ヤング・ゼネレーション(1979年アメリカ)

Breaking Away

あまり有名な映画ではありませんが、青春映画として根強い人気を誇る作品です。

田舎町で幼い頃から住み、町の大学生からは“カッターズ”と呼ばれ、
大学生たちと様々なことで争う若者たちが、大学が主催する自転車レースに出場して、
一大旋風を巻き起こす姿を描いた青春映画で、どちらかと言えば70年代の空気あ色濃い作品だ。

監督は68年に『ブリット』を撮ったイギリス出身のピーター・イエーツで、
別に青春映画を得意とした映像作家ではありませんが、こういう仕事ぶりを見ると、
随分と器用な人だと実感しますね。本作のような作品の後にも、83年の『ドレッサー』のような
強烈に個性的な映画を作れるのだから、実に創作の幅の広い映像作家であることを改めて実感させられますね。

ピーター・イエーツは『ブリット』をはじめ、『ジョンとメリー』など、
今となってはアメリカン・ニューシネマの一派だったと考えられるのですが、
本作ではひじょうにシンプルな青春映画に仕上げているようで、社会的なメッセージ性や尖った部分はありません。

ただ、強いて言えば、『ブリット』での経験は活きているようで、
本作では幾度となく登場する、自転車レースでのスリリングな展開はひじょうに良く出来ていて、
緊迫感やスピード感は勿論のこと、カメラワークの素晴らしさがひじょうに良い影響を与えていますね。

日本では、ピーター・イエーツはあまり有名な映画監督ではありませんが、
映画監督としてデビューする前は、プロのレーシング・ドライバーだった過去があったらしく、
おそらくその経験と感覚が、彼自身の創作活動にとても大きな影響を与えていたのでしょうね。
残念ながら2011年に、長い闘病生活の末に他界してしまったのですが、彼の監督作品を眺めると、
確かに大ヒット作を生み出すことはできなかったし、映画史にその名を残すような大傑作はないけれども、
『ブリット』のようなインパクトの強い個性的な映画を残しており、貴重な映像作家の一人でしたね。

調べたら、彼は下積み時代、トニー・リチャードソンなど故国のイギリス映画界で、
頑張ってきたらしいのですが、あまりの監督作品からはイギリスっぽい感覚は強く感じないんですよね。
でも、それが変なイメージを決定付けることなく、逆に彼の監督作品にとっては良かったのかもしれませんね。

この映画で一気に注目されたのは、イタリアかぶれの青年を演じたデニス・クリストファーで、
いきなり新人俳優として最高の評価を得たことで、どうやら逆に伸び悩んでしまったような感じですね。

結局、一番、俳優として伸びたのは、強気な若者を演じたデニス・クエイドで、
本作のヒットのときは、子役出身の若手俳優として注目されていたジャッキー・アール・ヘイリーも、
本作以降は完全に低迷に陥ってしまい、06年の『リトル・チルドレン』で性犯罪歴のある男を演じて、
再び注目されるまで、実に25年以上もの間、斜陽の存在となってしまい、その間、13年もの間、
俳優業から身を引き、表舞台から姿を消していたなんて、皮肉な運命を辿ってしまいます。

そう思ってみると、本作の高い評価は数多くの人々に様々な影響を与えていますね。
特に主演4人の若手俳優たちにとっては、大きなターニング・ポイントとなる作品だったことでしょう。

それにしても、デニス・クリストファー演じるイタリアかぶれの青年が初めて出場したレースで、
招待されたイタリアの強豪チームに対抗して、反感をかってしまい、並走したところ妨害工作にあうのですが、
この妨害工作の内容が、かなり暴力的な内容なせいか、観ていて怒りすら感じちゃいますね(苦笑)。

個人的には、彼が失望するまでの過程は、もう少し工夫して欲しかったですね。
特にイタリアの強豪チームである“チンザノ”の描写は、あまりに軽率だったような気がしてなりません。

現実にあんな過激な妨害工作を行なったら、
すぐに報告されて、いくら強豪チームとは言え、出場禁止になっちゃうと思うんだけどね。。。
そういうことを考えると、ストレートに青春の味わいを表現した映画ではありますが、
現実と照らし合わせたときに、ツッコミの余地はかなり存在するようには思いますね。

但し、このレースで挫折した青年は、イタリアかぶれな部分も改めるようになります。
特に傷だらけになって帰宅し、思わず父親に抱きついてしまうシーンは良かったと思いますね。
やはりこういう印象深いシーンが1つでも作れた映画は良いですね。これは良い映画の基本だと思います。

なんか、この青年にかなり年の離れた姉弟ができたなど、
あまり映画の本筋には関係ないように思えるエピソードが付いてくるのですが、
この父親と和解するシーンの意味合いは、映画がラストに近づくにつれて、強くなっていく感じで良いですね。

この映画を観て、どことなく思い出したのは73年の『ペーパー・チェイス』ですね。
おそらく勉学に打ち込む姿をひたすら描いたのは『ペーパー・チェイス』が最初の映画だと思うのですが、
あの映画でもう一つ描きたかったのは、過酷なロースクールで生きるということから見える、
学歴がある人の苦労だったと思うわけで、裏を返せば、学歴を得た人たちって空気が違うかも(笑)。

今でこそ、日本は大学に進学する割合が格段に上がりましたが、
次第に“量より質”状態で、その学歴の中身が問われる時代になってから久しく、
最近はホントに学歴がアテにならない時代がやって来てしまったような気がします。

この映画を観て、何故、『ペーパー・チェイス』を思い出したかと言うと、
さり気なく本作も、学歴差が人々の生活の感覚を区分けしてしまっていることを描いており、
町の大学生たちが、主人公の青年たちを“カッターズ”と呼んで、差別的待遇をする点があることですね。
強いて言えば、これだけは70年代の残り香とも言える、本作の社会的なメッセージかもしれませんね。

一方で、大学の食堂でのケンカのシーンなんかは、80年代の青春映画のノリですよね。
そういう意味で、本作は70年代と80年代の空気が共存した作品と言えるのかもしれませんね。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ピーター・イエーツ
製作 ピーター・イエーツ
脚本 スティーブ・テシック
撮影 マシュー・F・レオネッティ
美術 パトリシア・フォン・ブランデスタイン
編集 シンシア・シャイダー
音楽 パトリック・ウィリアムズ
出演 デニス・クリストファー
    デニス・クエイド
    ダニエル・スターン
    ジャッキー・アール・ヘイリー
    ポール・ドゥーリイ
    バーバラ・バリー
    ロビン・ダグラス
    ジョン・アシュトン

1979年度アカデミー作品賞 ノミネート
1979年度アカデミー助演女優賞(バーバラ・バリー) ノミネート
1979年度アカデミー監督賞(ピーター・イエーツ) ノミネート
1979年度アカデミーオリジナル脚本賞(スティーブ・テシック) 受賞
1979年度アカデミー音楽賞<編曲・歌曲賞>(パトリック・ウィリアムズ) ノミネート
1979年度イギリス・アカデミー賞新人賞(デニス・クリストファー) 受賞
1979年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
1979年度全米映画批評家協会賞脚本賞(スティーブ・テシック) 受賞
1979年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(スティーブ・テシック) 受賞
1979年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル/コメディ部門> 受賞