ビバリーヒルズ・コップ(1984年アメリカ)
Beverlyhills Cop
型破りなデトロイト市警の刑事が、少しヤバいことに手を付けて悪どい画商の手下によって
友人が殺害されたことに激怒し、休暇をとってロサンゼルスへ単身でやって来て、現地警察からマークされながらも
独自の方法で事件の真相に迫っていく姿を描いた、当時は世界各国で大ヒットのアクション・コメディの第1弾。
本作は結果的に3作までシリーズ化され、主演のエディ・マーフィの代名詞的作品にもなりました。
さすがは口八丁手八丁のエディ・マーフィで、当時は勢いにノッていた時期でしたから、
本作のマシンガン・トークも絶好調という感じで、何度観ても本作はエンターテイメントとして十分に楽しめる。
ただ、あらためて本作を吟味すると...エディ・マーフィも勿論、良いのだけれども
この映画はロサンゼルス市警の警部補を演じたロニー・コックスの映画だったのではないかと思える。
そういう意味では、エディ・マーフィを尾行するロサンゼルス市警の刑事を演じたジョン・アシュトンや
ジャッジ・ラインホルドの存在感も忘れ難い。つまりは、脇役を大切にしている映画ということで、とても大切なことだ。
監督は後に『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』などが高く評価されるマーチン・ブレストで、
今思えば彼が撮ったアクション映画って、本作と88年の『ミッドナイト・ラン』くらいかなぁと思うのですが、
本作を観る限りでは、そこそこアクション・シーンの演出も頑張っていて、引き締まった良い出来の映画になっている。
第2作はトニー・スコットに譲る形になって、それはそれで良かったのだけれども、
本作はマーチン・ブレストがしっかりと“土台”を作ってくれたから、シリーズの道筋を立てられたという見方もできる。
映画はエディ・マーフィのコメディ主体かと思いきや、しっかりとアクションも見せてくれる。
冒頭から麻薬捜査の潜入捜査を行っているエディ・マーフィ演じる主人公のアクセル刑事が描かれており、
たまたま踏み込んできた別の警察官のおかげで潜入捜査がパーになるところを、アクセルはトラックの荷台に乗って、
なんとか犯人を逃がさないと、カー・チェイスに参加。コミカルな演出にはなっていますが、迫力・臨場感もたっぷりです。
同じエディ・マーフィ主演映画としては、82年の『48時間』の延長線にあるような作品ではありますが、
今回はエディ・マーフィ自身が刑事役となって、彼のキャリアの中でも当たり役となったことは間違いありません。
前述したジョン・アシュトンやジャッジ・ラインホルドが演じるロサンゼルス市警の刑事たちは、
主人公アクセルの破天荒なスタイルに付き合ううちに、彼の刑事としての“嗅覚”の鋭さを知って、
次第にアクセルの無茶振りに応えるようになるわけで、映画のクライマックスには悪党の邸宅で銃撃戦になります。
このラストのガン・ファイトもなかなかの迫力で、コミカルなやり取りをしながらも、こちらもしっかり見せてくれる。
そんな彼らが上司の指示で、ホテルに宿泊するアクセルのことを尾行するのですが、
鋭いアクセルは尾行に気付いていて、ホテルのウェイターに軽食やコーヒーを差し入れするのが印象的ですが、
更にイタズラするというのがミソで、一匹狼的に動きたいアクセルを表現するあたりは『48時間』とは異なります。
(賛否はありますが、『48時間』はやっぱり典型的なバディ・ムービーだと思うので・・・)
この辺の駆け引きを描きつつも、しっかりと締めるところを締めたマーチン・ブレストが上手かった。
アクションにシフトした第2作、コメディにシフトした第3作と比較すると、本作はほど良い塩梅であると感じます。
適度にドタバタした部分もあって、映画全体のテンポも小気味良く良いですね。
それでいて、映画の最後はロニー・コックス演じるカタブツっぽい警部補が、しっかりと存在感を示してくれる。
オマケとしてホテルのバスローブに関するやり取りも、(ホントはダメだけど・・・)なんとも微笑ましくユーモラスだ。
確かにホテルのロゴ入りの作務衣とか、タオルってありますけど...
僕はそこまで欲しいなぁと思ったことはないけど、今はそういったものも販売されコレクターもいるみたいですからね。
そう考えると、このアクセルの行動って先端を行ってのかも(笑)。当時は、そこまで人気無かったでしょう・・・。
また、大富豪の画商で悪党であるメイトランドを演じたスティーブン・バーコフも良かったですね。
やっぱり良い映画は、こういう悪役もしっかり引き立っていて、映画を良い意味で引き締めることができているのです。
特にクライマックスの緩急利いた緊張感を演出できたのは、上手い具合にメイトランドが暴走したからだろう。
これがメイトランドまでコメディに走ってしまっていたら、ここまで特徴的な人気映画にはなっていなかったと思います。
ただ、欲を言えば、アクセルの捜査が簡単に上手く行き過ぎていて、もう少し障害があった方が面白かったかな。
天才的に勘が鋭く、睨んだことに対する執着が強いのは分かるけど、ほとんど当たっているというのはイージー過ぎる。
もっと彼にとって上手くいかなかいことが積み重なって、最後に発散する方が映画の爽快感も桁違いだったはず。
少々、映画の雰囲気が古びてきていることは否めないせいか、もう少し複雑さがあっても良かったかもしれません。
この辺は作り手の狙いが、シンプルに楽しめる映画ということだったのだろうから、ベクトルが違ったのだろうけど、
悪役のメイトランドの描き方は悪くなかっただけに、主人公が陥る状況があまりピンチな感じがしないのは勿体ない。
これはアクセルのやることなすこと上手くいく感じで一辺倒で描くので、ピンチでも楽観的な雰囲気が出てしまうから。
まぁ、コメディ映画としての側面が見れば、それでいいのかもしれないけど、
僕は本作、あくまでベースにあるものは刑事映画だと思っているので、ハードボイルドに描く必要はないけど、
相応の緊張感や緊迫感は演出して欲しかった。アクション・シーンそのものは良いので、あとは状況の困難さだろう。
もっとピンチな雰囲気が高揚した方が、それを打破したときの爽快感は映画ならではのものを表現できるし、
この中途半端さは本作の実に勿体ないところで、個人的には「もう一押しがあれば傑作だったのに・・・」と思えるところ。
ピンチな状況というわけではないけど、ジョン・アシュトンがメイトランドの邸宅の塀を
なかなか乗り越えられないのを延々と映し続けたのも賛否が分かれるかもしれません。あのシークエンスは
メイトランドを追い詰める銃撃戦へとつながるので、あまりドタバタしたシーンは無くても良かったような気がします。
会話としては映画『明日に向って撃て!』みたいだと呑気なことを言ってるので、これがあればギャグは十分で
このラストシーンに入ってからはドタバタせずに、シンプルにメイトランドとの全面対決を強調した方が良かったとは思う。
というわけで、僕は決して完璧な映画だとは思っていないのだけれども、
それでもエディ・マーフィの人気を決定づけて、ロニー・コックスら脇役を大切に描いたことで人気シリーズとなる、
その口火を切った第1作として、もっと評価されてもいい映画かなと思っています。少々、忘れられているので残念。
まぁ、エディ・マーフィの人気も90年代後半くらいまでがピークだったので、
それ以降は06年の『ドリームガールズ』で注目されたくらいで、俳優としては低迷してしまっているので、
本作のような輝かしい80年代のヒット作たちも忘れられている感が強いですが、今観ても十分に楽しめる快作です。
ところで、映画の中盤に朝食を会員制のレストランにとりに行ったメイトランドにアクセルが接触しに行くシーンで、
レストランにアクセルが入るために、レストランの係員にゲイを装って、「アタシのお友達がエイズになったの」と
メイトランドにその事実を直接伝えたいとするシーンがありますけど、今思えばこれはキワどいジョークですね。
80年代はエイズは得体の知れない病いではあったものの、まだ同性愛者を中心とした感染症というイメージでした。
こういうこともサラッとジョークにできたのはエディ・マーフィならではですが、段々とタブーになっていった印象ですね。
ちなみに元々、アクセルが暮らしていたデトロイトは工業が盛んなデトロイトは、
ブルーカラーの労働者が主体で、黒人も多く住んでいる都市です。そんな彼が一転して、富裕層しかいない
しかも白人が中心の社会を形成している高級住宅地ビバリーヒルズを中心に暴れ回るというのが、絶妙なギャップだ。
後年のエディ・マーフィは、人種差別に関してもギャグにしてしまっている印象があったのですが、
本作はまだそんな感じではなく、この映画のアクセルは思いのほかストレートで時に感情的になったりしている。
この辺は、まだデビュー仕立ての頃の初々しさ、ということなのかもしれませんが、
従来のエディ・マーフィのギャグとは一線を画するような部分があって、個人的には興味深いところでしたね。
そういう意味では、エディ・マーフィがあまり過剰に暴走しないからこそ、ロニー・コックスら脇役が目立ったのかも。
いろいろな意見はあるとは思いますが...エディ・マーフィ好きなら外せない一作ですね。
(上映時間104分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 マーチン・ブレスト
製作 ドン・シンプソン
ジェリー・ブラッカイマー
原案 ダニロ・バック
ダニエル・ペトリJr
脚本 ダニエル・ペトリJr
撮影 ブルース・サーティース
音楽 ハロルド・フォルターメイヤー
出演 エディ・マーフィ
リサ・アイルバッハー
ジャッジ・ラインホルド
ジョン・アシュトン
ロニー・コックス
スティーブン・バーコフ
ジェームズ・ルッソ
1984年度アカデミーオリジナル脚本賞(ダニロ・バック、ダニエル・ペトリJr) ノミネート