ビッグ・ダディ(1999年アメリカ)

Big Daddy

決して模範的な映画ではないし、
アダム・サンドラーの毒っ毛が随分と抜けた作品で、ファンにとっては物足りないかもしれませんが...
まぁこれはこれで上手くまとめ、ハートウォーミングに仕上げており、良く出来た作品と言っていいでしょう。

アダム・サンドラーがまだ映画に出演し始めて間もない頃の作品であり、
本作も全米では大ヒットだったのですが、日本ではあまりヒットしませんでした。

まぁ元々、日本では知名度が高いとは言えなかったアダム・サンドラーですので、
この結果は仕方のない側面はありますが、これはもっと注目されても良かったと思いますね。
実にバランス良く構成されており、チョット過小評価だったのではないかと僕は思っています。

確かに問題点が浮き彫りになっている映画ではあるんですよね。

コメディ映画の宿命的なものではあるので、仕方がない部分はあるのですが、
映画のラストの展開が今一つ上手くいっておらず、納得性に欠けるのがネックなんですよね。
僕としては、もっと主人公のソニーが父親に法廷で熱意を伝えて、如何に今回の子育てに対する
意気込みが強いものであるかをアピールして、また父親が寛容的になるかを真摯に描くべきで、
こういったポイントでの描写にイマイチ力強さを感じられなかったのが残念でしたね。

アダム・サンドラーがシナリオの執筆に加わっておりますが、
彼の映画出演に対する信念は決して半端なものではなかったようで、
僕は当時、いつまで彼が映画俳優としての活動を続けるのか懐疑的だったのですが、
今現在も彼の俳優活動は続いており、本作なんかは彼の原点とも言える作品だったのかもしれませんね。

ちなみにこの手の映画に欠かせられない子役の可愛らしさなのですが、
本作ではスプラウス兄弟がキャスティングされており、2人でジュリアンを演じ、話題となりました。
これは前評判通り、ホントに可愛い(笑)。悪いことばっかり覚えるというのも、如何にも子供らしいですね。

まぁ頭はいいけど、ロクに働く意欲のない主人公なのですが、
ひょんなことからジュリアンと出会い、女性にモテたいがためにジュリアンを育てることになり、
いつの間にかジュリアンに手をかけるうちに、次第に本気でジュリアンと暮らしたいと切望するようになります。

よくあるタイプのストーリー展開ではありますが、
やはりあれだけグータラな人間であっても、変えてしまうというのは子供のマジックですね。
本作の主人公、ソニーにしても当初はロクでもない理由でジュリアンの面倒を看ることになりますが、
誰が何を言っても矯正されないソニーだったのに、ジュリアンとの生活が劇的に変えてしまいます。

おそらくその影響力の強さをソニーの父親も感じ取るわけで、
映画の終盤にある裁判シーンに於いては、当初は片っ端からソニーの主張に反対していた
ソニーの父親でしたが、彼の熱意の強さが伝わったのか、ソニーの意思を尊重しようとします。

ベタな展開と言えば、それまでなのですが、
僕はこういう風にして、トンデモないダメ人間が変えさせられてしまうぐらいの
衝撃的な“何か”を描いた映画って、キチッと描けていれば、とても強いと思うんですよね。
そういう意味で本作はしっかりとジュリアンの可愛らしさを描けたというのが、大きかったですねぇ。

それから、この映画の紅一点的存在であった、
レイラを演じたジョーイ・ローレン・アダムスという女優さん、とっても良かったですねぇ〜。

あまり数多くの映画に出演している女優さんではないようなのですが、
風貌は、どことなくレニー・ゼルウィガーの雰囲気があり、声はジェニファー・ティリー(笑)。
あまりブレイクしなかった女優さんではあるのですが、本作ではホントに良い存在感ですね。
本作を観る限り、僕は彼女がハリウッド女優として大成しなかったのは、勿体なかったと思いますね。

映画のラストで急激に割愛する傾向が出てくる映画ではあるので、
個人的にはいきなりエピソードが1年数ヵ月後に飛ばすのではなく、もう少し慎重に描いて欲しかったですね。

監督のデニス・デューガンは決してキャリアの長いディレクターではないのですが、
どうやら90年代以降から監督作を多く発表しており、コメディ専門にやってきているようですね。
決して演出は秀でた部分は感じませんが、映画のテンポ自体はとても良く、
あくまで本作に限って話せば、作為的に上手く進んだ作品と言えるのでしょうね。
こういう仕事をするのは、意外に容易いことではないと思うんですよね。だから、評価に値すると思います。

かつてハリウッドでは男性が子供を育てることを焦点にした映画が何本かありましたが、
これはシングル・ファザーという存在が社会的にありふれた存在になっていたことが背景にあって、
それだけアメリカの社会では、数多くの夫婦が離婚していることを象徴していると思うんですよね。

最近でこそ、日本でもシングル・ファザーの存在は認知されてきましたが、
かつて某テレビ局が『パパはニュースキャスター』なんてドラマを放送しましたが、
今から考えても、このドラマの存在はかなり異端でしたもんね。これはひじょうに大きな差だと思います。

最後に、この映画のもう一つ勿体ない点があって、
ホームレスを演じたスティーブ・ブシェミをほぼ完全に持て余してしまったことですね。

おそらく作り手も、彼の存在を「ホラ、いい味出した脇役だろ?」とでも思ってるのでしょうが、
申し訳ない言い方ではありますが、あまりにベタ過ぎて、彼の存在が面白味に欠けましたね。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 デニス・デューガン
製作 シド・ギャニス
    ジャック・ジャラプト
脚本 スティーブ・フランクス
    ティム・ハーリヒー
    アダム・サンドラー
撮影 デオ・ヴァン・デ・サンデ
音楽 テディ・カステルッチ
出演 アダム・サンドラー
    ジョーイ・ローレン・アダムス
    ジョン・スチュワート
    コール・スプラウス
    ディラン・スプラウス
    レスリー・マン
    ジョシュ・モステル
    ロブ・シュナイダー
    クリスティ・スワンソン
    アレン・コヴァート
    スティーブ・ブシェミ

1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(アダム・サンドラー) 受賞
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ロブ・シュナイダー) ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(デニス・デューガン) ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(スティーブ・フランクス、ティム・ハーリヒー、アダム・サンドラー) ノミネート