ブリジット・ジョーンズの日記(2001年アメリカ・イギリス合作)

Bridget Jone's Diary

ヘレン・フィールディングの96年のベストセラー小説の映画化。

ハリウッド女優としてのスターダムを駆け上がりつつある段階にあった、
レニー・ゼルウィガーがブレイクするキッカケになる作品であり、オスカーにノミネートされました。
内容がオトナの女性向けに作られたものだったためにレイティング指定を受けましたが、本作は大ヒットしました。
(本作がレイティング指定の対象となったのは、性的な台詞と喫煙・飲酒のシーンが多いからだそう)

本作製作から約20年たった今になって、あらためて冷静に観てみると、
いくら女流作家が描いた30代に差し掛かった独身女性の等身大とは言え、ポリティカル・コレクトネスが厳しくなった
2020年代にあっては、本作の内容もストレートには映画化しづらいところがあるのかもしれません。

製作当時は、働くイギリス人女性をアメリカ人のレニー・ゼルウィガーが演じること自体に
大きな反発があったようですが、結果的には彼女のようなメジャーな女優さんをキャスティングできて、
本作にとっては良かったんじゃないですかねぇ。本作がアメリカでもヒットした理由にもなったと思うんですよね。

それから大きいのは、やはり軽薄な会社の上司クリーバー役で出演したヒュー・グラント。
彼はお約束のキャラクターではありますが、この手の映画を面白くするためには、欠かせない存在だと思う。

働く女性のアイコンのようなキャラクターとして、時代に合っていたのでしょうね。
こうして映画を観ると、20年前のオフィスワークの様子と今現在の様子に、そう大差はないんで、
ある意味で同じ目線で見ることができると思いますが、ブリジットの生き方や価値観というのも、
十分に現代の女性たちにも共感を得られる部分があると思います。まぁ、女性が会社や恋愛に求める視点を
女性の視点から描く映画ですので、どちらかと言えば、女性向け映画かもしれませんが、男でも十分に楽しいです。

まぁ・・・「なんでもござれ」と言わんばかりに、ありのままに生きるブリジットですが、
どこか間が悪いと言うか、従順に周りの意見を聞いてしまうところもあって、損をするシーンも多々ある。
そんなときもくよくよせず健気に前向きに生きる姿を応援したくなるわけですが、観ていて元気をもらえる映画ですね。

ブリジットは事ある毎に、幼少期に一緒に泳いだとされる弁護士のダーシーと会いますが、
お互いに意識するものがあるものの、会うたびにどこか噛み合わず、時にムカついてしまいます。
そこで2人に絡んでくるのが、ヒュー・グラント演じるクリーバーなわけですから、不思議な三角関係なわけです。

ブリジットはクリーバーから、「自分の妻をダーシーが寝取った」と吹き込んだおかげで、
ブリジットはダーシーに強い憤りを覚え、義憤にかられたようにダーシーに食ってかかってしまいますが、
ダーシーはダーシーでクリーバーに強烈なまでの敵対心を隠そうとせず、クリーバーに怒りを爆発させます。

いつの間にかブリジットに好意を抱いていたダーシーも、何故かブリジットに告白しますが、
そこにクリーバーがやって来るものだから、さぁ大変!というわけで、ダーシーはクリーバーに宣戦布告します。

おそらく、このダーシーとクリーバーのケンカのシーンは本作のハイライトでしょう。
一度、ブリジットの部屋を出て行ったダーシーですが、少しだけ気持ちを入れ直したダーシーが再度現れて、
「よし、外に出ろ」とクリーバーに言いに来て、2人がブリジットの部屋の玄関から出たら、ゴングが鳴る。
ジェリ・ハリウェルの『It's Rainy Man』(ハレルヤ・ハリケーン)が流れると、一気に映画が動き始める感じで、
これは本作の勢いの良さを象徴する演出であって、何度観ても、このケンカのシーンが最も記憶に残る(笑)。

如何にもリチャード・カーティスがシナリオを書いたという感じの小気味良さで、
この頃はイギリス映画がホントに元気でしたね。本作に代表されるように、ハリウッドからも俳優が渡ってきて、
主演級に据えるなど、本作のようなラブコメを中心として、日本でも数多くのヒット作が誕生しました。

監督のシャロン・マグワイアは本作が監督デビュー作で、幸運な面はあったかもしれませんが、
それにしても全体の構成力に優れていたのか、映画のテンポが素晴らしく良く、ツボを押さえている。
何故か本作の後はあまり映画を撮っていないようですが、なんだか勿体ないなぁと感じてしまいます。
好き嫌いはあるでしょうが、この手の映画って、分かり切った内容になってしまうことの方が圧倒的に多いので、
そうなだけに分かり切ったストーリーで、予想通りの結末であっても、しっかりと楽しませなければならないという、
作り手のセンスや映画全体に及ぶバランス感覚を問われる作品と、僕は思っていて、そうなだけに惜しい。

それくらい、本作は良く出来た、実に面白い作品だと思うのですよね。これはシャロン・マグワイアの力も大きい。

ただ、欲を言えば、タイトルになっているブリジットが書いている“日記”ですが、
原作ではどう表現されていたのかは把握していませんが、もう少し存在感を出して欲しい。
映画のラストに“日記”を使って、チョットしたエピソードがありますけど、確かに気の利いたラストシーンを演出する
小道具にはなっているのだけれども、僕はもっと“日記”を主体としたストーリーテリングにしても良かったと思う。

きっと、“日記”こそ、ブリジットが本音を書き綴れる唯一のツールなのだろうから、
彼女の日記を辿っている、若しくは読み進めている感覚を、映画の中でも表現することはできたのではないかと思う。

この映画が成功したのは、女性の社会進出が進んだという時代性もあったと思う。
そこには、働く女性の多くが直面する悩みであったり、置かれる立場であったり、
そういったものをブリジットの健気な姿で描くことで、前向きなメッセージに転換できた時代であったと思う。

でも、冒頭で述べたように、僕はこの映画が2020年代に共感される内容になるかは分からない。
良くも悪くも、ブリジットは男社会の中で奮闘するものの、社会的には冷遇されていると解釈されるかもしれない。
事実、クリーバーの会社では能力は評価されているのか分からず、事務職として働いていて、出世は望めなさそう。
転職先のテレビ局でもキャスターとして愛されるものの、ディレクターからは“お尻から落ちた”ことで使おうと決められた。
ひょっとしたら、今の時代ではこれらブリジットの扱いを観て、快く思わない女性もいるかもしれないなぁと思った。

あまり言いたくはありませんが、これからはこういう映画を作ることが難しくなるかもしれません。
確かにブリジットが全ての働く女性の代表というわけではないし、彼女の声が全て正しいというわけでもない。
甘いマスクをしていても、女性を軽く扱い、トンだセクハラ野郎だったクリーバーのキャラも賛否両論でしょう。
個人的にはクリーバー演じるヒュー・グラントが映画を面白くしていると思うけれども、それも彼のようなキャラを
快く思わない女性もいるでしょう。そういういろんなことを勘案して、こういう映画は難しい時代になると思います。

そういう意味では、私自身も考えを変えていかないといけない部分があるのでしょうね。
こういう内容の映画を、軽い感覚でサクッと笑える映画だなんて言うこともできなくなっていくかもしれません。

それでも、僕はこの映画は良く出来た面白い作品、という意見に変わりはありません。
時代の変化に伴い、これから作られる映画の倫理観は変わっていくでしょうけど、過去に作られた映画の存在自体を
全て否定したくはありません。許されていたとまでは言いませんが、かつては受け入れられる社会ではあったからです。

天真爛漫なブリジットが元気いっぱいな映画ということに変わりはありませんが、
なんだかこの少々ブラックな内容に、社会的なことを深く考えてしまいました。これも時代の流れ、仕方ないですね。

正直に白状すると、今はまだ、明らかに反社会的・差別的な内容を除けば、
あまり肩肘張らずに、重箱の隅を突かずに映画を楽しみたいという気持ちが強いのですがね。。。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[R−15]

監督 シャロン・マグワイア
製作 ティム・ビーバン
   ジョナサン・カベンティッシュ
   エリック・フェルナー
原作 ヘレン・フィールディング
脚本 ヘレン・フィールディング
   アンドリュー・デイビス
   リチャード・カーティス
撮影 スチュワート・ドライバーグ
音楽 パトリック・ドイル
出演 レニー・ゼルウィガー
   コリン・ファース
   ヒュー・グラント
   ジム・ブロードベント
   ジェマ・ジョーンズ
   サリー・フィリップス
   エンベス・デービッツ
   シャーリー・ヘンダーソン
   ジェームズ・キャリス

2001年度アカデミー主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) ノミネート