バースデイ・ガール(2002年アメリカ)

Birthday Girl

おぉ、なるほど...これは予想外なほどに面白い映画でしたね。

インターネットの花嫁サイトに登録して、イギリスへ嫁入りにやって来たロシア人美女ナディア。
そんな彼女をイギリスの田舎町に招いた勤続10年になる銀行員ジョンが巻き込まれる、
事件の展開をブラック・ユーモアを交えてコミカルに描いたサスペンス・コメディ。

監督は本作が初監督作品となったジェズ・バターワースで、脚本を彼の兄トム・バターワースが担当している。
とてつもない大傑作というわけではないにしろ、初監督作品としては健闘している方であることは確か。
監督へのインタビューでは、「先の読める展開の映画にしたくなかった」などとコメントしていますが、
そんなつまらないレヴェルでの話しではなく、映画の方向性として間違ったアプローチではなかったと思う。

サスペンス劇の盛り上げがイマイチ上手くないのが難点ではありますが、
それは根本的に日本での本作の紹介に誤りがあって、本作は根本的にコメディなのですよね。
それをサスペンス映画のような触れ込みで紹介されてしまったがために、観客はサスペンスに重点を置きます。
ところが映画の大きな特徴は、ジョンの情けない仕草や性格なわけですから、それらをコミカルに表現します。
こうして結果的に出来上がった映画の調子って、基本的にはコメディなんですよね。

だから最初っからコメディだと思って観れば、なかなか楽しめると思いますけどねぇ。

そうなだけに思うのですが、バターワース兄弟が本作だけで映画界から距離を置いてしまったのが、
本作の出来を観る限りでは、ホントに残念ですね。おそらくもっと高いレヴェルで仕事が出来る人だと思います。

それにしても映画の台詞の半分はロシア語なのですが、
そのロシア語を地元のオーストラリアにあるロシア大使館に勤務する女性に頼んで、
ほぼ完璧に発音をマスターして、何ら違和感なく演じ切ってしまったというのは凄いですね。
勿論、彼女だけでなく母国語ではない映画に積極的に参加したヴァンサン・カッセルらも凄い英断でしたね。
(実は出演者には誰一人、ロシア語のネイティヴ・スピーカーはいない・・・)

そこまで規模の大きな映画ではないし、予算の大方はキャストへのギャラに消えた企画でしょう。
しかしながら、ある程度の制約がある中で、如何に観客を楽しませるかということはキチッと考えられています。

特に映画の前半、半ば一方的にストーリーを進めていくのですが、
てっきり英語が話せるもんだと思っていたナディアが、まるで英語を理解できず話せず、
意思疎通が上手くいかないジョンは、何度もサイトの運営者に電話しますが、一度も通じません。
そんな中、ナディアはジョンの性癖を調べ尽くし、彼を満足させようとする様子が面白かった。

特にジョンが先手必勝とばかりにプレゼント(露英辞典)を買ってきたのに、
それを見て嬉しそうにしていたナディアが、ニコニコしながらアダルト雑誌を差し出す間が良かった(笑)。
この辺の少し間をズラしたような演出はおそらく意図されたものだと思うのですが、本作の大きな武器ですね。

ストレートに笑いを持ってこないあたりは、作り手の余裕を感じさせますね。

惜しいのは、淡々と作った面が災いしてか、映画の盛り上がりが欠けるのが露呈してしまっていること。
もう少しメリハリのある演出があっても良かったと思う。映画の中盤で、強盗を強要されたジョンが
白昼堂々と勤務先の銀行の金庫に侵入するシーンなんかは、もうチョット緊張感をもって描いて欲しいところ。
この辺のテンションの調整がもっと上手くいっていれば、映画はもっと引き締まった良い出来になったでしょうね。

派手に笑いをとりにくることが無い分だけは、演出面での工夫は必要だったと思いますね。

まぁナディアにメロメロにされたジョンという30代の独身男性が見舞われた災難を描いているのですが、
最初はうまくいかなかったナディアとの同棲生活にも次第に馴れ、彼女に愛情を持つようになります。
ところが彼女が招き入れた、彼女の友人と名乗る2人の男が、ジョンの生活に入ってきたことから、
ジョン自身、全く予期していなかったトンデモない事件の片棒を担がされてしまいます。

ここまでくればサスペンス映画なのですが、ここで終わらないのが本作の面白さで、
怒りをおぼえながらも、やっぱりナディアを忘れられないジョンは2人の男に拉致された彼女を救出しようとします。

残された状況として、映画の結末は予想外の方向へと展開していきます。
勤勉な銀行員が人生を揺るがす窮地のピンチになりながらも、アッサリと新たな生活を目指します。
これは言わば彼にとってのチャンスであり、ピンチをチャンスに変えてしまう機転の描き方が凄く上手い。

ただ、それでいて節操の無い映画には感じられないのは、
あくまでジョンを中心に描くという映画の基本スタンスにブレが生じていないせいでしょうか。
一見すると、悪女風のナディアが主人公の映画のように感じられますが、本作の主人公はあくまでジョンです。

そんなジョンを演じるベン・チャップリンが良かったですねぇ。
『シン・レッド・ライン』に出演していたとは言え、正直言って、あまり強く印象に残っていないのだけれども、
本作では実に情けない男を見事に体現しており、ここまで上手いとさすがに印象に残ります。

そして何より、ニコール・キッドマン! ホントに撮影当時、35歳ですか!?
ベッドで眠る彼女のショットでは、まるでティーンのような清楚さで思わずビックリさせられました。

(上映時間93分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジェズ・バターワース
製作 エリック・エイブラハム
    スティーブ・バターワース
    ダイアナ・フィリップス
脚本 トム・バターワース
撮影 オリバー・ステイプルトン
音楽 スティーブン・ウォーベック
出演 ニコール・キッドマン
    ベン・チャップリン
    ヴァンサン・カッセル
    マチュー・カソビッツ
    ケイト・エヴァンス