マルコヴィッチの穴(1999年アメリカ)

Being John Malkovich

確かに出来の悪い映画ではない。それは認めます。

本作が全米で公開されたとき、最初は上映館数が少なかったものですから、
ほとんどボックスオフィス上では注目されていなかったものの、徐々に上映館数を伸ばし、
口コミでヒットにつながっていき、結果的に評論化筋に高く評価され、映画賞レースでも注目されました。

日本でも半ば、突飛な発想の映画として目玉映画として、
拡大規模で配給され、何を隠そう、この私も本作を映画館で観ているのですが...
予想以上に深刻な映画で、居心地があんまり良くなかったなぁ(苦笑)。

いや、当時も映画館の中で笑い声が上がるほど、
楽しいシーンがあるにはあるのですが、映画を観終わった後、フッと考えるのです。
「面白かったけど、果たしてそれでいいのだろうか?」と。

新進気鋭の脚本家チャーリー・カウフマンが世界から注目されるキッカケとなった作品ですが、
この発想の源がまるで分からない、奇想天外な発想の映画であることは間違いありません。

人形操り師のシュワルツは妻ロッテとの生活を維持するため、
とあるビルに入居するオフィスの書類整理担当として勤務することになります。
このオフィスはビルの7と1/2階という、天井の低い7階と8階の間にあるフロアに存在し、
シュワルツはひょんなことから、棚の向こう側に封鎖された扉があることを発見します。
いざ、この扉を開け、掘り進められた穴を進むと、そこは実在の俳優ジョン・マルコビッチの頭の中。
15分にわたってジョン・マルコビッチを体験し、高速道路の脇に落下するという非現実的な体験。

この体験が商売に変わると企んだのは、シュワルツが必死にクドこうとアプローチしていた、
同じフロアの違う会社に勤めるクールなOLのマキシン。彼女はシュワルツと組んで、
200ドルで15分間のジョン・マルコビッチを体験できる商売を成立させます。

そんな非現実的な体験の虜となってしまったのはシュワルツの妻ロッテで、
あろうことかロッテも、マキシンに恋してしまうという、普通じゃありえない三角関係。
あまりに不思議な体験に動揺したジョン・マルコビッチ本人も、体調の異変の原因を追い始めます・・・。

とまぁ・・・ストーリー自体が、まるで説明のつかない摩訶不思議なもの。

よくもまぁ・・・ジョン・マルコビッチもこの企画に協力したものだと感心しますが、
シュワルツの妻ロッテを演じたキャメロン・ディアスもノー・メイクで出演するという大冒険。
彼女の役者魂もたいしたもので、当時、アイドル女優だっただけにかなり驚かされましたね。

とは言え、キャメロン・ディアスよりも目立ったのはマキシンを演じたキャサリン・キーナーだろう。
最初にフレームインした時点で、存在感抜群なのですが、大人の色気全開って感じですね。
この映画がアイデア倒れにならなかったのは、彼女の存在があったからかもしれません。

俳優としても活躍していたスパイク・ジョーンズの監督デビュー作となりましたが、
問題となる“穴”の描き方といい、7と1/2階の造形といい、いずれも見事に具現化できている。

演出面でも、俳優陣も充実していますので何一つ不足ない映画のようなのですが、
個人的にはもう少し笑わせて欲しかった。これは僕の勝手な先入観だったんだけど、
もっとコメディ映画に徹しているものだと思って最初に観たものですから、
あまりに深刻な内容、そして辛らつな映画のテーマにかなり戸惑ってしまったのは事実です。
決してつまらない発想ではないのですから、もっとコメディ的なニュアンスを強調して欲しかったですね。

それと、人形操り師という設定を今一つ活かし切れていないのも残念かな。
確かにジョン・マルコビッチをも操るというファクターはあるにはあるのですが、
それが物語の主題になり切れず、結果として性倒錯の方がメインテーマになってしまっている。

シュワルツの妻ロッテの存在がありますから、性倒錯には言及せざるをえなかったのでしょうが、
彼女とマキシンのレズビアンの関係はもう少しサラッと描けなかったものでしょうか。
映画のクライマックスで誘拐騒ぎになって、しまいにはロッテがマキシンを追い回して、
ジョン・マルコビッチの潜在意識の世界で銃を撃ちまくるという展開には唖然とさせられました。

まぁドンドン、破綻していく映画のクライマックスは群を抜いて個性的ですが、
個人的にはロッテが暴れ出すというよりも、シュワルツが暴走していった方がずっと面白かっただろう。
(まぁ・・・この内容でも彼は十分に暴走していると言えるのですが...)

それにしても、これは世の男性にはキツい内容の映画だなぁ。
主人公のシュワルツは言うまでもなく、情けない男の代表みたいな男なのですが、
映画はエンディングに向かって、強烈な皮肉の正体を徐々に暴いていきます。
正直に白状すると、この強烈な皮肉に僕は本作から居心地の悪さを感じたことは否定できません。

本作を観る際には、特に男性は覚悟した方がいいかもしれません。
ただの奇想天外な映画というイメージで本作を観ると、とっても痛いしっぺ返しを喰らいます。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スパイク・ジョーンズ
製作 マイケル・スタイプ
    サンディ・スターン
    スティーブ・ゴリン
    ビンセント・ランディ
脚本 チャーリー・カウフマン
撮影 ランス・アコード
音楽 カーター・バーウェル
出演 ジョン・キューザック
    キャメロン・ディアス
    キャサリン・キーナー
    ジョン・マルコビッチ
    チャーリー・シーン
    メアリー・ケイ・プレース

1999年度アカデミー助演女優賞(キャサリン・キーナー) ノミネート
1999年度アカデミー監督賞(スパイク・ジョーンズ) ノミネート
1999年度アカデミーオリジナル脚本賞(チャーリー・カウフマン) ノミネート
1999年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
1999年度全米映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度トロント映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度シカゴ映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度ラスベガス映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞 受賞
1999年度サンディエゴ映画批評家協会賞脚色賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
1999年度フロリダ映画批評家協会賞助演女優賞(キャサリン・キーナー) 受賞
1999年度フロリダ映画批評家協会賞新人賞(スパイク・ジョーンズ) 受賞
1999年度カンザス映画批評家協会賞助演女優賞(キャサリン・キーナー) 受賞
1999年度ニューヨーク映画批評家協会賞初監督作品賞(スパイク・ジョーンズ) 受賞
1999年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(ジョン・マルコビッチ) 受賞
1999年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(キャサリン・キーナー) 受賞
1999年度ロサンゼルス映画批評家紹介賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞