ブルージャスミン(2013年アメリカ)

Blue Jasmine

大富豪の妻として長年、贅沢三昧な毎日を送ってきたジャネットが、
脱税などの罪で夫ハルが投獄されたことをキッカケに、慣れ親しんだニューヨークでの生活を捨て、
妹が暮らすサンフランシスコの街へ移り、庶民的な妹の生活に触れ、苦悩する日々を描いたブラック・コメディ。

80歳が近くなったウディ・アレンですが、やっぱりさすがはウディ・アレンと思わせる、
ある意味では貫禄が感じられる作品になっており、これは彼が映画監督として新たな境地に入ったことを
強く感じさせる作品と言っても過言ではなく、今までは当たり外れが激しいというイメージがありましたけど、
ひょっとすると、ここにきてウディ・アレンが再び全盛期に入ったのかもしれませんね。

主演のケイト・ブランシェットも本作での熱演が認められて、
数々の映画賞を受賞しましたが、それも納得の説得力ある芝居で映画は見応え充分です。

確かに映画を観ながら、本作の内容が名作『欲望という名の電車』と似た内容と気づいたけれども、
個人的には『欲望という名の電車』で描かれたブランチのような悲惨さまでは感じられなかったかなぁ。
但し、本作でのジャネット(ジャスミン)については、ある意味ではとても不運な女性というイメージ。

彼女は映画で描かれた通り、セレブリティとしての生活が忘れられず、
実際に栄華を極めた時期であっても、確かに夫の不正行為もほぼ黙認し、
どんなに心の中で疑いの気持ちがあったとしても、黙認し続け、妹夫婦までも投資話で騙したという
彼女自身にも落ち度がある過去はあるものの、どうあがいても良い方向には行かない環境が整っていたかな。

そういう意味で、彼女が卑屈になったから、このようになったというわけではなく、
彼女を取り巻く環境全てが、ジャスミンが不幸せな方向へ向かうようになっていた気がします。

まぁ、なるべくしてセレブな生活から転落してしまったのは否定できませんが、
それでも本作でウディ・アレンはジャスミンに対して、とても温かな眼差しで撮り続けているように感じる。
思わず、「あれれ...ウディ・アレンって、ヒューマニストなのか?」と疑問に思えてしまうほど(笑)。

実はこの映画、二重にも三重にも構造が積み重なっている印象があって、
ウディ・アレンにしては緻密なストーリーな気がしますけど、段々と彼の描き方も変わってきてますね。
従来であれば、最終的に誰かが得をするというストーリーになっていたように思うのですが、
まるでウディ・アレンは本作で、映画に登場してきた全ての人物を突き放したような感じで描いており、
これまで彼が撮ってきたコメディ映画とは、チョットだけタイプが違う作品という気がしますね。

ナンダカンダ言って、今までのウディ・アレンの映画って、
とてつもなく、良い意味でくだらない人たちを描いた、他愛の無い映画が多かっただけに、
シニカルな題材はほとんどシリアスに撮ってきた分だけ、本作のアプローチは結構、意外でしたね。

どことなく、ジャスミンの姿を深刻になり過ぎないように描こうと配慮しているように見えたのは、
ウディ・アレンの心境の変化、そして映像作家としてのスタンスの変化があったような気がします。

おそらくウディ・アレンも主演にケイト・ブランシェットを据えた時点で、
本作の成功を確信したのではないかと思いますが、とにかくケイト・ブランシェットは一世一代の名演技。
彼女は何を演じさせても上手い印象しかないけど、本作はここ数年でのベストアクトなのは間違いなし。
妹を演じたサリー・ホーキンスも評価されましたが、正直言って、ケイト・ブランシェットの貫禄勝ちかな。

ジャスミンの夫ハルを演じたのはアレック・ボールドウィンですが、
90年代はそれなりに映画に出演していた彼でしたが、21世紀になってからあまり活躍していなかった印象が
強かったのですが、最近は規模の大きな映画にも出演しているようで、復活してきた感じがしますね。
(まぁ・・・本作の役柄は如何にも彼らしいキャラクターで、想像の域は出なかったけど。。。)

イーストウッドの監督作品なんかを観ても強く感じますが、
本作、ウディ・アレンの監督作品にしても、とっても映画が若いのには感心する。

ナンダカンダ言っても、本作でのウディ・アレンは少しアプローチを変えてきており、
これまでの彼であれば、ジャスミンを少し突き放したように描いて、映画自体をシリアスに仕上げていただろう。
僕個人としては、実はそういう映画も好きなんですが(笑)、本作の場合はむしろウディ・アレンが
ジャスミンの人間的な部分を強調して、実に巧みに観客から見捨てられないキャラクターに描くことによって、
ジャスミンのような複雑な精神状態のヒロインでも、立派に映画のヒロインとして成立している。
絶妙に愛らしいキャラクターとして描くせいか、映画も見事にコメディとして楽しめる内容になっている。

80歳が近くなって撮った映画に於いて、こうして新たなアプローチを試みる気概も凄いし、
これまで以上に複雑なニュアンスを抱えた映画に挑戦しようとする挑戦意識も素晴らしいと思う。
かつてのウディ・アレンの映画監督としての手腕には懐疑的な部分もあったのだけれども、
どこか最近は風格の漂う映画を撮る映画監督へと変身したかのようで、クオリティは高いと思いますね。
(まぁ・・・その分だけ、ウディ・アレンらしい軽妙なコメディ映画も好きなんだけど・・・)

欲を言えば、映画のラストはもっと訴求する内容になっていては欲しかった。
それは、なるべくして落ちぶれてしまったセレブリティからの転落と、精神的に不安定な状態に陥り、
なかなか負の連鎖から抜け出せない人の苦悩について、もう少し教訓的に描く部分はあっても良かったかなぁ。

そういう部分が無いせいか、どうにも映画に訴求力が無い。
本作は十分に良く出来た映画だと思うけど、残念ながら「非の打ち所がない映画」とまでは言えないかなぁ。

それにしても、ジャスミンの男運の乏しさは、ある意味で凄い。
劇中、パーティーで知り合った政治家志望の男とジャスミンは恋人関係になりますが、
それはジャスミンの見栄が原因でトラブルになってしまいますが、そこで救いを作らないあたりは、
ウディ・アレンらしい部分ではあるのですが、それでも喪失感に苛まれるジャスミンを映し続ける、
言ってしまえば感傷的な雰囲気を作るあたりは、やはり従来のウディ・アレンらしくはない気がする。

いつもとは一味違う、ウディ・アレンの映画を観れる秀作ですね。まだまだ活躍することが期待できます。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
    スティーブン・テネンバウム
    エドワード・ウォルソン
脚本 ウディ・アレン
撮影 ハビエル・アギーレサロベ
編集 アリサ・レプセルター
出演 ケイト・ブランシェット
    アレック・ボールドウィン
    ルイス・C・K
    アンドリュー・ダイス・クレイ
    サリー・ホーキンス
    ピーター・サースガード
    マイケル・スタールバーグ
    マックス・カセラ
    オールデン・エアエンライク

2013年度アカデミー主演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度アカデミー助演女優賞(サリー・ホーキンス) ノミネート
2013年度アカデミーオリジナル脚本賞(ウディ・アレン) ノミネート
2013年度全米俳優組合賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ニューヨーク映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ロサンゼルス映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ボストン映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度シカゴ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ワシントンDC映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度サンディエゴ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度サンフランシスコ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度サウス・イースタン映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度セントルイス映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度フェニックス映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度フロリダ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度オクラホマ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度アイオワ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ジョージア映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ノース・カロライナ映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度デンバー映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度トロント映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ロンドン映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ダブリン映画批評家協会賞(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(ケイト・ブランシェット) 受賞
2013年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(ケイト・ブランシェット) 受賞