ブレイズ(1989年アメリカ)
Blaze
人種差別はびこる1950年代のルイジアナ州を舞台に、
歌手を夢見て実家から独立するも、悪い男に騙されてストリッパーにさせられた、
28歳の若き女性ブレイズと、彼女に恋してしまった実在の知事アール・ロングの恋愛を描いたロマンス。
どうやら実在のアール・ロングはかなりブッ飛んだ人だったようで、
本作でもそんな破天荒な知事を名優ポール・ニューマンが実に説得力ある名演技。
残念ながら本作は日本でも、劇場公開時、ほとんど話題にならなかったそうなのですが、
僕はそこまで悪い出来の映画だとは思わないし、むしろしっかりと楽しませてくれる大人の映画だと思う。
監督はスポーツを題材とする映画を中心的に活躍するロン・シェルトンで、
この頃では、88年の『さよならゲーム』が有名なディレクターなのですが、むしろ僕は本作の方が良い出来だと思う。
65歳、問題多いルイジアナ州の知事という立場でありながらも、夜遊びが好きで、スキャンダルになることも恐れず、
魅せられたストリッパー、ブレイズとの恋愛に情熱を燃やす姿にギラギラ感を漂わすポール・ニューマンが上手くって、
この頃のポール・ニューマンの出演作品としては、最も良質な映画であったと言っても過言ではないと思う。
確かにアール・ロングの人間性にも問題はあるのだろうが、
まるで奴隷のように扱われる黒人たちに、人間らしい生活を保障しようと動き、
ルイジアナ州の未来を憂慮していた彼の姿には、ルイジアナ州知事としての素養はあったと思う。
既にアメリカ北部の都市部では、黒人差別撤廃に向けて、
時代が大きく動いていた頃であり、アールの理念は間違いなく正しい方向であったと言える。
当時のルイジアナ州...と言うか、アメリカ南部の田舎町を中心に奴隷制度の影響を色濃く残っていて、
プランテーション化して、黒人たちをまるで奴隷のように扱って、人間の尊厳を認めようとしなかったという、
アメリカ近代史に於いても、明らかな暗部があり、それが未だに人種差別という社会問題が表向きにも
存在してしまっているという、アメリカ社会の暗部を象徴する土地柄であったと言えるだろう。
そんな常に闘い続けきたアールには、強い政治理念があったものの、
凄い情熱を燃やす一方で、性格的には子供っぽい部分があり、そんな彼だからこそ、
若き自由奔放な女性であるブレイズに恋するという、恋愛の構図が成り立ったのであろう。
ロン・シェルトンって、ここまでドラマ描写ができるディレクターだというイメージは
あまり無かったせいか、思いのほか、しっかりとできた映画だったということに驚いてしまいました(笑)。
一見すると、名優ポール・ニューマンとロリータ・ダビドビッチというコンビが
アンバランスというか、あまり合わないようにも思えるのですが、いざ本編を観てみるとそうでもなくって(笑)、
当時、ほぼ新人女優に等しかったロリータ・ダビドビッチもしっかりと渡り合えていて、結構、好印象。
勿論、ポール・ニューマンが上手くフォローしているからこそというところもあるにはあるのですが、
本作でのロリータ・ダビドビッチを観る限り、もっとハリウッドで活躍していてもおかしくないと思うのですがねぇ〜。
ひょっとすると、現時点でロリータ・ダビドビッチにとっては、本作がベストワークということになるのかも。
但し、欲を言えば...もう少し映画としては、アールの政治理念については言及しても良かったかもしれません。
本作は単純な恋愛映画というところには留まらず、数々のスキャンダルに見舞われながらも、
着実にルイジアナ州に新しい“波”を吹き込もうとしていた一介の政治家のポリシーも描いた内容であって、
本作は十分な出来であるとは思うけれども、もっと骨太な映画に仕上げることは可能だったでしょう。
映画は終盤、アールが周囲の策略によって、
精神病院に押し込まれる展開となり、よりシリアスな方向へと向かっていくのですが、
どこか楽天的な空気があるせいか、映画の雰囲気が中途半端な感じになってしまうのが少し残念。
どうせ、思いっ切りシリアスにしてしまうのか、シリアスな内容であっても、
徹底的に明るい調子で乗り切ってしまう楽天的なムードに終始するのか、統一感を持って欲しかった。
映画のクライマックスでは、どちらかと言えば、重たい終わり方をするのですから、個人的にはもっとシリアスに
押し通して欲しかったし、そうすれば、もっと骨太な映画に仕上がっていたでしょうね。
本来的には、本作の場合は恋愛は映画のファクターの一つにしかすぎず、
あくまでアールの生きざまを描いた映画として、骨太な映画にシェイプアップされるべきなのでしょうね。
でも、あくまで欲を言えば・・・という話しであって、
映画の出来そのものは及第点を越えたと言ってもいいと思うし、そこそこ楽しめる大人な映画だ。
そもそも65歳になってまで、30歳にもなっていないストリッパーに熱を上げるなんて凄いエネルギーだし、
政治家という社会的地位を意に介さず、まるで子供のようにメロメロになってしまう姿がなんとも眩しい。
そういった男の若さを表現するのが、名優ポール・ニューマンというのも妙ですが、
80年代に入ってからのポール・ニューマンはあまり仕事に恵まれず、82年の『評決』で評価された後は、
86年の『ハスラー2』でオスカーを獲得したものの、仕事のペースは落ちつつありましたので、
アクの強い、それでいながら若々しい役柄を演じたという意味で、本作は再評価に値すると思いますね。
この映画を観て痛感するのは、やはり男は常に母性を求めているということ(笑)。
年齢差など問題ではなく、アールは明らかにブレイズに母性を求めていたように見えます。
これって、やっぱり万国共通でそれが彼の政治活動の原動力であったことは否定できないでしょう。
ロン・シェルトンも意識的にブレイズに母性を感じさせるように描いていたかは微妙なところですが、
ロリータ・ダビドビッチのそういった母性を感じさせる芝居が、絶妙なくらいに素晴らしい。
この映画のラストのあり方には、人を愛するという意味でも、訴求する力があると思う。
(上映時間117分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 ロン・シェルトン
製作 ジル・フリーセン
原作 ブレイズ・スター
ヒューイ・ペリー
脚本 ロン・シェルトン
撮影 ハスケル・ウェクスラー
音楽 ペニー・ウォーレス
出演 ポール・ニューマン
ロリータ・ダビドビッチ
ジェリー・ハーディン
リチャード・ジェンキンス
ロバート・ウール
エミリー・ウォーフィールド
1989年度アカデミー撮影賞(ハスケル・ウェクスラー) ノミネート