ブラック・サンデー(1977年アメリカ)

Black Sunday

ベトナム戦争などにおけるアメリカの功罪を問うために、
合衆国大統領も観戦するスーパーボウルの試合において、飛行船を使ったテロ事件を起こし、
約8万人にも及ぶ観客を皆殺しにしてしまおうとする過激派“黒い9月”と、彼らを追う特殊部隊の活躍を描いた、
史上空前とも言える壮大なスケールで描いたアクション・エンターテイメント大作。

今でも語り草の定番ではありますが、本作は77年の日本の夏休み映画の目玉だったにも関わらず、
内容が内容なだけに、上映予定の映画館に次々と脅迫状が届けられ、上映中止を余儀なくされた問題作だ。

結論から言いましょう。
これは凄く面白い、実に立派な娯楽映画だ。
これほどテンションの高い充実した映画というのは、長い映画史においても貴重と言っていいだろう。

敢えて注文を付ければ、映画のラスト・シークエンスは大いに不満だ。
一体、何故にこんなに雑なシーン処理をしてしまったのか、僕にもよく分かりませんが、
これは力技を超えて、完全にいい加減なクライマックスになってしまっていて、かなり残念だ。
2時間を超える大作なだけに、この粗雑なクライマックスには僕は唖然としてしまった。

まぁ・・・けど、面白い映画であることに変わりはないかな。
特に映画の前半から一気に畳み掛けてきて、スーパーボウルの試合当日まで突っ走る過程は、
ひじょうに良く出来ている。ジョン・フランケンハイマーもかなり要領良くこなしている。

おそらく本作はジョン・フランケンハイマーのカラー作品としては有数の出来だろう。
いつもはここまで器用に要領良く出来るディレクターではないのですが、本作の中盤まではホントに上手い。

あまり個人的にはリアルだとか、そうでないとかを判断基準にはしたくないんだけど、
本作のクライマックスでのアクション・シーンはさすがにあまりに人間離れした芸当過ぎて、興を削ぐ。
それまではストイックな側面も残したまま、上手くサスペンスとアクションを調和させていたのですが、
ロバート・ショー演じるカバコフ将軍がスタジアムを走り回って、飛行船を追い始めるあたりから、
映画が急激におかしな方向へと暴走しだし、飛行船がコントロール不能になると同時に、
映画自体もジョン・フランケンハイマーの手から離れ、ほぼ完全にコントロール不能になってしまっている。

映画が面白いから、あまり無理矢理なクライマックスについて強調したくはないんだけれども、
思わず書かずにはいられないほどの違和感があるため、書かずにはいられない(笑)。

とは言え、前述したように立派な娯楽映画だ。
次から次へと用意を積み重ねていく“黒い9月”の活動を地道に描き、
何とかして彼らの活動を抑制させようとする特殊部隊の強引な捜査。
そんな彼らの攻防を対比的に描いていて、ひじょうに見応えがある。ひじょうに上手い手法だ。

今になって観れば、特撮のショボさは賛否両論ですが、
サイレンサーを多用させたり、強力マシンガンを撃ちまくったり、映画自体にインパクトがありますね。

未だ日本では劇場未公開作扱いされ、ついこの前まで廃盤となったビデオかLDでしか、
本作を観賞する術がなかったのですが、3年前、ようやっとDVDでリリースされました。
滅多に観れなかった貴重な作品ではありましたが、今は容易に観れるようになりましたから、
できるだけ多くの方々にこの映画の醍醐味を味わってもらいたいですね。

特にチョット不謹慎な言い方ではありますが、
映画の中盤にある砂漠地帯の倉庫で行なわれる爆弾の実験シーンは、映画的美しさがある。

倉庫の中から“穴”だらけになった壁から差し込む太陽光の美しさは特筆ものである。
これこそ、映画にしか表現できない極致に到達した奇跡的な演出と言ってもいいだろう。

映画の幕切れは実に鮮やかとも解釈できる劇的な幕切れではありますが、
この辺の強引なラストシーンへの引っ張り方は、如何にもジョン・フランケンハイマーらしいですね。
思えば、75年の『フレンチ・コネクション2』を想起させる尻切れトンボのようなラストシーンだ。

ちなみに原作はトマス・ハリスがAP通信社に勤めながら執筆し、
75年に発表した彼のデビュー作なのですが、当時としてはかなりセンセーショナルなトピックだったはずで、
よくこの内容で発刊までストレートに実現したなぁと、思わず感心してしまいますね。
余談ではありますが、トマス・ハリスが表舞台に出てこないことと何か関係があるのでしょうか。。。

最近は次第に夏休み映画という概念が薄れつつあるような気がしてならないのですが、
本作のようなエキサイティングな映画が目玉として公開できるような映画産業であって欲しいですね。

やっぱり本作のような作品を観るたびに思うのですが、
映画というのは基本的にはエンターテイメントなんですね。これが基本的役割です。
それゆえ、本作でジョン・フランケンハイマーが貫いた姿勢が、もの凄く貴重なものに感じられてなりません。

今の映画界も、本作から学ぶところは数多くあるのではないでしょうか。

(上映時間144分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・フランケンハイマー
製作 ロバート・エバンス
原作 トマス・ハリス
脚本 アーネスト・レーマン
    ケネス・ロス
    アイバン・モファット
撮影 ジョン・A・アロンゾ
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 ロバート・ショー
    ブルース・ダーン
    マルト・ケラー
    フリッツ・ウィーバー
    スティーブン・キーツ
    ベキム・フェーミュ
    マイケル・V・ガッツォ