こわれゆく世界の中で(2006年イギリス・アメリカ合作)

Breaking And Entering

ロンドンの中でも、治安が良くないキングス・クロス地区にオフィスを移設した建築デザイナーのウィル。
彼は10年同棲するリブと、彼女の連れ子で難しい年頃を迎えつつあった娘のビーと共に暮らしていた。
新しいオフィスに連続して強盗が入ったことをキッカケに、犯人探しを始めたウィルでしたが、
犯人の少年を追って行くうちに、彼の母親アミラに惹かれていくようになります・・・。

正直言って、僕にはこの映画の本質がよく分からなかった。
この映画の作り手が目指した方向性を汲み取ろうとは思いましたが、
本来的に道徳的な内容を志向したのか、不道徳的でありながらも人生を模索する内容を志向したのか、
日本人的表現であるかのような灰色的な表現が多くて、僕には今一つピンと来なかったなぁ。

監督は96年に『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカーを受賞したアンソニー・ミンゲラ。
彼は本作を撮った後に、がんの手術を受けたのですが、術後に合併症を発症し、
残念ながら急死してしまいましたので、本作が彼の遺作となってしまいました。

この映画の主人公ウィルの行動を追っていっても、
映画として何を撮りたいのか、未だによく分からないのですよね。

ウィルは精神的に不安定でうつ病を発症している同性相手リブとは、時に愛し合うが、
同棲10年目となった今となっては、いつの間にか目線を合わさぬようになり、会話も減りつつある。
リブの連れ子ビーも時に癇癪を起こし、精神的に不安定な状態が続き、彼女を愛してはいるが理解できない。
そこで彼は外の世界に新たな憂いを求めて、家庭生活の崩壊を黙認するようになってしまいます。

まぁこの時点でウィルに責任がある。
明らかにサインを発していた家族の兆候を敢えて見逃し、彼は逃避を選択したのだ。
そんな態度が明確化すれば、当然、家族もウィルの言うことを聞くわけがありません。

そんな彼の前に最初に現れたのは、何もなければ彼が相手にすることはなかった売春婦オアーナだった。
最初はウィルがどういうつもりでオアーナと会話する気になったのか、よく分かりませんが、
今までのウィルの日常には縁が無かったオアーナのような女性像に惹かれるものがあったのかもしれない。

しかし彼はすぐに気づきます。
「オアーナに自分の心を開放することはできない...」と。

安直に言えば、彼にはオアーナと肉体関係を結び、何とも言えないストレスを発散することはできたはずだ。
しかし彼はオアーナと話すうちに、やはり彼女のような女性とでは癒されないことに気づくのです。

じゃあ誰ならいいのか?
次に彼が目を付けたのは、強盗犯の少年を追って目撃した少年の母親アミラです。
戦禍のボスニアから逃げてきて、ようやっと平穏な生活を手に入れたものの、
ロンドンでの生活は決して明るくなく、非行に走る息子に悩まされるアミラ。

そんなアミラにウィルは強い興味を抱きます。
正直言って、アミラは絶世の美女という感じではないし、肉感的な女性というわけでもない。

しかし、それでもアミラに惹かれていくのです。それは何故か?

まぁこの映画はそこに答えを出そうとはしていませんが、
おそらくウィルはアミラとの肉体関係なら、憂いを見い出すことができるだろうと悟ったのでしょう。
しかし、残念ながらウィルの思惑は裏切られてしまいます。
アミラは息子のためなら、手段・方法を選ばず、何でもやるという姿勢を持っていたのです。

挙句、ウィルは苦しい立場に追い込まれ、アミラとの不倫も隠せなくなってしまいます。
ひょっとしたらリブもウィルの不倫に感づいていたのかもしれませんが、
精神的に不安定なリブですから、ウィルの不倫をウィルの口から聞きたくはないのかもしれません。

もうここまで行ったら、ドツボですね(笑)。
どうしたって、彼らにとってはプラスに機能する状況にいくとは到底、思えません。

ただ、意外なのはそれをこの映画の作り手は予想だにしない力技で、
無理矢理、プラスに機能する状況を作り上げてしまいます。但し、それは合理性を欠く方法でした。
僕にはこのシチュエーションが、ホントにこの映画に適切だったのか、よく分からない。
そして、ストーリー展開として最もベターな選択だったのかも、判断に困ってしまいます。

少なくとも僕にはこの映画はハッピーエンドではなく、
大きな傷跡と、将来への大きな不安を残したエンディングだと判断せざるをえません。

ただこの映画で一番気になるところは、
そのラストシーンを観て、後向きなニュアンスではなく、前向きなニュアンスを感じてしまったところ。
ひょっとしたら、この映画の作り手はこれをハッピーエンドだと真剣に思っているのではないだろうか?

この映画を観ていて、なんか僕にはそう思えてならない・・・。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[PG−12]

監督 アンソニー・ミンゲラ
製作 シドニー・ポラック
    アンソニー・ミンゲラ
    ティモシー・ブリックネル
脚本 アンソニー・ミンゲラ
撮影 ブノワ・ドゥローム
編集 リサ・ガニング
音楽 ガブリエル・ヤレド
出演 ジュード・ロウ
    ジュリエット・ビノシュ
    ロビン・ライト・ペン
    マーティン・フリーマン
    レイ・ウィンストン
    ヴェラ・ファーミガ
    ラフィ・ガヴロン
    ポピー・ロジャース