ブルーサンダー(1983年アメリカ)

Blue Thunder

映画の出来はともかく...よく撮ったなぁ、と思わず言いたくなる作品だ。

さすがはハリウッドを代表するアクション映画職人のジョン・バダムの監督作品なだけあって、
CGを使わない、ある意味で「本物のアクション・シーン」にこだわった作品で、大迫力のスカイ・アクションだ。

映画の前半はなかなかエンジンがかからない感じで、
盛り上がるところが少ないのですが、映画の後半はしっかり見せ場を作って楽しませてくれる。
特に有名なロサンゼルス市街地でヘリコプターの空中戦を描いた屈指の空撮シーンは、
約2ヵ月にわたって日曜日のみ使って、ロス市警立ち合いのもと撮影を敢行されたようで、
見せ場に継ぐ見せ場の連続で、手に汗握るアクションが続いて見応え十分の内容だ。

さすがはジョン・バダム、この辺はしっかりと楽しませてくれる、
80年代〜90年代半ばにかけてのジョン・バダムは『サタデー・ナイト・フィーバー』のことを忘れたかのように、
エンターテイメント性を追及しながらも、実にバランスの良いアクション映画を撮ることに定評がある映像作家です。

悪役のマルコム・マクダウェルも際立つ存在感ですが、
彼が加担していた“THOR計画”が劇中、大きな焦点となってくるのですが、これはマクガフィンですね。
この“THOR計画”は恐るべき陰謀というほど、駆逐しなければならない計画なのでしょうけど、
本作の中身にあっては、その“THOR計画”の中身など、どうでもいいということで、最後まで内容が明かされません。

しかし、何と言っても本作は主演のロイ・シャイダーでしょう。
60年代後半から映画出演しておりましたが、本作ではベテラン・パイロットでありながらも、
ベトナム戦争に出征した際の体験がトラウマとなって、今でもそのトラウマに悩まれているという設定だ。

無茶な操縦を繰り返し、命令違反に近い行為も連発して上司を悩ます存在。
が、個人的にはロイ・シャイダーを『JAWS/ジョーズ』などで観ていたせいか、どうもアウトローには似合わない(笑)。

そんなトラウマに悩まされ、傍から見れば明らかに精神状態に問題のある主人公が、
何故にロサンゼルスが威信をかけて導入した、最新ヘリコプターのテスト・パイロットになれたのかは謎ですが・・・。
ひょっとすると、これも“THOR計画”の一部なのかもしれませんが、早い段階から彼を排除しようとしたので、
やっぱり彼を選抜したこと自体、大きな矛盾ですが、まぁ・・・こういった部分は許容しないと、楽しめない映画でしょう。

それにしても...この主人公、やってることは凄くって、
F16の追尾ミサイルを交わすために、ロスの高層ビルを盾にするし、ヘリを市街地に不時着させる事故があっても、
すぐにまたヘリに乗務しようとするし、挙句の果てにはヘリを線路に置いてくるし...。正にアウトロー(笑)。

ある意味で、現代風に言う“中年の星”ということなのかもしれませんが、
モラルにうるさくなった現代では、彼のようなメチャクチャなキャラクターを正義として描くことは難しいかもしれません。

そんな主人公が仲たがいしている妻に、劇中、とても重要な任務を任せるのですが、
そんな彼女が車をカッ飛ばして警察の追跡もかわしながら、カー・チェイスしてテレビ局へと向かう姿を、
主人公が空から見守っていくという構図もなんだか斬新で、この妻の運転技術もなかなかのものでビックリだ(笑)。
なんせ、百戦錬磨なはずのロス市警のパトカーの執拗なまでの追跡を見事にかわすのだから、なかなかの凄腕です。

主人公の上司を演じたオッサンが、ずっとどこかで見たことがあると思っていたのですが...
遅れながらも、映画の途中で彼を演じるのがウォーレン・オーツであることに気づきました(笑)。
残念ながら、本作が彼の遺作となってしまったようで、劇場公開を待たずして死去されたそうです。
これまではあまり無かったと思うのですが、警察の管理職という立場で、荒くれ警官の素行に悩まされ、
時に部下を叱責するという役回りは、正に新たな境地を開拓するつもりで、出演していたのかもしれませんね。

ウォーレン・オーツと言えば...僕の中では、『ガルシアの首』だったりしますので、
ツラ構え的にも、アウトローな印象だ(笑)。本作の10年前なら、主演はウォーレン・オーツであったのかもしれません。

航空警察というのは、古くからあった発想ではあると思うのですが、
それ単体では犯人追跡などの機動性は低いので、地上のパトロール隊との連携が必要不可欠ですね。
そういう意味では、パイロットがアウトローなのは困ると思うのですが(笑)、本作でも描かれたように
ヘリコプターならではの追跡の仕方として、あわゆくば盗聴や覗きの道具として使われてしまい、
事件の捜査のためというより、悪事に使われてしまう恐ろしさというのも描かれています。

何故、ハイテクで攻撃能力があるヘリコプターをロサンゼルス市が導入したかというと、
おりしも84年のロサンゼルス五輪が近づいていた時期で、劇中で語られる72年のミュンヘン五輪の際に
発生したテロ事件への対策として導入されたという理由付けは説得力がありますが、
マスコミを前にしたデモンストレーションでも、攻撃能力の高さは示せたものの、その正確性や導入理由が
示されず、今の時代であれば間違いなく市民から批判されて廃案にさせられそうだなぁと思えてしまう(苦笑)。

そして、その導入を裏で司るのがマルコム・マクダウェルだというからには、
古くからの映画ファンであれば、「絶対にこれはアヤしい・・」としか思えないはずで、
ある意味で本作は、そんな80年代のハリウッド映画の“ワビ・サビ”が様式美とも思えるぐらいの作品です。

確かにジョン・バダムは大当たりする大傑作は撮れていないかもしれませんが、
やはりそのクオリティの高さは確約されたディレクターという感じで、ホントにしっかり楽しませてくれますねぇ。
最近のハリウッドでも、こういう職人肌とも言えるエンターテイメントを撮れる映像作家は皆無で、とても貴重です。

悪い言い方をすれば、本作もどこか古臭く、現代的ではない部分が受け入れられない人も
いるのかもしれませんが、それでもCGを使わずとも、これだけの映像が撮れる当時の熱意がヒシヒシと伝わってくる。
こういう手間暇を惜しまない、奇をてらわず、最新のテクノロジーに胡坐をかかない、本質を追求する作り手の姿が、
昨今の映画業界から見ても希少になってしまったスタンスであり、見習うべき部分の多い作品だと感じます。

ちなみに撮影で使用したヘリの一部は、しばらくハリウッドのスタジオで保管されていたようですが、
最近になって処分されてしまったようだ。後に本国アメリカでは、テレビ・シリーズ化されただけあって、
日本ではチョット忘れられた存在という感じの作品ですが、アメリカでは根強い人気が未だにある作品のようです。

ひょっとしたら、生前のロイ・シャイダーの代表作の一つと言ってもいいのかもしれませんね。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・バダム
製作 ゴードン・キャロル
原案 ダン・オバノン
   ドン・ジャコビー
脚本 ドン・ジャコビー
   ダン・オバノン
   ディーン・リーズナー
撮影 ジョン・A・アロンゾ
編集 エドワード・M・エイブロムス
   フランク・モリス
音楽 アーサー・B・ルビンスタイン
出演 ロイ・シャイダー
   マルコム・マクダウェル
   キャンディ・クラーク
   ウォーレン・オーツ
   ダニエル・スターン
   ポール・ローブリング
   デビッド・シェイナー

1983年度アカデミー編集賞(エドワード・M・エイブロムス、フランク・モリス) ノミネート