タイムトラベラー/きのうから来た恋人(1999年アメリカ)

Blast From The Past

これは面白い発想の映画だと思う。

米ソ対立関係にある中で、反共思想に傾倒し勤務する大学で防衛研究を進めた結果、
自宅の地下に何十年も避難生活を送ることができるシェルターを作り上げ、核戦争を確信したときに
身重の妻と共に核物質の半減期を考慮して、35年間もの時間の間、地下で生活を送り続けた大学教授が
避難生活の中で長男が誕生し、単独で育て上げ、35年後にミッションとして買い出しを命じます。

外界での生活に興味津々であった長男は、両親から気立ての良い花嫁候補の女性を探せ、
という言葉を真に受け、命じられた買い出しの他に、花嫁候補の女性を探す姿を描いたコメディ映画です。

まぁ、花嫁を探す長男役のブレンダン・ブレーザーは『ハムナプトラ』シリーズで知られたものの、
他の出演作品ではパッとしなかったせいか、しばらくの間、映画界でも忘れられていた気がしますが、
最近、少しだけ話題になりました。対するヒロインを演じた、アリシア・シルバーストーンはホントに聞かなくなったなぁと
思っていたら、まだまだ現役の女優さんで00年代以降は比較的、規模の小さな作品に出演しているようですね。

一時期は、ハリウッドでも代表的な若手女優の一人に台頭しつつあったので、
本作以降は作品にも恵まれなかったのか、メジャーな表舞台からは遠ざかってしまったようで少々残念でした。

本作の監督は94年に『不機嫌な赤いバラ』を撮ったヒュー・ウィルソンで、
本作も破綻のない良い演出と構成です。バランス感覚に優れたディレクターで、丁度良い塩梅のコメディが上手い。
そこまでゲラゲラ笑えるものではないし、ロマンスにしてもサラッと表面的にしか描かないので物足りなさはあるけど、
逆に言えば、丁度良い塩梅で止めている感じ。映画のラストなんかを観ても思うけど、少しだけ皮肉も利いてる。
実は単純にはいかない内容という感じで、奇をてらった部分は感じさせない一方で、真正直という感じもない。

でも、派手に一風変わったラブコメって感じでもなく、表向きは平凡なラブコメを装っているので、
映画の雰囲気としても極めてオーソドックスにラブコメの雰囲気作りをしている。そこで本作のアクセントとなるのは、
やはり主人公の長男の父親だろう。演じるクリストファー・ウォーケンも何気にコメディ映画に多く出演していますが、
本作も常識的な判断をする人ではなく、やっぱり変わり者(笑)。一筋縄にはいかない男だというのは、ラストに分かる。

彼の妻役のシシー・スペーセクも酒好きを通り越して、ほとんどアルコール依存症に片足入れてる女性。
そりゃ、そうだ。35年間も半ば、無理矢理に地下室に閉じ込められて、その中で出産を経験した上に
産んだ長男の育児・教育をすべて親の手で、地下室内で行うわけですから、例え優秀な子に育ったとしても、
彼らがやってることはほとんどホラーだ。だからこそ、35年経過した日には、思わず喜び高笑いくらいしますよね。
こうしてテンションをおかしくしてしまうくらい、35年間の地下室生活というのは精神的に過酷なものと思えます。

しかも、キューバ危機の時代に核戦争が起こったものと勝手に思い込んで、
以降、35年間も閉じこもっていたという設定なので、その間にウォーターゲート事件もベトナム戦争の終結も、
レーガン大統領の時代も、湾岸戦争も何もかも知らないまま過ごすので、外界の様子は完全に様変わりしている。

そんな激動の時代を全く知らないで90年代後半のロサンゼルスに舞い戻ってきたのでは、
そりゃ誰だって、全く別世界の世の中になってしまったとショックを受けることは、自然な流れなのかもしれない。

こういう奇抜な設定で、引きこもっていたマッド・サイエンティストちっくな父親にクリストファー・ウォーケン、
夫に従わざるを得ず、必死に35年間の地下生活に耐え忍んできた酒好きの母親にシシー・スペーセクという
この2人のキャスティングが最高に良かった。本作はあくまで息子の花嫁探しがメインの映画ではありますが、
それでもこの両親の絶妙なキャスティングがあったからこそ、映画に安定感が増したのではないかと思います。

まぁ・・・正直言って、アイデア一発勝負みたいなところがある映画ではあるので、
あんまり深いこと考えない方が楽しめます。そもそもが35年住める地下施設って、どういうことよ?という疑問もあるし、
いくら両親の教育が上手かったとしても、生まれてから35年間、両親以外の人間とは一切接したことがないなんて、
いきなり外の世界に出て、スムーズに見ず知らずの他人とコミュニケーションがとれるのか・・・など、疑問だらけになる。

価値観を無理強いするつもりはないけど、こういう矛盾を一つ一つ考えちゃう人には、向かない作品だと思う。
だって、本作はあくまでコメディだし、35年もの長期間、一切のコミュニケーションを絶って世の中に戻ってきたら、
一体どうなるか?というテーマだけだけで勝負したような映画ですからね。そりゃ、矛盾は多く出来ちゃいますよね。

とは言え、映画としては破綻していないと感じる。派手さはないが、良い意味で収まり良く撮られている。
こういう仕事を観ると、このヒュー・ウィルソンというディレクターは過小評価なのではないかと思えるくらいだ。

ただ、少々弱いなぁと感じたのは、ヒロインがどのタイミングからブレンダン・フレーザー演じる青年に
恋心を抱き始めたのかが不明瞭な点で、それがあのクラブでのダンス・シーンだというには僕は無理があると思う。
それでは、ただ単に嫉妬心から始まったものというだけだ。かと言って、昔のプロ野球カードに代表される、
青年が持っている“資金”に魅力を感じたということであれば、まったくクリーンな恋愛ではなくなってしまいます。

個人的に、本作はあくまで恋愛映画であると考えていたので、
この辺は作り手にはもっと上手くやってもらいたかったなぁ。ひょっとしたら、脚本の段階での問題だったのかも。

それにしても、共産主義を激しく嫌悪し、アメリカ合衆国への忠誠心が強いながらも、
核戦争への心配が絶えることなく、チョットとした勘違いから核戦争が始めると勝手に誤解して、
それでは、と自主的に地下シェルターで生活するという判断がスゴい。しかも、その間ずっと外界とコンタクトせず、
外の状況をただの一度も確認しようとしない、というのもスゴい。せめて、外との連絡手段は残せば良かったのに・・・。

これだけ思想が偏っていれば、外から何を言っても彼らは出てこなかったかもしれないが、
外との連絡手段を絶ってしまえば、彼らが勝手に決め込んでいた35年間の隔離生活というのは確定ですからね。
これを短くするという選択肢も黙っていれば無いだろうし、それだけ連絡手段を絶ったというのは大きな選択だと思う。

そんな世界から出てきた人たちなんだから、そりゃ90年代を生きる人から見れば、当然“変”ですけどね・・・。

邦題のタイムトラベラー≠まともに解釈してしまうと、あたかも時空を越えたトリップや
タイムスリップを想起させられますが、本作で描かれる一家は時空を超えたわけでも、タイムスリップしたわけでもない。
映画としては、SFの要素もありますが、タイム・パラドックスが描かれるわけではないので、勘違いしないでおきたい。

どちらかと言えば、しっかり35年間の時間を歩んで、年老いてきたんだけれども、
ある意味では、時間の経過が止まったような35年間を地下で過ごしてきた人々が、そのまま地上に上がってくる、
ということがメインテーマであり、カルチャー・ギャップならぬ“タイム・ギャップ”を描いた作品と言えるでしょう。
(最も近い言葉は、おそらくジェネレーション・ギャップなのだろうけど...それも少しだけニュアンスが合わない・・・)

しかし、描かれた地下シェルターは1962年当時に作られたものとしては、スゲェ立派で驚く。
と言うか、現代でもこれを現実に作れたらスゴいですね。地下の土地も広大に必要だと思うのですが、
あれを出来る体力、財力、技術力、精神力、どれもスゴい。一介の大学教員が出来ることとは到底思えない(笑)。

なんせ、軍用機が墜落してきても何一つ影響ないシェルターですからね。そりゃ、スゴい構造ですよ(笑)。

欲を言えば、もう少しコンパクトな中身であれば良かったなぁと思いますね。
特に長男が花嫁探しに奔走したり、買い出ししたりする一連のシークエンスは少々長く感じられてしまった。
もう少し全体にテンポ良く描いて欲しいところでしたし、全体の尺そのものもあと15分くらいは短くしても良かったかな。
正直言って、この内容で上映時間が2時間近くになってしまっているのは、僕には冗長に感じられてしまいましたね。

コメディ映画としては丁度良い規模感の映画だし、特に両親役のキャスティングも絶妙でした。
そうなだけに、もっと注目を浴びても良かった作品だったと思うのですが、残念ながら大きな話題となることはなく、
日本でも(今だったら考えられないが・・・)、全国の映画館で劇場公開されたものの、アッサリと終わってしまいました。

その差を生んでしまったのは、作り手のチョットした感覚(≒気遣い)の差だったのではないかと思う。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ヒュー・ウィルソン
製作 レニー・ハーリン
   ヒュー・ウィルソン
脚本 ヒュー・ウィルソン
   ビル・ケリー
撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ
衣装 マーク・ブリッジス
音楽 スティーブ・ドーフ
   スティーブン・ティレル
出演 ブレンダン・フレーザー
   アリシア・シルバーストーン
   クリストファー・ウォーケン
   シシー・スペーセク
   デイブ・フォーリー
   デイル・ラオール