を内包した至上の一本であり、
文字通り、愛すべき一本として、ファンの間ではいつまでも忘れられない作品と言えるでしょう。
最近はこういう映画を撮れる映像作家がいないだけに、こういう映画は貴重ですよ。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 サム・ペキンパー
製作 マーチン・ボーム
原案 フランク・コワルスキー
    サム・ペキンパー
脚本 サム・ペキンパー
    ゴードン・ドーソン
撮影 アレックス・フィリップスJr
編集 デニス・E・ドーラン
    セルジオ・オルテガ
    ロッブ・ロバーツ
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 ウォーレン・オーツ
    イゼラ・ヴェガ
    ギグ・ヤング
    ロバート・ウェッバー
    エミリオ・フェルナンデス
    クリス・クリストファーソン
    ヘルムート・ダンティーネ