ティファニーで朝食を(1961年アメリカ)

Breakfast At Tiffany's

確かに本作の頃のオードリーが最も光り輝いていたかもしれませんね。
デビュー間もない頃とは違って、チャーミングな魅力というよりも、すっかり洗練された大人のレディという感じ。

しかし...しかぁーし!だ、ハッキリ言って、この映画は出来が宜しくない。
日本でも超有名な作品だし、世界的にもオードリーがアイコンとして君臨することを象徴する一作であり、
トルーマン・カポーティ原作でオシャレなニューヨークを映したせいか、未だに愛される名作なのですが、
個人的にはえらく鈍重なラブコメという印象で、何もかもが上手くいっていない作品に見えてしまいました。

監督は名匠ブレーク・エドワーズなのですが、コメディ映画を中心に撮っていましたが、
本作が事実上、彼の出世作になると思います。とは言え、彼の監督作ならもっと良い出来の作品がありますね。

まぁ、よく言われることではあるのですが、オードリー演じるヒロインの上階に暮らしている
日本人男性と思われるユニオシの描き方が、なんとも滑稽に見えるステレオタイプな感じで、愉快とは言えない。
全米でも後年に差別的な描き方と批判されましたが、これは確かに批判されても仕方ない描写だと思いました。
演じたミッキー・ルーニーも後年、この批判の釈明に立たされてしまい、おそらく相当な苦悩だったでしょう。

そんなのはユーモアじゃないよ!・・・と言われてしまいそうですが、
本作が製作された1961年は、まだこういった揶揄的な表現はブラック・ユーモアとしてタブーではなく、
普通にエンターテイメントの中でも描かれていた時代だったということが、大きな要因だったとされているようです。

時代が違っても、やはり本作のユニオシの描かれ方は日本人として気持ちの良いものではないでしょうね。
黒ぶちメガネの出っ歯、奇怪な行動をとる日本人ということで、コメディ映画の中でも一際“浮いた”存在だ。
さすがに当時だって、こんな人はいなかっただろうし、欧米の人が見た日本人のイメージを表現したのかもしれない。
ただ、それを何も顧みることなく、そのまま映画の中で表現できてしまった時代、ということだったのかもしれません。
(まぁ・・・「時代」の一言で片付けるのも、個人的にはどうかとは思いますがねぇ...)

しかし、ユニオシを除いたとしても、本作はお世辞にも出来が良いとは思えない。
オードリーの相手役であったジョージ・ペパードもイケメン俳優で、チョット冒頭のオードリーに取り入ろうと、
勝手に部屋に入ってくるような雰囲気は図々し過ぎるとは思ったけど、悪くないキャスティングだったと思う。

2人がティファニーで楽しそうにショッピングを楽しむシーンは、本作を代表する名シーンであることは間違いないし。

ただ、物語の運びが悪く、映画が全体的な冗長な傾向にあって、上映時間以上に長く感じたなぁ。
確かにラブコメとして、コメディの要素も強い作品ではあるのだけれども、ドッと笑えるシーンがあるわけでもなく、
思わずニヤリとさせられる、という感じのシーンも少ない。オードリーの華麗さは分かるけど、もう最初っから2人が
惹かれ合っているかのように親密にしているのも、恋愛映画として違和感があった。だって、恋愛映画の醍醐味って、
やっぱりフォーカスされるカップルが如何にして、お互いの距離を縮めていくかを楽しむことにあると思うのですよね。

本作はそんな恋愛映画にとって大事な“ツボ”を押さえている感じでもなく、悪い意味で中途半端。
そのせいか、僕にはえらく鈍重な映画という印象があって、これは何度観ても僕の中での印象が変わらない。
オードリーの代表作の一つでもあるし、本作が持つファッション性も含めて、未だに人気があるというのは分かるけど、
それでも僕なら、オードリーの出演作の序列を聞かれたら、本作のことを上位に挙げることはないだろうなぁと思う。
それは単に僕の映画の好み、というだけなんだけど...でも、やっぱり、他にもっと良い映画、ありませんかね?(笑)

前述したユニオシが、何度も起こされることでヒロインのことを常にマークしていて、
とある夜に大勢の招待客を読んだパーティーを催したことで、ついに警察を呼ぶことになるのですが、
このパーティーも謎な乱痴気騒ぎって感じで、ユニオシが疑った通り、僕もドラッグ・パーティーなのかと思った。

このパーティーのシーン自体も、失礼ながら...意味不明なくらいに長い。いや、長過ぎる。
ブレーク・エドワーズがこの一連のパーティーのシーンで、何を表現したかったのかがサッパリよく分からない。
このシーンも映画を必要以上に長く、緩慢な仕上がりにしてしまった原因だと思う。結局、後にもつながらないし。

それから、これは原作にもあったのだろうから仕方ない部分もあるかとは思いますが、
ヒロインが収監されているマフィアの大物サリー・トマトと面会して、彼が話す暗号のような「天気予報」を
刑務所外の弁護士に伝言することで報酬を得ているという設定も、なんだか不可解で意図がよく分からない。
コメディ映画だから、そんな細かい部分を気にする必要はないのかもしれませんが、でも、違和感があるから厄介だ。
つまり、映画に上手くフィットさせるためのアプローチがしっかりと出来ていないということの裏返しだからだ。

この辺も含めて、もっと監督のブレーク・エドワーズが全体をコントロールしなければいけませんね。
せっかく“良い土台”のある企画だったのだから、もっと良い出来の映画に仕上げることはできたはずなんですがね。
本作の仕上がりを、原作者であるトルーマン・カポーティがどう思っていたのかを個人的には知りたいですけどね・・・。

どこかで見た顔だと思わせるヒロインのマネージャーで、ハリウッドで名の通ったバーマンを
名優マーチン・バルサムが登場してくるのですが、ハッキリ言って、本作はマーチン・バルサムの無駄遣い。
映画の後半で少しだけメイン・ストーリーに絡んできますが、別に彼でなくとも良かったような扱いの悪さに見えた。

実際問題として、オードリーが演じたホリーみたいなのが映画女優だとしたら、
すぐにスキャンダルに見舞われて長続きしなさそうなので、マネージャーという立場なら大変そうなクライアントだ。
しかし、それも分かっている度量の大きさを見せたいところでしたが、いかんせんあまりに登場時間が短過ぎた。
そのため、せっかくのマーチン・バルサムですら、まるでチョイ役のような扱いを受けてしまっている。これは残念。

そういう意味では、もっと脇役キャラクターを大切に描いて欲しかった。
たいへん申し訳ないけど、ミッキー・ルーニー演じたユニオシを見ても、お世辞にも脇役を大切にしているとは思えず、
根本的にブレーク・エドワーズは脇役キャラクターに、コメディ・パートを盛り上げてくれれば、それで良かった感じだ。

まぁ、1960年代初頭のニューヨークという大都市の姿を、美しいカラー・フィルムで収めた作品であり、
前述したティファニーでの買い物のシーンなんかは、チョット気の利いたシーンがあったりして、なんとも“粋”な感じだ。

そうなだけに全てがダメな映画ではないということは分かるのですが、
本来的なコンセプトであるべきだった、ラブコメとしては全く機能しなかったし、ほとんどオードリーの魅力に依存し、
これといった演出も不在になってしまっている作品であり、それでいて脇役を大切にしているように見えないとなれば、
これは僕の中では本作のことを手放しで称賛するって感じにはならないですよねぇ。映画のテンポもスゴく悪いし。

しかし、この時代にここまで女優さんの魅力で映画を宣伝できたのは、
当時としてはオードリー・ヘップバーンくらいだろう。シャーリー・マクレーンなんかもブレイクしつつありましたが、
ちょうどマリリン・モンローが亡くなり、アメリカの社会情勢的にも暗い時代に差し掛かっていくために、
オードリーの人気も60年代後半に入ると落ち着くようになってしまいますが、本作の存在感は際立つものがある。

映画の出来としては納得がいかないのだけれども、やっぱり本作が今も語り継がれる名作である所以は、
ほぼほぼ間違いなくオードリー・ヘップバーンの女優としての魅力が全開であることに他ならないでしょうね。

そうなだけにブレーク・エドワーズの勝算はヒロインに、オードリーをキャスティングできたことにあったのでしょう。
それくらいに本作のオードリーはフレームインしただけに絵になる。こんなことは、そうそうあるもんじゃないですから。
どうやらトルーマン・カポーティの原作とはかなり違う物語になっていて、映画向けに大胆な脚色が施されている。

ちなみにヘンリー・マンシーニ作曲の Moon River(ムーン・リヴァー)も名曲中の名曲ですね。
ヘンリー・マンシーニはオードリーのために書いた曲であることを認めていたようで、オードリーの死後、
オードリーがヴォーカルをつけた Moon River(ムーン・リヴァー)がリリースされたというのは、僕は知らなかったなぁ。

オードリーにとって本作との出会いは一世一代のもの、という感覚に近かったのかもしれない。

(上映時間113分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 ブレーク・エドワーズ
製作 マーティン・ジュロー
   リチャード・シェファード
原作 トルーマン・カポーティ
脚本 ジョージ・アクセルロッド
撮影 フランツ・プラナー
音楽 ヘンリー・マンシーニ
出演 オードリー・ヘップバーン
   ジョージ・ペパード
   ミッキー・ルーニー
   パトリシア・ニール
   マーチン・バルサム
   パディ・イブセン
   ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ
   アラン・リード

1961年度アカデミー主演女優賞(オードリー・ヘップバーン) ノミネート
1961年度アカデミー脚色賞(ジョージ・アクセルロッド) ノミネート
1961年度アカデミー劇・喜劇映画音楽賞(ヘンリー・マンシーニ) 受賞
1961年度アカデミー歌曲賞(ヘンリー・マンシーニ) 受賞
1961年度アカデミー美術監督・装置賞<カラー部門> ノミネート