ボヘミアン・ラプソディ(2018年イギリス・アメリカ合作)

Bohemian Rhapsody

全世界を熱狂させた人気ロック・バンドクイーン≠フ伝記映画。

あくまで主人公はヴォーカルのフレディ・マーキュリーを中心に描かれるが、
これはあくまで“ファミリー”としてのクイーン≠描いた映画であることを忘れてはならない。
さすがにブライアン・メイとロジャー・テイラーの意見が、大きく反映された映画なだけに、
限りなくノンフィクションな内容であると言っていいと思う。そういう意味では、実に凄い映画だと思う。

確かに完璧な映画ではない。中途半端にシリアスになってしまい、
映画のペースを作る意味で、映画の中盤はなかなか難しい部分はある。
ただ、これくらいの塩梅が丁度良かったのかもしれないと、映画を観終わってから強く感じましたね。

と言うのも、やはりクライマックスに登場する85年の大イベント「ライヴ・エイド」のシーンに度肝を抜かされる。
僕も「ライヴ・エイド」のDVDボックスを持って、以前、ぶつ切りながらも全編鑑賞しましたけど、
ナンダカンダで母国イギリスからは愛されたスーパー・バンドであったことを象徴したかのように、
当時のクイーン≠フステージングは圧巻で、客席も異様なまでに盛り上がっていたのを記憶しています。
この映画は、それをほぼフル・ステージ、完璧なまでにその当時の呼吸・息吹きを再現したのだから、まだスゴい。

映画のクライマックス約15分で、ほぼ完全に再現しているのですが、
当時のクイーン≠フ持ち時間が20分とされていたそうで、実際のステージ時間は約21分だったのですが、
これが全て忠実に再現されていて、これをやってのけた作り手の情熱に感服しました。

ただ、本作の企画が立ち上がって、実際の撮影に入ってからが大変だったようで、
どうやら撮影の途中で実際にはブライアン・シンガーが、撮影現場に現れないことが原因で
プロダクションから解雇されており、残り部分はデクスター・フレッチャーがメガホンを取ったようです。
(しかし、本作の監督は契約と規程の関係で、ブライアン・シンガーがクレジットされている)

映画では一部、脚色されている部分はあるでしょう。
フレディが自身、エイズに感染したということを直接的に彼の口からメンバーへ告白したのは、
彼の死の直前であったとのことで、勿論、薄々、彼が大きな健康問題を抱えていることは感じていたとのことだ。
しかし、この部分についても、映画では少し違ったニュアンスで描かれている。ただ、これは小さなことだと思う。

ただ、個人的には若い頃のフレディがコンプレックスにしていたのは分かるが、
フレディを演じたラミ・マレックに過剰なまでに出っ歯を強調したシルエットを作ったのは気になるけど・・・。
(正直、70年代前半の映像を観れば分かるけど、いくらなんでもあんなに出っ歯が強調される顔ではない)

ボブ・ゲルドフが発起人となって、一大イベントとなった「ライヴ・エイド」ですが、
映画で描かれた通り、80年代に入ってからのクイーン≠ヘ幾つかの伝説的な公演があったとは言え、
バンドとしての結束力は弱り、フレディがソロ活動を模索したこともバンド・メンバーの反感をかい、
結果としてクイーン≠ヘ存続の危機にありましたし、バンドとしてもやや迷走していました。

そこで「ライヴ・エイド」への出演を決断したわけですが、
おそらく当時の「ライヴ・エイド」の出演者への最大の関心事はレッド・ツェッペリン≠セったのではないかと思います。
勿論、レッド・ツェッペリン≠ヘJFKスタジアムでの出演となったので、故国イギリス側では温度差もあったかも
しれませんが、なんせレッド・ツェッペリン≠ヘ1日限りの再結成でしたし、ドラムを誰が叩くのか話題になったはず。
(実際はイギリスのステージに上がったフィル・コリンズがコンコルドに乗って、フィラデルフィアへ行って叩きました)

それでもクイーン≠フステージになれば、フレディと観客の大合唱。
文字通り、観客と一体化した20分間を全世界に衛星放送で発信しただけに、一気に伝説のステージになりました。

そんな歴史的瞬間を真正面から描いたという点で、もう僕の中では感動ポイント(笑)。
ただ、あくまで個人的な意見なんだけど...ライヴの演出としては、ステージから客席のショットを
主体にライヴ・シーンを描くのは好きではない。勿論、こういうアングルがあるのは良いんだけど、
あくまでクイーン≠フステージを堪能する目的と考えれば、やはり客席からのショットを中心にして欲しい。

特にクイーン≠ヘ世界的に見ても、日本で人気が出始めた時期が早くって、
イギリスと日本では、やはり彼らの音楽は未だによく使われていて、根強い人気がありますからね。
そういう意味でも、この映画が日本でもメガヒットだった理由がよく分かる気がします。

フレディは80年代後半から体調が徐々に悪化していき、
90年に公の場で姿を見せたのが最後となり、91年に肺炎のためこの世を去りましたが、
晩年はやつれてしまい明らかに体調が悪そうな姿が映像として残されていますが、それでも彼自身、
かなりメディアへの露出は減らしていましたので、「同情的に見られたくない」という想いは強かったのでしょう。

彼もまた、“他人の目”が気になって、常に“他人の目”と闘っていた部分はあるのかもしれません。

そんな中で唯一、“他人の目”と闘う必要が無かったのがステージの上ということなのかもしれません。
そしてパフォーマーである彼が目指していたことは、「同じことは繰り返したくない」ということです。
確かに演奏する曲自体は、人気曲を何度も演奏し歌っていますが、常に新しいことを表現しようとしていたのです。

それゆえ、フレディは文字通りの“一期一会”を体現するかのように、
スタジアムに集めた大勢の観客を煽り、大合唱して一度しか出来ないステージングを展開するようになります。
ひょっとすると、クイーン≠アそが観客とバンドの一体感を実現した最初のライヴ・バンドだったのかもしれません。

映画でも描かれていますが、タイトルになっている Bohemian Rhapody(ボヘミアン・ラプソディ)は
確かに有名曲ですが、6分弱に及ぶ長編であり、途中のオペラ・パートも前例の無い試みで
当時のレコード会社もシングル・カットすることに難色を示していたことは有名な話しで、前衛的な姿勢でした。
それでもフレディの強い熱意でシングル・カットが実現して、全英シングル・チャートで第1位を獲得しました。

劇中でも描かれていますが、当時の技術からすると、この曲の録音は大変だったと思います。
幾重にもオーヴァー・ダブを重ねて、音の厚みを出しながら、絶妙なアンサンブルを演出しています。
正しくオペラのようで、当時のロックという枠組みの中では完全にはみ出たスケールでした。

もっとも、当時はプログレッシヴ・ロックの代表格であるピンク・フロイド≠ェ
73年に発表したアルバム The Dark Side Of The Moon(狂気)が世界的な大ヒットとなっていたので、
決して長編作品が売れないということが定説ではなくなっていた時代ではあると思うのですが、
それでも当時のレコード会社にしたら、宣伝メディアがラジオやテレビが中心であることが否めず、
長過ぎる作品は放送にかからないか、若しくはフル・コーラス流れずにカットされてしまうということで
とても扱いづらいというのがイメージとしては残っていたのでしょう。まぁ・・・確かにその危惧は当たってますけどね。

映画は70年代からのクイーン≠フ変遷を描きながら、
フレディが混迷を極めた80年代に入り、バンド仲が急速に悪化し、如何にして「ライヴ・エイド」での
伝説的なステージに至ったのかを、克明に描いていきます。前述したように「ライヴ・エイド」でのシーンが
秀逸なCGもあって、凄い迫力でそれまでの不足なところは、全て吹っ飛んでしまいました。

これがブライアン・シンガーが途中で放棄した仕事だというから驚きで、
中間をつないだと言われるカメラ担当のニュートン・トーマス・サイジェルが頑張ったことと、
それから後任として急場をしのいだデクスター・フレッチャーが、実に素晴らしい仕事をしたことに他ならないだろう。

敢えて映画はフレディの最期を描こうとしませんでした。これは正解だったと思います。
やはりクイーン≠ヘまだ続いていたプロジェクトだからこそ、フレディの最期は描けなかったでしょう。

だからこそ、最高の盛り上がりのまま、映画を終わらせたかったのでしょう。

(上映時間134分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ブライアン・シンガー
製作 グレアム・キング
   ジム・ビーチ
原案 アンソニー・マクカーテン
   ピーター・モーガン
脚本 アンソニー・マクカーテン
撮影 ニュートン・トーマス・サイジェル
編集 ジョン・オットマン
音楽 ジョン・オットマン
出演 ラミ・マレック
   ルーシー・ボーイントン
   グウィリム・リー
   ベン・ハーディ
   ジョセフ・マッゼロー
   エイダン・ギレン
   トム・ホランダー
   アレン・リーチ
   マイク・マイヤーズ
   アーロン・マカスター

2018年度アカデミー作品賞 ノミネート
2018年度アカミデー主演男優賞(ラミ・マレック) 受賞
2018年度アカデミー音響編集賞 受賞
2018年度アカデミー音響調整賞 受賞
2018年度アカデミー編集賞(ジョン・オットマン) 受賞
2018年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ラミ・マレック) 受賞
2018年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2018年度全米映画俳優組合賞主演男優賞(ラミ・マレック) 受賞
2018年度ノース・テキサス映画批評家協会賞主演男優賞(ラミ・マレック) 受賞
2018年度アイオワ映画批評家協会賞主演男優賞(ラミ・マレック) 受賞
2018年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
2018年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(ラミ・マレック) 受賞