奥さまは魔女(2005年アメリカ)

Bewitched

これはかなり大胆にアレンジした、人気TVシリーズ『奥さまは魔女』の映画化作品。
作り手の遊び心は分かるけど、僕はもっと素直に映画化して欲しかったというのが、正直な本音かな。

せっかく、ヒロインにニコール・キッドマンをキャスティングできたのだから、
もっとストレートに『奥さまは魔女』の物語を踏襲して、彼女がサマンサ役を演じる姿を観たかったなぁ。

ニコール・キッドマンの相手役となる俳優ジャックを演じたのがコメディアンのウィル・フェレルですが、
彼は全米で大人気のコメディアンですが、日本では今一つ知名度が上がらず、映画もマニア受けするタイプだ。
でも、何故そうなのか、この映画を観て少し分かった気がする。まぁ、コメディアンとしては極めて有能で
おそらく頭の切れるタイプの人なのだろうけど、彼の笑いは好き嫌いがハッキリと分かれるでしょうね。

そして、この映画に於いては、彼のポジションが全く合っていなかった。
それが致命的と言ってもいいほどで、ニコール・キッドマンの引き立て役にもならず、
個々それぞれがバラバラな映画という印象だけが、僕の中では残ってしまい、映画が噛み合っていない。

映画の冒頭の始まり方なんかは、思わずワクワクさせられるような魅力がありますけど、
いざ映画が始まると、一気にトーンダウン。もっと主人公カップルが噛み合わないと、映画が磨かれない。
特に本作の場合はロマンスを描くわけで、さすがにこの噛み合わなさ具合では、説得力も持たないなぁ。

監督のノーラ・エフロンは経験豊かですし、もっと上手く撮れたのではないかと思えるのですが、
どうも作り手の素直にリメークせずに、“変化球”を見せるということに目的を置いてしまったかのようで、
本来、この普通の男女が出会って恋に落ちたものの、実は相手(妻)が魔女だった・・・という、
この物語が持つ根源的な魅力をリメークするというところには、全く向かわなかった点に疑問を持ちましたね。

本作が描いたのは、下降線を辿りつつある俳優ジャックに舞い込んだ、
TVシリーズ『奥さまは魔女』の現代版リメークにあたって、自分を引き立ててくれるヒロインのサマンサ役を
演じてくれる新人女優を探すうちに、偶然、本屋で目撃した女性イザベルがピッタリの女性だとオファーし、
なんとか彼女にサマンサ役を演じさせることに成功したものの、実はイザベルは魔女だった・・・というもので、
この物語のベースだけ聞くとそうでもないけど、映画の本編を観ると、少し複雑過ぎることをやろうとした印象がある。

ノーラ・エフロンはコメディ映画は過去何本も手掛けているので、
この分野では定評があるディレクターですが、本作はこのアレンジが命取りになってしまったような気がします。

たま〜にメイン・ストーリーに絡んでくる、ベテラン俳優のシャーリー・マクレーンにしても、
マイケル・ケインにしても、なんだか宝の持ち腐れのようで、悪い意味で中途半端な扱いにしか見えない。
こういう映画は脇役の方が印象に残るなんてこともあるだけに、この扱いの悪さはなんだか勿体ないなぁ。

オリジナルのTVシリーズでは、サマンサ役のエリザベス・モンゴメリーのキュートさが人気を博したので、
本作でウィル・フェレル演じるジャックが目論んでいたような、同名ドラマをリメークするとしても、
サマンサを差し置いて、旦那役が目立つことなんてありえないと思うのですが、いざ放送されたら彼は酷評されます。

日本でも04年に何故か本作がテレビドラマ化されましたけど、
そこまで高い視聴率は叩き出せず、ロングラン・ヒットとはならなかった記憶があります。
やはりオリジナルのようなシチュエーション・コメディとしての面白さは、日本のドラマで表現するのは難しいかな。
(日本にはシチュエーション・コメディをメインにした30分ドラマみたいなのは皆無ですからね)

ところで本作は、根本的にニコール・キッドマン演じるイザベルが映画の終盤まで“奥さま”ではないというのが、
オリジナル作品とのミスマッチを大きく感じさせているような気がします。しかも、こういうストーリー展開となると、
イザベルとジャックのロマンスの描き方って、結構大事になってくるはずなのですが、ここも本作は弱い。

普通の生活に憧れるイザベルという設定は由しとしても、どこからどう見ても性格的に難があるジャックと
どう結び付けるかというのが、大きなキー・ポイントだと思うのですが、この辺の描写に説得力は無いなぁ。

しかも、映画の終盤にオリジナル・シリーズの名脇役であった“アーサーおじさん”が登場するのですが、
これもまた、実に突拍子も無い登場の仕方になってしまっていて、本作の間の悪さというのが際立っています。
ジャックの不安を象徴するような、テレビショウに全裸で出演してしまう“妄想”では、ウィル・フェレルがモザイクかけて
全裸で大熱演していますが、それもあまりに突拍子が無い感じで、頑張れば頑張るほど、どこか空回りに見える。

この辺はノーラ・エフロンの経験値からすれば、編集段階で気づけたのではないかと思うんですよね。。。

これがアメリカで大ウケだというのなら、笑いの文化の違いなのかなと思えたけれども、
本作は全米での評価も芳しくはなかったわけで、こういった間の悪さは悪い影響しか与えていないと思います。
本来であれば、ニコール・キッドマンを引き立てるように、映画全体が向かわなければならなかったところ、
ウィル・フェレルにしてもスティーブ・カレルにしても、実力のあるコメディアンたちがバラバラに機能した感じで、
まとまりのある機能を果たしたとは言えず、これは作り手の見せ方にも問題があったのではないかと思います。

しかし、唯一と言っていいところですが、オリジナル・ストーリーにもその葛藤が描かれていた通り、
魔法使いのイザベルが、普通の生活を望んでいて、それでいながらも魔法を使って自分の意を通してきたので、
それが忘れられずに葛藤しながらも、魔法を使ってしまい、いつも後悔するという流れを描いたことは良かった。

これこそ、オリジナルのサマンサが持つ、不変的なテーマであったと言っても過言ではなく、
魔法使いの宿命をテーマに掲げることは忘れていなかった。これも無かったら、まるで違う映画になってましたね。

正直、コメディ映画としては、かなり物足りない出来です。往年のTVシリーズが好きで、
本作を観た人からも高評価を得ることは、おそらく難しいでしょう。キャスティングは豪華だっただけに、余計に残念。
しかし、このサマンサの魔法使いとしての苦悩を描いたというのは、本作の唯一の救いだった気がします。
僕はこの魔法が使えるという、何もかもが思い通りにできるという能力は、誰もが羨むものと思います。

ただ、当人の立場になって見ると、一概にそうでもないという心情になるというのは、
実に人間的な悩みであり、矛盾したところがあるからこそ、映画に深さを与えるテーマであると思う。
賛否ある出来ではありましたが、オリジナルのテーマを部分的に踏襲したのには安心させられた。

ただ、クドいようではありますが...大胆にアレンジしたリメークというのは、ホントに難しいですね。
結果として本作は成功とは言い難いリメークになってしまいましたが、オリジナルのまま製作するというのは
創作者として面白くないだろうし、かと言って、本作のように大胆過ぎるアレンジを施してしまうと、
オリジナルの良さを打ち消してしまい、オリジナルのファンに見てもらわないことには何も始まらないというのに、
オリジナルのファンからは「私たちが観たいのは、こういうのではない!」と拒否されてしまうことは勿体ないことです。

僕には本作が正に「こういうのを観たいわけではない!」とする声が多かった作品なのではないかと思う。
さすがにニコール・キッドマンの魅力だけで乗り切れるような企画でもないため、悪い意味で中途半端な印象がある。

そしてオリジナルのような“偶然運命の出会い”というダーリンとサマンサのロマンスというのと違って、
本作のジャックとイザベルは紆余曲折を経て、次第に惹かれ合っていくという展開だからこそ、
この2人のロマンスの描写も大切だったのですが、ジャックがただただ性格に難がある男としか見えないので、
なんでイザベルがいくら人間の生活に憧れているとは言え、何故ジャックに惹かれるのか納得性に欠ける。

こういったチョットずつ欠落したものが積み重なって、最終的には映画全体の歯車が噛み合わなかったのでしょう。。。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ノーラ・エフロン
製作 ルーシー・フィッシャー
   ペニー・マーシャル
   ダグラス・ウィック
   ノーラ・エフロン
脚本 ノーラ・エフロン
   デリア・エフロン
   アダム・マッケイ
撮影 ジョン・リンドレー
編集 スティーブン・A・ロッター
   ティア・ノーラン
音楽 ジョージ・フェントン
出演 ニコール・キッドマン
   ウィル・フェレル
   シャーリー・マクレーン
   マイケル・ケイン
   ジェイソン・シュワルツマン
   ヘザー・バーンズ
   クリスティン・チェノウェス
   スティーブ・カレル
   ジム・ターナー

2005年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ウィル・フェレル) ノミネート
2005年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ノーラ・エフロン) ノミネート
2005年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ノーラ・エフロン、デリア・エフロン、アダム・マッケイ) ノミネート
2005年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(ウィル・フェレル、ニコール・キッドマン) 受賞
2005年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・リメーク・続編賞 ノミネート