ブレードランナー(1982年アメリカ)

Blade Runner

今となってはSF映画ファンの間でも、人気作品となった名作。
劇場公開当時は不評だったらしいのですが、徐々にその名を上げていった経緯があります。

監督のリドリー・スコットによる、異国情緒たっぷりな演出が最高にカルトで、
2019年という近未来のロサンゼルスのシュールな街並みも、30年近く経った今でも新鮮に映る。

どうやらリドリー・スコット自身も、本作のファースト・ヴァージョンが気に入らなかったらしく、
92年になって『ブレードランナー/最終版』という形で、再編集ヴァージョンを製作しました。
細かな編集に差異が生じており、ユニコーンのイメージ・シーンを追加収録し、
主人公デッカードのナレーションの全てをカットし、説明的になり過ぎた傾向を完全に廃しました。

正直に白状すると、僕は別に本作の熱烈な支持者ではありませんが、
それでもやはり本作の存在は凄いと思う。『マイノリティ・リポート』の20年前に既に、
フィリップ・K・ディックの小説の世界観を達成していたと考えると、本作は実に偉大な映画である。

この映画は光の映画である。
ほとんどが夜のシーンの映画ではありますが、まるで光が生き物であるかのように、
縦横無尽にビルディングを照らし回し、カメラも所狭しと動き回る。
この空間をフルに駆使した映像設計からは、移動感を出すことに注力した姿勢が感じられる。

失敗作とは言われましたが、
リドリー・スコットが85年の『レジェンド −光と闇の伝説−』で描きたかったこととは、
本作で描かれたイメージ・シーン、そして光の使い方などが原点となっているのではないだろうか。

チョット光を意識させたカメラはやり過ぎかなと感じる部分はあるけど、
僕なんかはデッカードが“ブレードランナー特捜部”の上司ブライアントから仕事を依頼される、
ブライアントの部屋に入っていくカットだけで、十分に興奮させられましたね(笑)。
あのカメラが光の差す空間を移動して、部屋の内部に“下りてくる”撮影は驚異的ですらある。
これほどまでにハードボイルドな雰囲気を高揚させる演出は、おそらく無いだろう。

日本語までが飛び交う摩訶不思議な近未来像ではありますが、
この造詣が驚くほどにフィットしているというのは、それだけ演出が上手くいっているという証拠だ。

おそらく賛否両論はあるだろうけど、
僕もリドリー・スコットに同意で、ファースト・ヴァージョンで挿入されていた、
デッカードのナレーションのほとんどは必要なかったと思いますね。
但し、個人的にはユニコーンのイメージ・シーンは美しいからあった方が良いとは思いますが、
映画のラストのデッカードとレイチェルの桃源郷への逃避行シーンまでもがカットされたのは残念。

思い切ったことを言うと、それまでのシーンでいくらでもカットできそうなシーンがあったのに、
このラストシーンまでもが改変されてしまったというのは、僕は全く理解できない点です。あれが良いのに・・・。

キャスティングの面で言えば、ロイを演じたルトガー・ハウアーとレイチェルを演じたショーン・ヤングが出色だ。

2人とも“レプリカント”と呼ばれるロボットであるという設定ですが、
特にショーン・ヤングの聡明な美しさは、正に彼女が生涯に一度とも言えるハマリ役であることを確信させます。

ルトガー・ハウアー演じるロイは、もっと危険なレプリカントとして描いても良かったとは思うが、
ただ単に殺人行為を繰り返すロボットという枠に留まらないあたりは、他作品との差別化の意図もあるだろう。
この辺は例えば『ターミネーター』なんかと比較されるところだとは思いますが、僕は悪くない選択だと思う。

ちなみに本作の原作はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。
彼は本作の完成直前に脳卒中で急逝してしまいましたから、当然、完成ヴァージョンは観ていません。
おりしも本作が劇場公開された頃は、スピルバーグの『E.T.』が世界を席巻していましたから、
スペース・アクションを連想させる本作の予告編の影響もあってか、かなり酷評されてしまいました。
加えて主演のハリソン・フォードがあまり好意的ではないコメントをするなど、数多くの論争を呼んでおり、
個人的にはフィリップ・K・ディックが本作をどのように観るか、ひじょうに興味がありますねぇ。

どういうわけか...やたらと「強力わかもと」の電子広告が流れているのがインパクト大ですね。
いろんな言語が飛び交うという設定なので、あまり深く考証していないとは思いますが、
それでも映画の中では日本語が妙に目立って使われているのが、何故か嬉しいですね。

リドリー・スコットの日本に対する興味・関心の強さがよく反映されていると思います。
(ちなみに89年、リドリー・スコットは大阪を舞台に『ブラック・レイン』を撮っています)

まぁ・・・これはあくまで仮の話しではあるけど...
本作をリアルタイムで映画館で鑑賞していたら、かなり大きな衝撃を受けただろうなぁ。
ですから、本作を劇場公開当時に映画館で観た人がホントに羨ましいですね。

僕の中では、大迫力のスクリーンで観たい作品の一本ですね。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 リドリー・スコット
製作 マイケル・ディーリー
原作 フィリップ・K・ディック
脚本 ハンプトン・ファンチャー
    デビッド・ウェッブ・ピープルズ
撮影 ジョーダン・クローネンフェス
特撮 ダグラス・トランブル
編集 テリー・ローリングス
音楽 ヴァンゲリス
出演 ハリソン・フォード
    ルトガー・ハウアー
    ショーン・ヤング
    エドワード・ジェームズ・オルモス
    ダリル・ハンナ
    ブライオン・ジェームズ
    ジョアンナ・キャシディ
    M・エメット・ウォルシュ
    ウィリアム・サンダーソン
    ジョセフ・ターケル
    ジェームズ・ホン

1982年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1982年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
1982年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(ジョーダン・クローネンフェス) 受賞
1982年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(ジョーダン・クローネンフェス) 受賞
1982年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
1982年度イギリス・アカデミー賞衣装デザイン賞 受賞