ビバリーヒルズ・コップ(1984年アメリカ)

Beverlyhills Cop

人気コメディアンだったエディ・マーフィが82年の『48時間』で、
ブレイクしたことをキッカケに持ち味の軽妙なギャグと、キレのある動きを生かして、
友人を殺害されたデトロイト市警の刑事が、ロサンゼルスに乗り込んで勝手に捜査する姿を描いたヒット作。

監督は手堅い演出に定評があるマーチン・ブレストで、
本作での経験値が、おそらく88年に『ミッドナイト・ラン』に生かされたのだろうと思える出来だ。

本作は日本でも勿論のこと、世界各国でヒットしたために、
エディ・マーフィの代表作の一本となり、94年までの間に3作の続編が製作されました。

今まであまり意識してなかったのですが、
本作もドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーのコンビが手掛けた作品だったんですね。
そう思って観れば、映画の冒頭にあるデトロイト市街地から住宅街にかけて展開される、
大型トラックを何十台ものパトカーで追跡するカー・チェイスのシーンの迫力にも、頷けるものがありますね。

さすがにこの2人のプロデューサー・コンビは90年代半ばにドン・シンプソンが他界するまでに、
数多くのヒット作を手掛けているのですが、良くも悪くも“破壊”を前提としたアクション・シーンが本作にもあって、
よくよく見ると、彼らのプロデュース作品らしいスケールの大きな映画という気がしますね。

本作はエディ・マーフィの独壇場のように思われがちな映画ではありますが、
ロサンゼルス市警の堅物タガート、トボけた若手刑事ローズウッド、中間管理職として堅実な仕事をこなす
ボゴミル警部補など、脇役キャラクターを大切にしていて、それぞれの持ち味が生きていて好感が持てる。

特にジャッジ・ラインホルド演じるローズウッドのどこかノンビリしていて、トボけた性格は印象深い。
映画の終盤である、ビバリーヒルズの豪邸の庭園で銃撃戦となるシーンでは、彼の相棒タガートとの
凸凹コンビぶりが抜群に面白く、弾丸が飛び交って、命からがら敵と銃撃戦をやっているにも関わらず、
何故か狂喜するかのように、「スゲェー! まるで映画みたいだぁ!!」とハシャぐ姿が印象に残る。
対照的に規則や規律を重んじるタガートは、そんなローズウッドを呆れたような表情で見ながら、
「この貸しはデカいぞ」と一言。刑事映画としてはセオリーかもしれませんが、こういう基本的な部分はしっかりしている。

まだ、この頃はエディ・マーフィも何をやってもウケる時代だったせいか、
やっぱり主人公のアクセルを演じている姿にも勢いが感じられ、何度観ても十分に楽しめる。

ただ、マーチン・ブレストは器用なディレクターではあると思うのですが、
どちらかと言えば、個人的にはコメディ映画よりもドラマ性の高い題材の映画の方が合っていると思うんですよね。
そういう意味では本作はエディ・マーフィのポテンシャルに依存している側面があることは否めないかもしれません。

かの有名なシンセサイザーのメロディがインパクト絶大なミュージック・スコアといい、
2016年に他界したイーグルス≠フグレン・フライが歌った挿入歌もヒットし、音楽もとってもゴキゲン。
(当時、イーグルス≠ヘ解散したため、グレン・フライもソロ活動に精を出しておりました)

エディ・マーフィのシュールなネタも含めてマシンガン・トークで繰り広げられるギャグの応酬も、
ウケようが外そうが、次から次へと勢い良く繰り出すものですから、映画のテンポは半ば無理矢理上がるのですが、
こういった音楽も映画の軽妙なテイストを演出することに貢献しており、実に色々なものが上手く機能している。

産業が活発なため労働者が多く、黒人が多いデトロイトで活躍する破天荒な刑事が、
一転して白人の富裕層が多く暮らし、ハリウッド・スターも多く暮らすロサンゼルスの高級住宅街である、
ビバリーヒルズで張り込み捜査をしに行くという、未だはびこる人種による格差を逆手にとったような構図が面白い。
エディ・マーフィのことだから、人種問題という社会的にタブーとされるネタをも、ギャグに変えてしまうのかと思いきや、
本作は意外なほどに彼自身もストレートに、人種問題について皮肉を言ったり、感情的になったりする。

まだ、この頃のエディ・マーフィは80年代後半に彼が出演した、
コメディ映画で繰り出していたギャグの数々と、本作のそれは少しだけ異なるような気がします。

冒頭のカー・チェイスは破天荒でド派手な演出でしたが、
映画の終盤にある豪邸での銃撃戦は、思いのほか正攻法で撮られていて感心させられる。
ローズウッドとタガートの2人は、どこかコメディ的に撮られていますが、エディ・マーフィ演じるアクセルの銃撃戦は
いたってストレート。悪の親玉、メイトランドとの対決は物足りなさが残りますが、ここでは過剰な演出はしません。

この終盤をシリアスに演出し切った選択は、個人的には正解だったと思うし、
それまでドタバタしたアクション・コメディ映画として展開していたのですが、一気に映画が引き締まりましたね。
こういうアプローチこそが、マーチン・ブレストが88年に撮った『ミッドナイト・ラン』に生かされたのでしょうね。

まぁ、どうやら当初は本作、スタローン主演で映画化される予定だったようですが、
当時のスタローンはコメディ映画に出演すること自体、NGだったらしく、シナリオの書き直しをスタジオに
要求していたようで交渉が難航。その結果として当時、映画俳優としてブレイクしつつあったエディ・マーフィに
白羽の矢が立ち、スタローンはスタローンで脚本を焼き直し、86年に『コブラ』を撮ることになりました。

様々な紆余曲折を経た企画だったようですが、結果的には世界的な大ヒット。
エディ・マーフィの代表作となるほど、80年代を象徴する一作となり、未だに存在感ある作品と言えます。

どうでもいい話しではありますが...
アクセルが宿泊した高級ホテルで、「バスローブを売ってくれ」とお願いして、
ロサンゼルス市警の費用でバスローブ2着を買って、タガートとローズウッドにプレゼントするシーンがありますが、
かつてはホテルや旅館のバスローブや作務衣を欲しいとは微塵にも思いませんでしたが(笑)、
最近はいろんなホテルチェーンでホテル名のロゴが入ったバスローブやタオル、作務衣を販売してるんですね。
(まぁ調べれば...昔からやってるところはあったのかもしれませんがねぇ・・・)

そう思って観れば、本作でのアクセルの行動って、最先端だったのかも・・・(苦笑)。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マーチン・ブレスト
製作 ドン・シンプソン
   ジェリー・ブラッカイマー
原案 ダニロ・バック
   ダニエル・ペトリJr
脚本 ダニエル・ペトリJr
撮影 ブルース・サーティース
音楽 ハロルド・フォルターメイヤー
出演 エディ・マーフィ
   リサ・アイルバッハー
   ジャッジ・ラインホルド
   ジョン・アシュトン
   ロニー・コックス
   スティーブン・バーコフ
   ジェームズ・ルッソ

1984年度アカデミーオリジナル脚本賞(ダニロ・バック、ダニエル・ペトリJr) ノミネート