ブロードキャスト・ニュース(1987年アメリカ)

Broadcast News

うん、素敵じゃないか。
最初に断言しておくと、この作品はホリー・ハンターの映画である。

映画の出来も素晴らしく、群を抜いた輝きを感じさせるが、
ジェーン役にホリー・ハンターをキャスティングしていなければ、映画はここまで輝かなかったかもしれません。

監督は83年、『愛と追憶の日々』で高く評価されたジェームズ・L・ブルックスで、
やはり彼は実に安定感ある構図で、丁寧に作られた映画を撮りますね。今となっては貴重なディレクターです。
ひょっとしたら本作は彼のベストワークではないでしょうか。『愛と追憶の日々』よりも、出来が良いと思います。
前述したホリー・ハンターは勿論のこと、他のキャスティングも機能的に絡み合ってて、凄く良い。
そんな中で更にホリー・ハンターが突出した魅力を持っているのだから、それはたいした演出だと思う。

映画の舞台はアメリカの首都、ワシントン。
赤字体質に悩まされるテレビ局の報道部に勤務する敏腕女性プロデューサーのジェーンは、
知識豊富なレポーターのアーロンと男女の友情関係を保ちながら、お互いに切磋琢磨し仕事をしていた。
キー局であるニューヨークの人気アンカーマン、ビルのニュース番組で幾多の活躍を重ねてきた2人の前に、
スポーツ部から移籍してきた上昇志向の強いトムが、ジェーンらと共にレポーターとして躍進的な活躍をし、
アーロンが憧れる地方局のアンカーマンに抜擢されたことから、3人の関係にヒビが入る・・・。

トムはスポーツ部から報道部へと移籍になった経歴をコンプレックスに抱え、
自ら「もっと勉強しなければならない」という事実を認めます。一方で、彼は出世のためならと、
何が何でもという気持ちで、あらゆることを吸収し、新たなチャレンジにも果敢に挑みます。

そこで問題となってくるのは、報道者としての倫理観の境界線なのですが、
本作はそういった、ある種、メディアを描いた映画の宿命的なテーマをも、サラッと描いてしまいます。

メディアを描いた作品としても、人間を描いた作品としても、実に優れていますね。
日本でも本作を参考にしたと思われるTVドラマが登場しましたが、本作を上回ることはかなりの難儀ですね。

この映画の複雑なところは、
ジェーンとアーロンの関係性で恋愛抜きにした友情がどこまで続くかという点ですね。
アーロンはかねてより、ジェーンに密かな恋心を抱いているのですが、ジェーンにとってアーロンはあくまで仲間。

なかなか踏み込めないアーロンは本能的に感じていたはずです。「ジェーンとは友達のままでいた方がいい」と。
それはアーロンの本心を暴露すれば、場合によっては友情が壊れてしまう可能性があると察知していたから。
一方で当然、「ジェーンに告白したい」とする願望はあるわけで(笑)、アーロンは思い悩みます。
しかし、ジェーンは自らのジャーナリズムの表面的には賛同し、自分の欠点を指摘してくれたトムに興味を抱き、
畑違いの分野から転籍してきたにも関わらず、躍進的な活躍をする彼に惹かれていきます。

そんな2人の心の揺れ動きが、従来の友情に亀裂をもたらし、
良き仕事仲間であったジェーンとアーロンの関係性をより複雑なものへと変えてしまいます。

どんなに肉体的に強い人間でも、精神的にはこんな脆さは誰しも抱えていると思うんですよね。
そんな人間関係の難しさを、脚本の時点で盛り込み、映像化させたのですから見事な映画です。

アーロンが解雇を宣告されて、最後のチャンスとしてトムが不在時に、
アンカーマンのチャンスを得て出演したニュース番組で、メインキャスターでの経験が乏しいせいか、
緊張のため滝のように汗を流し、視聴者から「あのキャスターは心臓発作でも起こしているのではないか?」と
電話が来てしまったというのは、チョット可笑しかったですね。読み原稿は素晴らしい出来で、
出演時に着るスーツは抜群のセンスと準備万端だけど、肝心かなめの本番にはとことん弱い。
(僕も似たタイプの人間だから、アーロンの辛い気持ちは何となくだけど、分かる...)

まぁ本作はそういったアーロンの性格に対しても、シビアに描いているのですが、
よく勘違いされがちなのですが、僕は本作はジェーン、アーロン、トムの3人の生き方を
賛美しているわけではないと思うのです。強いて言えば、三者三様の生き方を否定はしなかったというだけです。

ある意味では中立的な立場なんですが、端的に言うと客観的な視点なんですよね。
こういうヒューマン・ドラマである一定の客観性を持てるというのは、実に凄いことだと思いますねぇ。

僕が本作で特に大好きなのは、映画のラストシーン。
3人の関係が危うくなり、7年の時が経過する。トムはビルの後釜として、キー局のアンカーマンとなり、
ジェーンは相変わらずのキャリア・ウーマン。アーロンは田舎で家庭を持ち、静かに暮らしている。
そんな設定の中、3人はトムのアンカーマン就任会見の日、久しぶりの再会を果たします。

激しい冷たい雨が降る昼下がり、広い公園で雨宿りできる小屋の中。
3人は7年ぶりに顔を合わせ、7年ぶりに、またいつもような会話をします。
7年という時間が如何に大きなものであり、既に後戻りできる状態ではないことを実感しながら。
僕は本作、この印象的なラストシーンに全てが象徴されていると思うんですよね。

たぶん今となっては侮られがちな映画かとは思いますが、
製作から20年以上経った今も尚、その輝きが失われてはいない80年代を代表する素晴らしい傑作です。

(上映時間132分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ジェームズ・L・ブルックス
製作 ジェームズ・L・ブルックス
脚本 ジェームズ・L・ブルックス
撮影 ミヒャエル・バルハウス
音楽 ビル・コンティ
出演 ウィリアム・ハート
    ホリー・ハンター
    アルバート・ブルックス
    ロバート・プロスキー
    ロイス・チャイルズ
    ジョアン・キューザック
    ジャック・ニコルソン
    ロリー・ペティ

1987年度アカデミー作品賞 ノミネート
1987年度アカデミー主演男優賞(ウィリアム・ハート) ノミネート
1987年度アカデミー主演女優賞(ホリー・ハンター) ノミネート
1987年度アカデミー助演男優賞(アルバート・ブルックス) ノミネート
1987年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジェームズ・L・ブルックス) ノミネート
1987年度アカデミー撮影賞(ミヒャエル・バルハウス) ノミネート
1987年度アカデミー編集賞 ノミネート
1988年度ベルリン国際映画祭主演女優賞(ホリー・ハンター) 受賞
1987年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1987年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1987年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(ホリー・ハンター) 受賞
1987年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ジェームズ・L・ブルックス) 受賞
1987年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(ジェームズ・L・ブルックス) 受賞
1987年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(ホリー・ハンター) 受賞