エネミー・ライン(2001年アメリカ)

Behind Enemy Lines

どうもダメだな...オーウェン・ウィルソンがいくらシリアスな芝居をしていても、
やはり僕には、どうしても何か観客を笑わそうとしているコメディ映画にしか見えないですね(苦笑)。

映画はボスニア紛争下、偵察飛行でボスニア付近を飛行していた、
米海軍の飛行機が偶然、ボスニアの闇の部分を空中撮影してしまったことから、
隠蔽のためにとボスニア人から命を狙われ、次から次へと命の危機に晒される姿を描いたアクション。

但し、この映画って、僕はいわゆる「結果オーライ」としか思えない。
主人公のバーネットはどういうわけか、飛行指示ルートから外れ、危険とも言われる飛行区域に侵入し、
「虐殺が起こっているかもしれない」という大義名分を基に、危険区域での偵察飛行を繰り広げ、
結果的にホントにヤバい現場を撮影したから、より激しく命を狙われることになるのですが、
基本はバーネットが指示に従わなかったことが招いた事件で、ここから始まる奪還劇をヒロイックに描かれても、
なんだか心のどこかに、“何か”が引っかかったような感じで、映画のクライマックスを迎えてしまいましたね。

バーネットの上官であるジーン・ハックマン演じるレイガート司令官のキャラクターを考えると、
どちらかと言えば、上司と部下の厚い信頼関係、もっと強く言えば愛情を描きたかったのでしょうが、
やはりオーウェン・ウィルソンのキャラのせいか、若干、この映画は損してしまっているような気がしますね。
どうも、作り手が盛り上げたかった上司と部下の感動の物語は、あまり盛り上がったという感じではありません。

まぁジーン・ハックマンは95年の『クリムゾン・タイド』でのイメージがあるから、
本作でのレイガートのような役柄が回ってくるのでしょうが、逆に言えば、そのイメージに安直に乗っかったという
印象がどうしても拭えなくって、本作で新たに確立したオリジナリティといったものは何一つ感じられません。
そういう意味で、この映画の作り手は少しイージーな感覚で、撮ってしまっているように見えるのが残念かな。

まぁ06年に物語の舞台を変えて、本作の続編が製作されておりますが、
個人的にはシリーズ化されるほど魅力ある作品だとは思えず、正直、シリーズ化された理由がよく分かりません。

危険地帯でバーネットはひたすら逃げ回り、
救出ポイントへと急ぎますが、この逃走劇は緊張感があまり高くはなく、どうも盛り上がりませんが、
僕がこの映画で良いと思ったところは、一つ一つのアクションの見せ方ですね。

例えば、単純にスカイ・アクションが好きな人はそこそこ満足できるでしょう。
82年にイーストウッドが撮った『ファイヤーフォックス』ほどの徹底ぶりは無いにしろ、
やはり映画の前半にある追尾ロケットに追い回され、戦闘機が必死に回避するシークエンスは
手に汗握る迫力で、これは編集のテクニックの高さも称賛されるべきで、これはなかなか良い出来栄えだ。

それと、映画の中盤にある、とある廃墟と化した町の中心部に、
爆弾のトラップとして肉眼では見逃しそうなピアノ線のような細いトラップが仕掛けられているのですが、
バーネットがこれを見破って、何とか踏まないように必死に足を動かすシーンは悪くない発想だと思う。

ひょっとしたら、これらのシーンは全て思いつきなのかもしれませんが、
それでも一連のアイデアは悪くなく、映画の作り手もそれなりに考えて映画を撮ったことは分かります。

ただ、やはり残念なのは、この映画全体を通して思うのですが...
何と言うか、「設計」したという感覚が無いということなんですよねぇ。映画全編を通しての一貫性が無い。
どういうことかと言うと、僕はこの映画をアメリカの自己満足を映した内容と勝手に捉えていたのですが、
どうやらこの映画の作り手には、アメリカがどうのと、国際関係的なニュアンスはどうでもいいようで、
ただ単に戦闘機を使ったスカイ・アクションが撮りたかったようですね。まぁ・・・それは別にいいんです。

ただ思います。一つはジーン・ハックマン演じるレイガート司令官ですね。
少なくとも僕には、どうしても彼でなければならないというような、必要性を見い出せなかったですね。
ホントにジーン・ハックマンが『クリムゾン・タイド』で作ったイメージを映画の中にハメ込んだ、ただそれだけです。

申し訳ないけど...そんな程度なら、別に彼でなくともいいんですよね。
僕はどうせ、ジーン・ハックマンをキャストできたのであれば、もっとしっかり活用して欲しいと思う。
これでは『クリムゾン・タイド』から借りてきたキャラクターのようになってしまい、ジーン・ハックマンが可哀想だ。
まぁ・・・唯一、バーネットの救出を優先するという点では異なりますが、彼の更に上に立つ者と、
ひたすら対立するという点では変わらず、どうしても『クリムゾン・タイド』のイメージが覆りません。
(少なくとも、こういう映画でキャラクターを安く使われることは、ジーン・ハックマンの本望ではなかっただろう)

それと、もう一人。
映画の中で、バーネットがギリギリのところで救ってもらった、クロアチア人の青年と出会って、
何故かバーネットが「助けてやる!」と言って、一緒に逃走劇に参加させるというエピソードがあるのですが、
これもまた、アッサリと使い捨てるかのように、中途半端なところで放棄してしまうかのように、
クロアチア人の青年を退場させるので、このエピソードはまるで意味がありませんでしたね。

こういう意味のない中途半端な描き方は、どうも感心できませんね。
思わず「やるなら、やる。やらないなら、やらないでハッキリせぇい!」と言いたくなりましたね(笑)。
いや、でもホントに...映画にとって、こういう中途半端が一番、良くないと思うんですよね。

やっぱりこういう映画を観ると、キャスティングって大事だなぁ〜と実感しますね。
最初に述べさせて頂きました通り、僕はこの映画、バーネットにオーウェン・ウィルソンは明らかな
ミスキャストだったと思うし、ジーン・ハックマンにしても無駄遣い以外の何物でもなかったと思います。
この辺は本作の作り手のビジョンの弱さを象徴していると思いますし、企画段階での甘さも痛感しますね。

いっそのこと、開き直れば良かったんです。
「グダグダしたドラマは必要なし。迫力のスカイ・アクションだけ見せれば良し!」みたいな感覚で。

やはりクライマックスの登場人物の“その後”を紹介するシーンの胡散臭さもあってか、
映画自体が安っぽく映ってしまったような気がしますし、作り手にはその開き直りが足りなかった気がします。
変に自重せず、いつも通りのアメリカの自国礼賛の映画を堂々と撮れば良かったと思うし、
それでも自重するのであれば、できないドラマは一切描かず、アクションだけを見せればと良かったのに・・・。

まぁ全世界で劇場公開にならなくても仕方のないようなB級アクションを、
莫大な予算を得たためにハリウッドの贅沢を尽くして撮った作品とどうしても揶揄的に捉えてしまいますね・・・。

(上映時間106分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ジョン・ムーア
製作 ジョン・デイヴィス
原案 ジム・トーマス
    ジョン・C・トーマス
脚本 デビッド・ヴェロス
    ザック・ペン
撮影 ブレンダン・ガルヴィン
音楽 ドン・デイヴィス
出演 オーウェン・ウィルソン
    ジーン・ハックマン
    ホアキン・デ・アルメイダ
    ガブリエル・マクト
    チャールド・マリック・ホイットフィールド
    デビッド・キース
    オレク・クルパ
    ウラジミール・マシコフ