ベオウルフ/呪われし勇者(2007年アメリカ)

Beowulf

これは...なんとも感想を言いにくい映画ですね(苦笑)。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなどで知られるロバート・ゼメキスが撮った、
モーション・キャプチャーの技術を駆使して、CGと実写を融合させ、新世界を演出したアクション・ファンタジー。

まぁ・・・結論から言えば、これは僕の中では「映画」という感覚ではないかな。
新しいことにチャレンジするというのは、往々にして反対意見が吹き荒れるものだから、
これはこれでパイオニアとしては“有り”なのだろうけど、映画の本来的な持ち味が既に無くなっている。
中世の物語を下地にはしていますが、かなり大胆にアレンジしていて、話しの流れもあまり良くないですしね。

ベテラン俳優のアンソニー・ホプキンスも、よくこんな映画に出演したなぁ〜と感心してしまった。

テクノロジーだけで一つの作品を撮れてしまう、ということは見事に証明したとは思うけれども、
どうにも、モーション・キャプチャーを使って、ひたすら超人的な動きを見せられて、一本調子な描写の連続。
個人的にはロバート・ゼメキスの映像作家としての力量を思うと、もっと面白い内容にできたはずと思いますね。

これはアニメーション映画として製作すべきだったと思う。
00年代前半であれば、そうしたのだろうが、ロバート・ゼメキスも欲が出たのか、実写との融合を図りました。
しかし、これはどこか違和感が拭えない映像を無理矢理にスペクタクルに見せるという感じになってしまっていて、
いくら新しい感覚の映画を撮りたいと言っても、あまりに従来の感覚と違い過ぎていて、まだまだ慣れないなぁ。

主演のレイ・ウィンストンにしても、ほぼ全裸で格闘シーンを見せてくれていますが、
映画全編にわたって、CGであることを理由にしてか(?)、キャストたちの露出度がやたらと高い。
グレンデルの母親を演じたアンジェリーナ・ジョリーにしても、随分とキワどい映像表現で彼女の母性を表現する。

そもそも、絵本にもなっている叙事詩『ベーオウルフ』の映画化ということなので、
子供たちも観る内容かと思っていたのですが、これは内容的に随分と大人向けな内容ですね。

グレンデルはマザコンだし、グレンデルの母は要するに子種を求めて迫ってくるし、
勇者ベオウルフも結局は欲望に負けて、後ろめたい過去を背負って生きるという設定ですし、
これはお世辞にもファミリー揃って安心して観ることができるエンターテイメントとは、言い難い内容ですね(笑)。

正直言って、なんでロバート・ゼメキスがこんな内容にしたのか、僕にはよく分からない。
プロダクションも、どういったターゲット層を持って、この作品のマーケティングを行ったのか、サッパリよく分からない。
良いとか悪いとか言う前に、僕の中では作り手の意図がよく分からない作品なので、何とも言いようがないのです。

大人向けの『ベーオウルフ』にしたかったにしろ、どことなく中途半端ですし、
単にCGと実写を融合して、アクションはモーション・キャプチャーを使って撮るということだけに、
この映画の目的があったのではないかと邪推してしまうのですよね。それでしか、本作は説明がつきません。
案の定、本作は3D映画としてそこそこ話題とはなりましたが、メガヒット作とはなりませんでした。
見方によれば、21世紀に入ってから作られた映画ではありますが、“早過ぎた映画”というところなのかもしれませんね。

21世紀に入ってからの3D映画のブームは、何と言っても09年の『アバター』が火付け役となりましたが、
この3Dブームは消えていくスピードも速く、アッという間に縮小してしまいました。やっぱり、過去の歴史を見ても、
3D映画の最大のブームは、1950年代の眼鏡をかけて観るスタイルがオシャレに見えていた時代だったのでしょう。

本作なんかは、言っては悪いですが...別に3D映画でなければ醍醐味を味わえないってほどじゃないですしね。

まぁ、細かいことを見ていけば、実写では表現しにくいシーンというのも多くあります。
おそらくロバート・ゼメキスとしては、こういうシーンこそ、本作で最も観客に伝えたかった映像表現なのでしょう。
例えば、クライマックスの対決シーンで魔物の急所を掴むシーンなんかは、なかなかの臨場感がある。
でも、ハッキリ言ってこれだけ。アニメーションでやればいいと前述しましたが、それでもこの内容ではキツいだろう。

ロバート・ゼメキスとアニメと言ったら、89年の『ロジャー・ラビット』を思い出すし、
僕は賛否はあったけど、実は『ロジャー・ラビット』は好きな作品なのですが、それでも本作までいくとキツい。。。
(おそらくアニメ界から見ると、この映画は画期的な存在なのではないかとは思うのですがねぇ・・・)

『ポーラー・エクスプレス』でフルCG作品にチャレンジしたこともあって、
ロバート・ゼメキスの作家性が留まるところを知らずに暴走した感じがしますけど、撮る前に再考して欲しかった。
なんか色々と噛み合っていないですもの。これではアンソニー・ホプキンスもアンジェリーナ・ジョリーも無駄遣い。
彼らのような実力派俳優をキャスティングできたのであれば、もっと普通に撮って欲しかった・・・(苦笑)。

アクション・シーンにしても、確かに超人的な動きを表現できたのは良いけれども、
さすがに実写が表現する臨場感は無いですものね。僕にはロバート・ゼメキスの狙いはハズレだったのかなと思える。
さすがにこれだけの土台をそろえた映画なだけに、なんだかこの結果は勿体ないなぁと思っちゃうんですよね。

この映画の見どころは、アンジェリーナ・ジョリーの抜群のプロポーションをCGで“イメージング”したシーンかな(笑)。
あれはあれで作り物感いっぱいなので世の男性陣からはブーイングかもしれないけど、まぁ・・・よくやったなぁって感じ。

対抗するように主演のレイ・ウィンストンもCGですが、全裸になって大立ち回りを演じるのですが、
何故かモザイクがかかっているかのように見えるくらい露出度が高く、これはこれでスゴい描写ですね。
でも、アンジェリーナ・ジョリーと比べると、レイ・ウィンストンが驚くほど印象に残らないというのが、なんとも・・・(苦笑)。

もっと、オーソドックスなストーリーで良かったと思うし、フルCGにこだわらなくても良かったと思う。
中途半端に大人向けにしたせいか、映画のコンセプトが何だったのかハッキリとせず、どうにもスッキリしない。
結果的にこの映画を通して、ロバート・ゼメキスが何をしたかったのかがよく分からず、これでは宝の持ち腐れだ。
ハリウッドお得意の資金力を活かした企画であったのは確かだけど、見どころが無い映画ということです。

大人向けのファンタジーというにも物足りない感じだし、エキサイティングなアクションの連続って感じでもないし・・・。

とまぁ・・・劇場公開当時から酷評の嵐だった本作ではありますが、
3D映画のブームを牽引した一本としては、評価されるところはあるのかもしれません。『アバター』の前ですしね。
内容的にはピーター・ジャクソンなんかが撮っていても不思議ではないのですが、ピーター・ジャクソンもここまで、
フルCGにこだわって映画を撮るとは思えないし、やっぱりロバート・ゼメキスだったから出来た作品ということなのかも。

ロバート・ゼメキスもこの路線では長続きしないと悟ったのか、実写映画の世界に戻ってきましたが、
こういう新たな映画を追い求めるタイプの映像作家ですので、また本作のような映画に挑戦するのかもしれません。

過剰な期待は禁物ですが、そういったロバート・ゼメキスの野心が好きな人にはオススメしたい。
あのスピルバーグでも、ここまで大胆なフルCG映画にはこだわらないだろうから、アイデアを出すのは簡単にしろ、
これを堂々と具現化させたプロダクション、そして本作のスタッフは素直にスゴいとは思う。成功はしなかったけどね。

ただ、頑固な意見を言えば...もっと映画らしさを表現して欲しかった。
これはやっぱり、アニメーションという感覚で観た方が良いような気がするくらい、実写とは全く違う感覚です。
クライマックスのベオウルフの城が焼かれていくシーンなんて、臨場感があまりに希薄で、ハッキリ言って興ざめでした。

これは3D上映で観れば、もっと楽しく面白いエキサイティングな映画なのだろうか・・・?

(上映時間114分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ロバート・ゼメキス
製作 ロバート・ゼメキス
   スティーブ・スターキー
   ジャック・ラプケ
脚本 ニール・ゲイマン
   ロジャー・エイヴァリー
撮影 ロバート・プレスリー
編集 ジェレマイア・オドリスコル
音楽 アラン・シルベストリ
出演 レイ・ウィンストン
   アンソニー・ホプキンス
   アンジェリーナ・ジョリー
   ロビン・ライト・ペン
   ジョン・マルコビッチ
   ブレンダン・グリーソン
   クリスピン・グローバー
   アリソン・ローマン