ミッドナイトクロス(1981年アメリカ)

Blow Out

76年の『キャリー』で一気に評価を上げ、
当時、新進気鋭の映像作家としてハリウッドでメキメキと頭角を現していた、
鬼才ブライアン・デ・パルマが仕掛けた、トリッキーなミステリー・サスペンス。

まぁ僕は正直言って、根強い人気を誇る本作、そこまでの傑作だとは思っていないのですが、
それでもまぁ・・・さすがに映画ファンの気を惹かせることにかけては、特筆に値する作品と言っていい。

確かにこの映画、僕もリアルタイムに観ていたら、
「おぉ、こんな雰囲気ある映画を撮れるディレクターがいたのか!」と夢中になったかもしれません。

映画の冒頭、相変わらずのヒッチコックのマニアであるデ・パルマらしく、
60年の名作『サイコ』の超有名なシャワー・シーンを想起させるようなシーン演出があったり、
チョットしたデ・パルマらしい“お遊び”があるのですが、この映画は終盤のサスペンスがひじょうに良い。

まぁ映画としてはヒッチコック云々の前に、
ストーリー自体がミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』からインスパイアされているので、
ハッキリ言って、いろんな映画からのアイデアの集合体であることは否めない。

しかしながら、僕はそれを議論するこは本作にとっては無意味だと思いますけどね。
デ・パルマなりのニュアンスはキチッと採り入れて映画を撮っていますし。

確かに一見すると、テレビのニュース映像と主人公のフィルム編集作業を
同時進行で描くために採用した、分割画面による映像表現など、目を見張るシーンが序盤にありますが、
僕は終盤の連続殺人犯との攻防を描いたクライマックスの何とも言えない雰囲気の方がずっと良いと思う。

やっぱり映画としての緊張感にしても、
少ない搭乗時間で強烈な存在感を発揮したバークを演じたジョン・リスゴーが
縦横無尽にスクリーン内を動き回るようになってからじゃないと、映画は面白くならない。
ぶっちゃけた話し、いくらでもナンシー・アレン演じるサリーを殺害するチャンスはあったはずなのですが、
決して短絡的にならず、まるで晩餐を頂くかのように、最後まで取っておくのも上手い展開だ。

但し、敢えてクギを刺しておきますが(笑)...
僕は同じ初期のデ・パルマの映画であれば、80年の『殺しのドレス』を推します。

それはデ・パルマの映像作家としての荒削りな部分が、初期の大きな魅力であったことは否めず、
本作ではそんな荒削りな部分はすっかりシェイプされ、若干、面白味が失われているように感じるからです。
発想としては面白いけど、映画の中盤にあるグルグル回るカメラにしても、チョット変にあざとい(苦笑)。

いや、本来、デ・パルマの映画って、こういう部分を楽しむもんだと勝手に思っているのだけれども(笑)、
それにしてももう少し、素直にストレートに映画を撮って欲しかったと思いますね。

そういう意味で、本作は終盤の方がずっと好感が持てます。
特に僕の中ではラストシーンが印象的で、ピノ・ナッジオ作曲の悲しいストリングスの音色が
鳴り響く中、主人公ジャックはサリーの最期の叫びを聞きながら、薄らと汗を浮かべながら、
「いい叫びだ...」とつぶやき、最後は苦悶の表情を見せながら、映画は幕を閉じます。

この辺の妙味というのは、変にデ・パルマが小細工してしまっていたら、
おそらく出なかったものだと思うんですよね。これは本作の中では、大きな収穫だったと思うのです。

ひょっとすると、この映画でデ・パルマは大きな手応えを感じていたのかもしれません。
事実、デ・パルマは本作の次に『スカーフェイス』を撮って、文字通り“やりたい放題”の映画を撮ります。
(ちなみに『スカーフェイス』、アメリカでは商業的に失敗だったみたいだけど、カルトな力作です!)

本作の主演は『サタデー・ナイト・フィーバー』のイメージが拭い切れていない頃の
ジョン・トラボルタで明らかに本作に出演してイメージ・チェンジを図りたかったのでしょうね。

前述したラストシーンで彼が見せる、屈折した精神状態を表現した芝居は上手かったですねぇ。
映画の前半はナンシー・アレン演じるサリーをクドこうとしていたにも関わらず、
せっかく一緒にモーテルに泊まるなんてことになっても、手を出すわけでもなく、
そしてせっかく手にした謀殺説を主張できるビデオテープも上手く利用できないという、
トコトン不器用な姿を演じているのですが、それが悲劇的な結末へと向かってしまう様子を上手く表現している。

相手役を務めたナンシー・アレンも、
当時はデ・パルマの私生活での妻だったからという理由一つで出演していたのですが、
独特な甘ったるい声が特徴的で、映画の良い意味での紅一点的存在となっていますね。

どうでもいい話しなのですが...
ジャックは低予算映画の音響マンを演じているのですが、
彼が参加した低予算B級ホラーのシャワー・シーンで、女の子の叫び声がイマイチだったため、
2人の女性の声をオーディションするシーンが面白くって、お互いに首を絞め合いながら、
金切り声を出し合うのに、まるで突拍子もない叫び声で使えない声だったというのが忘れられません。

現実にアフレコを採用する映画って、
あんな感じでオーディションってするのか、気になって仕方がありません(笑)。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 ジョージ・リットー
脚本 ブライアン・デ・パルマ
撮影 ヴィルモス・ジグモンド
編集 ポール・ハーシュ
音楽 ピノ・ナッジオ
出演 ジョン・トラボルタ
    ナンシー・アレン
    ジョン・リスゴー
    デニス・フランツ
    ピーター・ボイデン
    カート・メイ
    ジョン・アキーノ
    ジョン・マクマーティン