ベン・ハー(1959年アメリカ)

Ben−Hur

59年度アカデミー賞で、当時としては最多の11部門を獲得した映画史に残る名作。

とても今から50年も前に作った映画とは思えぬスケールの大きさで、
当時の映画会社も威信をかけた巨大プロジェクトだったであろうことを実感させられますね。
巨匠ウィリアム・ワイラーの時にダイナミックで、時に繊細な演出が見事にハマり、大成功を収めています。

実に欲張ったストーリー性を持った作品ではあるのですが、
その中身の濃さの割りには、3時間強の大長編に上手くまとめましたね(笑)。

できることならば、映画を分けて撮って欲しかったのですが(笑)、
それでもこれだけの内容の割りには、実に上手くまとめている。これは誰に出来る仕事ではありませんね。
さすがは50年代ハリウッド、当時はこういった壮大な企画にチャレンジする気概と余裕があったのでしょうね。

この映画を観て、改めて驚かされるのは、撮影に関してである。
特にこの映画最大の見せ場である、約10分にも及ぶコロシアムでの戦車競争のシーンで、
ギリシア式の戦車とやらで、執拗に卑怯な戦法をとるメッサラのアップカットや、
真正面からカメラに向かって馬が飛び込んでくるシーン、馬車から転落した選手が後続の馬に
無残にも轢き殺されてしまう描写など、当時の技術力を考えれば、思わず「どうやって撮ったんだろう?」と
疑問に思えてくる、スペクタクル性に満ちたアクション・シーンでこれは革命的なシーン演出です。

本作で使用されたカメラは“MGMカメラ65”だそうで、デカデカと映画の冒頭でもクレジットされています。
それだけ本作に巨額の投資をしたわけで、MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)は社運を賭けていました。

幸いにも当時としては異例だった約54億円という前代未聞の製作費も、
3時間を大きく超える長編であったにも関わらず、本作は全世界的な大ヒットとなりました。
但し、MGMの栄華はここまでで、本作での大成功に味をしめたMGMは次々と超大作を手がけるようになり、
かなり投資額もアップしていき、行き過ぎた大作主義を露呈させる結果となります。

まぁウィリアム・ワイラーは晩年まで、臨機応変に作家性を進化させていきましたが、
一方で映画産業の鍵を握っていたはずのMGMのような映画会社は時代の変化に対応し切れずに、
大きな代償を払うこととなってしまったわけで、今となっては様々な紆余曲折を経て、
往年の勢いを持っておらず、吸収合併したはずのUA(ユナイテッド・アーティスツ)に主導権を握られています。

かつてVHSが主流だった時代...って、ついこの前だが(笑)、
この映画を粗い画面で、一部、画面設計上の魅力を感じにくいシーンもあったのですが、
21世紀に入ってからデジタル・リマスタリングを施したDVDが発売されており、この仕事はホントに上手かった。
リバイバル上映も好評だったくらいで、こういうリマスターならいくらでもやってもらいたいですね。
是非とも、このリマスター・ヴァージョンで観て欲しいですね。これはリバイバルの価値があります。

ただ、実を言うと、僕はこの映画を完璧な作品だとは思っていない。
最も僕の中で致命的となってしまっているのは、主演のチャールトン・ヘストンなのだ。

別に嫌いな役者じゃないし、悪い仕事っぷりだとは思わない。
ただこういった物語の映画である以上、僕はベンに強烈なカリスマ性を感じさせて欲しい。
残念ながら、僕には本作のチャールトン・ヘストンから強烈なカリスマ性というものは感じられませんでしたね。

出演者という意味では、中盤でベンに「オレの馬を鍛えてやってくれ」と懇願する
アラブの男を演じたヒュー・グリフィスが一番良かったですね。
特に4頭の馬たちを部屋の中に連れてきて、1頭1頭に声をかけるシーンが印象的。
おそらくアドリブもあるのだろうけど、絶妙なタイミングで馬との会話を作り出す神業と言っていいと思う。

映画の後半に差し掛かると、チャールトン・ヘストンも同じことをやるのですが、
どうにもシックリ来ない。失礼ながらも、どこか胡散臭いヒュー・グリフィスだからこそ到達できる境地なのだろう。

映画としては、戦車競争のシーンが一番の見せ場であることは否定できません。
映画の中盤にベンが命を助けられるキッカケを作った海戦シーンがあるのですが、
戦車競争のシーン演出と比べると、数段落ちるインパクトであると言わざるをえません。
そして、原作にもあるように、イエス・キリストの処刑に関連するセオリーもあるのですが、
これはあくまでラストに映画全体のバランスをとっただけとしか、僕には思えない。
やはり戦車競争のシーン演出で、このプロダクションは全てを出し尽くした感がある。

でも、だからと言って、この映画が素晴らしいことには変わりはありません。
たいへん見応えがあるために、観る前はそうとうに気合を入れなければなりませんが(笑)、
奇跡を描き続けたファンタジーであることに対する一貫性は優れており、
作り手の主義主張には強い一貫性が感じられます。やっぱりこういう映画は強いんですよね。

ユダヤ人の歴史を中心として、キリスト教の啓蒙的な内容ではありますが、
これだけのファンタジーをスペクタクル性を持って描き上げたことに、この映画の偉大さがありますね。

09年、アメリカは不景気でそれは映画産業も無縁ではないそうなので、
おそらく今となっては本作のような大作を手がける映画会社なんて、ないだろうなぁ〜。。。

(上映時間222分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ウィリアム・ワイラー
製作 サム・ジンバリスト
原作 ルー・ウォーレス
脚本 カール・ダンバーグ
撮影 ロバート・L・サーティース
音楽 ミクロス・ローザ
出演 チャールトン・ヘストン
    ジャック・ホーキンス
    スティーブン・ボイド
    ヒュー・グリフィス
    ハイヤ・ハラリート
    キャシー・オドネル
    サム・ジャッフェ

1959年度アカデミー作品賞 受賞
1959年度アカデミー主演男優賞(チャールトン・ヘストン) 受賞
1959年度アカデミー助演男優賞(ヒュー・グリフィス) 受賞
1959年度アカデミー監督賞(ウィリアム・ワイラー) 受賞
1959年度アカデミー脚色賞(カール・タンバーグ) ノミネート
1969年度アカデミー撮影賞<カラー部門>(ロバート・L・サーティース) 受賞
1959年度アカデミー劇・喜劇映画音楽賞(ミクロス・ローザ) 受賞
1959年度アカデミー美術監督・装置賞<カラー部門> 受賞
1959年度アカデミー衣装デザイン賞<カラー部門> 受賞
1959年度アカデミー特殊効果賞 受賞
1959年度アカデミー音響賞 受賞
1959年度アカデミー編集賞 受賞
1959年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1959年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1959年度ゴーレデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1959年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(スティーブン・ボイド) 受賞
1959年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ウィリアム・ワイラー) 受賞