白いドレスの女(1981年アメリカ)

Body Heat

うだるような暑さが続くフロリダの地方都市で弁護士をするネッド。
そんな彼が人妻マディと不倫関係に陥ったことから、マディの夫エディ殺害を計画するフィルム・ノワール。

今や悪女映画の古典的名作とも言える作品ではありますが、
本作自体が44年にビリー・ワイルダーが撮った『深夜の告白』をモチーフにしています。
とは言え、具体的な映像表現として男女の肉体関係を表現できるようになった70年代以降では、
おそらく本作が正統派の悪女映画のパイオニアと言っていいだろう。

本作の監督を務めたローレンス・カスダンは、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』の脚本でデビューしましたが、
本作が実は初監督作品。後にドラマ系統の作品で良い味わいを出していますが、本作はかなり異質です。
まぁさして過激な性描写というわけではないにしろ、それでも本作のキャスリン・ターナーの悪女っぷりは強烈だ。

思わず体から湯気が出てるのではないかと心配になるぐらい、
汗で熱気ムンムンとした映画になっているのですが、登場人物の着衣も汗でビショビショだ(笑)。
一見すると、この汗臭さが嫌になっちゃうのですが、映画の雰囲気としてこれはあくまで小道具だ。
湯気が出てるかと思えるほど汗にまみれた暑さが、映画にアダルトな空気を吹き込んでいます。

えてして、この手のタイプの映画はストーリー上でいじくる映画が多いのですが、
本作は一概にストーリー上でいじり倒した作品というわけではなく、実にシンプルと言っていいと思います。

この辺のスタンスはストーリーはシンプルなものにして、
映画の雰囲気作りを最優先するローレンス・カスダンの姿勢には感心させられましたね。
ジョン・バリーの気ダルいジャズ風なミュージック・スコアを上手く活かしていますね。
ネッドとマディのラブシーンの撮り方一つにしても、執拗なまでの映画の雰囲気が功を奏していますね。

特にネッドとマディが最初に結ばれるラブシーンは上手い撮り方をしていますねぇ〜。
マディを忘れられそうもないネッドが欲情に駆られて、ガラスを割ってまでもマディを抱きに行く。
もっと言えば、ネッドがガラスを割る直前、ガラス戸越しに見合う2人を映したシーンが抜群に良い。

こうして映画が出来る範囲の最大限のパフォーマンスを尽くす努力をしているんですよね。
僕は好きだなぁ〜っ、こういう映画。思わず贔屓目で見ちゃいます(笑)。

キャスリン・ターナーは撮影当時26歳という若さでしたが、
悪女のオーラがムラムラと漂う、貫禄すら感じさせる鮮烈な存在感ですね。
相手役のネッドを演じたウィリアム・ハートもタジタジの存在ですね(苦笑)。

今のキャスリン・ターナーしか知らなかったとすると、正直言って、これは驚きの出世作ですね。

ただ...フィルム・ノワールとして良く出来た作品だとは思うけど、
正直言って、僕は本作をあまり高く評価していません。それは映画的興奮に欠けるからですね。
何処がどうなれば映画的興奮が生じたか、具体的に説明するのは難しいのですが、
敢えて指摘すれば、マディの夫エディを襲撃するシーンがあまりに性急に処理されてしまった点だろう。

少なくとも本作にとって、エディを襲撃するシーンはひじょうに重要なのですが、
あまりに大雑把に描かれ過ぎている。主人公2人の性愛を描くには申し分のない演出ですが、
肝心かなめのエディ殺害に関するエピソードがあまりに急ぎ過ぎた印象が残りますね。

これはマディの本性に気づくネッドを描くシークエンスにしても同様。
映画の前半では実に緻密にネッドとマディの逢瀬を描いていたのに、
映画の後半になってストーリーが動き始めると、てんで映画が雑になってしまうのですよね。
この荒っぽさはローレンス・カスダンらしからぬ仕事っぷりですね(苦笑)。

この辺の難点はシナリオの出来による影響も大きいかもしれませんね。

残念なんですよね、映画の前半が素晴らしいだけに。
後半がもうチョット丁寧に描かれていれば、映画の印象はもっと変わっていたでしょうね〜。

まだ駆け出しの頃のミッキー・ロークが爆弾マニアの役で出演しているのにも注目だ。
撮影当時24歳という年齢ではありましたが、10代後半のような随分と若い役どころで出演。
本作の後で数々のヒット作に恵まれるようになり、80年代を代表するスターの一人となりました。

まぁ彼の役どころも本作にとっては極めて重要なキャラクターになってくるのですが、
この映画で描かれる悪女マディの恐ろしいところは、この爆弾マニアから情報を手にしたネッドが、
電話越しにマディから彼女の家の敷地内にあるボートハウスへ行くよう指示されるシーンだ。
このシーンでカラクリの全てをネッドが把握するわけで、たいしたカラクリではないのですが、
まるで精密機械のように無感情的にネッドを罠にハメようとするマディの恐ろしさがよく出ていたと思う。

このカラクリに気づいても、マディを問い詰めることができないあたりは、
よっぽどネッド自身がマディを諦めることができないという、悲しい男の性(さが)を感じますねぇ。

映画の後半がイマイチなためか、結果的には凡作ではありますが、
悪女映画としての先駆性は備わっており、その価値は十分に評価されるべきだと思いますね。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ローレンス・カスダン
製作 フレッド・T・カロ
脚本 ローレンス・カスダン
撮影 リチャード・H・クライン
編集 キャロル・リトルトン
音楽 ジョン・バリー
出演 ウィリアム・ハート
    キャスリン・ターナー
    リチャード・クレンナ
    ミッキー・ローク
    テッド・ダンソン
    J・A・プレストン
    ラナ・サウンダース
    キム・ジマー