ボブ&キャロル&テッド&アリス(1969年アメリカ)

Bob & Carol & Ted & Alice

67年、ハリウッドでも表現に関する規制緩和が行われたので、
一般映画でも踏み込んだ性表現や暴力表現が可能になったのですが、
それを考慮しても、本作はかなりセンセーショナルかつ前衛的な内容だったと言えると思いますね。

まぁフリーセックスを追求する夫婦の物語なのですが、
そこに対照的な強いモラル感を持つ、親友夫婦を比較対照として、古い倫理観からの脱却を目指して、
夫婦交換にトライするものの、大切な“何か”に気づくまでを描く、艶笑コメディの先駆的作品。

ポール・マザースキーも認めていた通り、
本作は当初、映画会社も難色を示したそうなのですが、さすがにそれまでの閉塞感を払拭し、
人々が猛烈なスピードで開放的なムードに包まれていた時代の作品ですから、
さすがに多くの観客にアッサリ受け入れられたようで、多くの支持を集めたそうです。

まぁ確かに当時、『俺たちに明日はない』、『真夜中のカーボーイ』など
それまでは一般映画の枠組みでは実現しえなかった映像表現なども可能になった、
いわゆるアメリカン・ニューシネマ隆盛期を迎えておりましたから、本作もその波に乗りましたね。

言ってしまえば、本作も明らかなニューシネマ・ムーブメントの一貫なのです。
67年の規制緩和以前では、本作のようなキワどい題材の作品が支持を集めることはできなかったでしょう。

正直、映画の出来自体はそこまで良いとは思えない。
しかしながら、本作はやはり主演4人のアンサンブル演技に大きく助けられており、
ポール・マザースキーも認めていましたけど、映画に於けるキャスティングの重要性を改めて認識させられます。

特に親友夫婦がフリーセックスを求める活動に熱中していることに
徐々に触発されたか、自らの性衝動を抑えられない弁護士を演じたエリオット・グールドが良い。
彼は73年の『ロング・グッドバイ』が最高にカッコ良いのですが、どことなくユル〜い空気を漂わせ、
倦怠期を迎えた夫婦の弛緩した空気を自ら演出できる説得力ある芝居で、ひじょうに良い。

あと、個人的には今は亡きナタリー・ウッドのファンには強く勧めたい一本ですね。
ネグリジェ姿、ビキニ姿など、当時としては極めて露出度が高いファッションで登場し(笑)、
やはり当時のハリウッド女優としても、一際、インパクトの強い存在感で突出していますね。

マリファナやドラッグが一種のステータスとされていた時代で、
違法なことは変わりないけど、LSDも公然と服用することが流行していた時代。
開放的なムードが漂う時代なせいか、あらゆる宗教的な集会も催されていました。
それを象徴するのが、映画の冒頭で描かれる、訳の分からない新興宗教のような集会なのですが、
これが約15分にわたって展開されるのですが、妙に力の入った演出でインパクトは大きかったですね。

これは実際にポール・マザースキーが私生活の妻を連れて、
似たような合宿に参加してまでリサーチしたらしいのですが、その甲斐がありましたね(笑)。
あまりに真に迫っていたため、思わずホントの集会だったのかと思わせられるほど。。。

当初は取材で訪れていたボブとキャロルの夫婦が、
すっかり触発されて、フリーセックスを本格的に追求するように変容するということに、説得力がありますね。

この映画の良さは、「沈黙」を上手く利用できた点にあります。
クライマックスに最大の「沈黙」があるのですが、台詞を介さずにあらゆることを表現したことは大きな強みで、
これらはポール・マザースキーによる意図した演出であり、今の映像作家も見習うべき点の一つですね。

決して緻密に伏線を張り巡らすタイプの映画でもありませんが、
台詞で多くを語る映画ではなく、出演者の表情や場面ごとの空気で語るというスタンスが、
しっかりと出来ており、これがポール・マザースキーはデビュー作から出来ているのですから凄いですね。

ポール・マザースキーって、ハリウッドでもユニークな存在だと思うのですが、
映画監督としてのキャリアをもっと伸ばそうと思えば、伸ばせた実力はあったと思うんですよね。
68年の『太ももに蝶』のシナリオを書いて評価され、本作で監督デビューに至るのですが、
74年の『ハリーとトント』、76年の『グリニッチ・ビレッジの青春』、78年の『結婚しない女』など
70年代は順調にキャリアを伸ばしていたのに、90年代に入る頃にはすっかり低迷してしまい、
最近では俳優活動に専念しているようで、93年の『フライング・ピクルス』以降は監督していないようですね。

不遇でしたけど、ホントは80年代も凄く良い映画を数多く撮っていて、
84年の『ハドソン河のモスコー』にあっては、日本劇場未公開作とは言え、隠れた傑作と言っていい出来。
個人的にはもっと数多くの映画を撮って欲しかったですね。これだけの手腕があるのですから、
もっと映画監督としてのキャリアは伸ばせたはずと思うんですよね。いつも大きく“外さない”ですから。

ちなみにこの時代にしては珍しく、映画の冒頭に空撮シーンがあるのですが、
逆光気味になって、ヘリの窓ガラスにカメラマンの影が映るのは、ご愛嬌ですね。
まだこの頃は色々と試行錯誤しながら、あらゆる撮影方法にチャレンジしていたことがうかがえます。

サブカルチャーを描いた、アメリカン・ニューシネマの一本としては、オススメできる作品ではあるかな。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ポール・マザースキー
製作 ポール・マザースキー
脚本 ラリー・タッカー
    ポール・マザースキー
撮影 チャールズ・E・ラング
音楽 クインシー・ジョーンズ
出演 ナタリー・ウッド
    ロバート・カルプ
    エリオット・グールド
    ダイアン・キャノン
    リー・ベルジュ

1969年度アカデミー助演男優賞(エリオット・グールド) ノミネート
1969年度アカデミー助演女優賞(ダイアン・キャノン) ノミネート
1969年度アカデミーオリジナル脚本賞(ラリー・タッカー、ポール・マザースキー) ノミネート
1969年度アカデミー撮影賞(チャールズ・E・ラング) ノミネート
1969年度全米映画批評家協会賞脚本賞(ラリー・タッカー、ポール・マザースキー) 受賞
1969年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ダイアン・キャノン) 受賞
1969年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(人物ではなく作品自体) 受賞