俺たちに明日はない(1967年アメリカ)

Bonnie And Cryde

これはアメリカン・ニューシネマの時代の幕開けを告げた、歴史的名作だ。

正直に白状すると、僕はそこまで影響を受けた作品というわけではないし、
そこまで好きな映画というわけではないのだけれども、映画史に於ける価値は高いと思います。

1967年にハリウッドでも、レイティング・コードの撤廃で、
それまではタブーとされていた映像表現が可能になったことで、激しいアクション・シーンにしても、
かなり踏み込んだ直接的な性描写も可能になるということになり、その先駆けとして本作の登場が
センセーショナルな存在として日本では、「これがニューシネマだ!」というコピーが付けられました。

監督のアーサー・ペンもどれだけ意識して撮っていたかは分かりませんが、
世界恐慌の時代に異性に対しては晩熟なクライドに、田舎での日常生活に嫌気が差していたボニーの2人が
新聞を賑わせた銀行強盗のアベックを主人公として描いたこと自体、当時としては斬新なことだったと思います。

映画の冒頭から如何にも熱そうな家の2階で、全裸でベッドに横たわるボニーを
生々しく描いていて、性的なニュアンスを強調して撮っていて、それを見事に体現できるフェイ・ダナウェーという
セクシーで現代的な女優をヒロインに据えることができて、「これまでとは違うものを作る」という気概を感じさせます。

いくら悪党とは言え、本作のラストシーンのように凄惨かつ衝撃的なシーンを
直接的な映像表現としては、67年以前の映画界では描くことはできなかったと思いますね。
“撃たれる美学”と言っては言い過ぎかもしれませんが、文字通り「ハチの巣」にされる姿はどこか物悲しくも流麗だ。

ボニーを演じたフェイ・ダナウェーも、色々と勇気のいる役だったとは思いますが、
このラストシーンでの衝撃的な有り様は、インパクト絶大だったし、記念写真を撮るシーンのショットにしても、
一つ一つのシーンが美しくも女性的なカッコ良さがある。ファッション・リーダー的なところがあるのかと思いきや、
結構奔放なところがあって、この時代のカウンター・カルチャーのアイコンのような女優さんだったのかなと思う。

そこにヤンチャなウォーレン・ビーティが絡んでくるわけですから、
それは平穏ではない映画になるのは当然ですが、ハリウッドきってのプレーボーイの彼が
女性に晩熟な銀行強盗という設定は、どこか違和感がありますね(笑)。「オイオイ、そりゃないだろ」と。

そんな2人が、映画の冒頭で瓶コーラを飲み干すシーンは、どこか艶めかしい。
考え過ぎかもしれませんが、アーサー・ペンもおそらく意識して、敢えてこのシーンを撮ったと思いますよ(笑)。
こういうチャレンジングなアプローチが出来たのが、このアメリカン・ニューシネマの時代なわけですからね。

この映画の登場によって、当時の映画界も「ここまでなら大丈夫」という“線”を引いたようなもので、
次々とそれまでの映画界では出来なかった描写を可能とした、一つの指標となったわけですからね。
そういう意味でも、映画史に名を残す名作に値するものだと思うのです。アーサー・ペンは過小評価された監督で、
確かに大傑作というのは無いかもしれないけど、本作のような先駆的な映画を多く手掛けていたのですよね。

アーサー・ペンは本作だけではなく、アメリカン・ニューシネマの旗手の一人だと思っていて、
本作の前に撮った66年の『逃亡地帯』という作品は、中身はほぼニューシネマ期の内容と言っていいくらいで、
ヘヴィで新しいアプローチを志向した素晴らしい傑作です。今となっては、忘れられた映画ではありますがね。

刹那的な生き方を描く映画自体が、受け入れられにくかったところですが、
ボニーとクライドの衝動的かつ刹那的な生き方が鮮烈に映りますが、それでも2人は人道的な側面を見せており、
世界恐慌の影響で銀行から自宅を差し押さえられた家族と出会って、銀行の差し押さえを示す看板を
家族の前で銃撃して、「銀行を襲ってやるよ」と言うシーンが印象的で、根っからの極悪人というわけではない。

とは言え、景気によって銀行もそうせざるをえない状況なわけで、
貧困にあえぐ人々のために銀行強盗をはたらくこと自体は肯定されることはありませんが、
アーサー・ペンは警察をあざ笑うかのように犯行を繰り返して、新聞紙面を賑わすようになって、
若者たちはまるで英雄のように2人の犯行を見るものの、大人たちは快く思わないという対立構造をデザインします。

少々、ステレオタイプの構図にも思えるけれども、幾度となく2人を取り逃がした警察の怒りは蓄積し、
それが結果的に映画史に残る名ラストシーンの「ハチの巣」のエピソードへとつながっていくのですが、
その流れがどこか物悲しく、時代のカリスマというよりも、アウトローへの哀れみとも言うべき雰囲気に包まれる。

今となっては何も驚くことはない内容の映画であり、性描写も暴力描写も平凡でもある。
しかし、今話題のインティマシー・コーディネーターなど当時は存在しなかったでしょうし、
あまり前例の無いセンセーショナルな内容になることが分かっていただけあって、作り手にとっても大きな挑戦であり、
この映画が誕生しなければ、ハリウッドの潮流はまた違っていたかもしれない...と考えると、やはり価値ある一作だ。

本作は当初、フランソワ・トリュフォーに監督をオファーしていたというのだから、
やはり当時のハリウッドのプロダクションも、新しい潮流を作るためにはニューシネマ・ムーブメントが先行していた、
ヨーロッパ映画界の力が必要であると考えていたのだろうし、レイディング・コードの撤廃にあたって、
ヌーヴェルヴァーグやネオレアリズモ、フリー・シネマといった潮流に影響されていたことは間違いないでしょうね。

また、『フレンチ・コネクション』でブレイクする前のジーン・ハックマンが、
クライドの兄バック役で出演しているのには注目だ。当時から若々しくはないし、ウォーレン・ベイティと兄弟には
見えないが(笑)、少々気が荒い感じが彼のキャラクターに合っていて、当時もオスカーにノミネートされました。
主要メンバーは全員、アカデミー賞にノミネートされましたが、その中で唯一受賞したのはバックの妻を演じた、
エステル・パーソンズでボニーとクライド、彼らの仲間モスとは合わず、一般市民のような振る舞いだが、
彼女の存在も犯行を重ねる犯罪グループの中に於いて、チョットしたアクセントにはなっている存在感だ。

ボニーとクライドの恋人関係にしても、どことなくプラトニックな関係性で
おそらくそれまでは男性上位な関係が当たり前という時代の価値観であったでしょうけど、
クライドが全く女性を知らないとか、性交渉には積極的になれないなど、それまでの映画界では主人公として
描くことが避けられてきたような設定で印象的ですが、最終的には肉体的というよりも精神的に結ばれるという、
どこか現代的な恋愛観が描かれるというのが、なんとも先進的なニュアンスがある映画だなと、驚かされる。

ボニーはファッショナブルで、カウンター・カルチャーのアイコンのような存在ではありますが、
それでも晩熟なクライドのことを受け入れ、彼女なりに理解し、彼を愛する姿にボニーの大人な姿を垣間見れる。

欲を言えば、強盗シーンはもっと時間を割いて描いて欲しかった。
現実、こうは上手くいかないだろうし、唐突に出会ったボニーとクライドが強烈に引き合わさったとは言え、
あまりにトントン拍子に進み過ぎるのが、気になる。だってボニーは田舎町のウェートレスですからね。
クライドは前科者ですけど、平凡な日常生活に飽き飽きして刺激を求めていたとは言え、スムーズではなかったはず。

どちらかと言えば、アクションにクローズアップしたかったというより、
時代を象徴するアウトローとしてのボニーとクライドを中心に描きたかったようですので、ドラマ重視のあたりは
ロバート・ベントンらしいシナリオという感じもしますが、僕はアクションももっと積極的に描いて欲しかったかな。

激しさの無い強盗を描いた映画となると、内容的には少々緩慢になってしまいますが、
本作のコンセプトからすると、緩慢な仕上がりで良いわけがないでしょう。ラストの「ハチの巣」を際立たせるために、
強盗シーンはおとなしく描いていた、ということなのかもしれませんが、それにしてもどこか物足りない。

まぁ・・・ウォーレン・ベイティが自分でプロデュースした作品ですから、
彼の意見力もそうとうに大きかった企画だったと思いますので、情け容赦ない姿にはしたくなかったのかもしれません。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 アーサー・ペン
製作 ウォーレン・ベイティ
脚本 デビッド・ニューマン
   ロバート・ベントン
   ロバート・タウン
撮影 バーネット・ガフィ
音楽 チャールズ・ストラウス
出演 ウォーレン・ベイティ
   フェイ・ダナウェー
   ジーン・ハックマン
   エステル・パーソンズ
   マイケル・J・ポラード
   デンヴァー・パイル
   ジーン・ワイルダー

1967年度アカデミー作品賞 ノミネート
1967年度アカデミー主演男優賞(ウォーレン・ベイティ) ノミネート
1967年度アカデミー主演女優賞(フェイ・ダナウェー) ノミネート
1967年度アカデミー助演男優賞(マイケル・J・ポラード) ノミネート
1967年度アカデミー助演男優賞(ジーン・ハックマン) ノミネート
1967年度アカデミー助演女優賞(エステル・パーソンズ) 受賞
1967年度アカデミー監督賞(アーサー・ペン) ノミネート
1967年度アカデミーオリジナル脚本賞(デビッド・ニューマン、ロバート・ベントン、ロバート・タウン) ノミネート
1967年度アカデミー撮影賞(バーネット・ガフィ) 受賞
1967年度アカデミー衣裳デザイン賞 ノミネート
1967年度全米脚本家組合賞オリジナル脚本賞(デビッド・ニューマン、ロバート・ベントン、ロバート・タウン) 受賞
1967年度全米脚本家組合賞脚本賞<ドラマ部門>(デビッド・ニューマン、ロバート・ベントン、ロバート・タウン) 受賞
1967年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1967年度全米映画批評家協会賞脚本賞(デビッド・ニューマン、ロバート・ベントン、ロバート・タウン) 受賞
1967年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(デビッド・ニューマン、ロバート・ベントン、ロバート・タウン) 受賞
1967年度イギリス・アカデミー賞新人賞(フェイ・ダナウェー) 受賞
1967年度イギリス・アカデミー賞新人賞(マイケル・J・ポラード) 受賞