人生はビギナーズ(2010年アメリカ)

Beginners

まるで、イングマール・ベルイマンのような、
人生を切り取った、スケッチのような絵画的な映画ですが、おそらくこれは賛否両論だろう。

名優クリストファー・プラマーが御年81歳にして、
アカデミー助演男優賞を獲得して、大きな話題となった作品ではあるのですが、
個人的には映画として、もう少し訴求するものがあった方が良かったなぁ・・・と思う。

勿論、人生を淡々と綴るという趣向は理解できるし、
往々にしてそんなにドラマチックな出来事が頻繁に起こるものではないことは分かるのだけれども、
それにしても本作は全体的にあまりに平坦で、何か一つ教訓めいたものも描かれずに映画は終わってしまう。

監督のマイク・ミルズの狙いが100%理解できたとまでは言えないけど、
彼が映画の中で表現したかったこと、それが自伝的な内容であることはよく分かります。
だからこそ、できるだけ主観を排除して、極めて冷静に主人公の想いを綴ったのだろうと思う。

しかし、この映画に必要だったのは、“波乱の予感”。
別に実際に波乱を描かなくてもいいし、感情的な内容にする必要もない。
とは言え、ドラマにメリハリもないせいか、どうにも平坦過ぎて、映画のテンションが常に一定で変わらない。
これが悪い意味でも際立ってしまっていて、やはり映画の最後で観客に訴求するものがないのは致命的。

個人的には、この内容ならば、やはり主人公である息子の父親に対する想い、
そして未来を一緒に築くべき相手である、恋人アナへの想いを、最後に力強く描くべきだと思う。

そのせいか、映画はシンミリ味わえるものも無いし、思わず胸にこみ上げるものもない。
それどころか、父親が晩年に愛した恋人から、「ゲイだから会いに来ないんだろう」とケチがついてしまう。
これは間違ったエピソードではないけど、あまりに酷く映画の焦点がボケてしまっていると思うんですよね。

確かに本作は、妻を失って、75歳になって克服し切れなかった、
同性愛者としての生き方を捨てられなかった父親が、ゲイであることをカミングアウトして、
ゲイとしてホントに幸せな晩年を貫き通す姿を淡々と描いているのですが、最も大事なことは
薄らと父がホモセクシャルであることに気づきつつも、いざカミングアウトされて、
思いっ切り同性愛者としての人生を謳歌する父を見て、主人公は幸せって何だろう?と考えることなはず。

この映画を観る限り、その幸せの原動力として同性愛があるとは言え、
別に本作はセクシャル・マイノリティを主題とした映画ではないはずなんですよね。
それが前述したような台詞によって、微妙な違和感が生じてしまい、それが最後まで消えないのです。

こういった描写を観て、僕も本作でマイク・ミルズが何をどう描きたかったのか、
分からなくなりかけたのだけれども、やはり映画を最後まで観ると、あくまで人生を描いた映画なはずなんですね。

そういう意味で、この散漫さはとても勿体ない。
勿論、主人公が父のゲイの仲間と微妙な距離感を感じていたことは否定できないだろう。
そんな中で、恋愛に晩生(おくて)な主人公が人生を前に進めるために歩き始めるのですが、
その過程としてゲイの仲間との微妙な距離感を取り払うことも、一つの課題であったとは思います。
しかし、それを敢えて、映画の終盤で語らせる必要があったかと思うと、それは疑問なんですよねぇ。

ただ、ここまで淡々と冷静に語ることができるってのも凄いことだと思う。
マイク・ミルズも自伝的な内容なので、個人的な思い入れはあるはずなのですが、
そういった主観も一切排除して、死にゆく父親の晩年を実に冷静な眼差しで綴っていくのが印象的だ。

それは過剰にドラマチックに描きたくはないという意図があったのだろうし、
淡々と語るということ自体が、本作を撮る目的の一つでもあったのかもしれませんね。

ただ、さすがに映画が後半に差し掛かると、主人公の葛藤も相まって、
映画のテンションは変わらずとも、少しずつシリアスになっていくところが賛否が分かれるところだろう。
本作の色合いを考慮すると、やはり本作はどちらかと言えば、コミカルな調子で描いた方が良かったかな。
それは主人公の父親が、晩年にゲイであることをカミングアウトして、人生を謳歌しただけに・・・。

主人公の恋人を演じたメラニー・ロランには今後、注目したい。
近年、『オーケストラ!』などに出演して注目されている、フランス人女優ですが、
本作でもやはり際立つ美貌で、一際、存在感ある映り方をしており、今後の活躍が期待されますね。

ベテラン俳優クリストファー・プラマーが方々から高い評価を浴び、
意外なことに長いキャリアの中で、オスカーを初めて獲得し、大きな話題となりましたが、
さすがの演技力ではありますが、これぐらいなら、他の仕事の方が良かったかなぁ〜。
一つ一つのシーンで、とっても良い表情してるし、確かな力を見せつけてはいるのだけれども、
本来、クリストファー・プラマーって、声がとっても良い役者なだけに、そこが本作では活きていない。

とは言え、こういう感覚の映画に合う人はとことん合うとは思います。
最近で言えば、ウディ・アレンのシリアスな監督作品が好きな人には、合う系統の作品かもしれません。

何か一つ訴求するものがあれば、
僕も「人生の平凡さを描き、敢えて淡々と描き切った秀作!」と感想を持てたかもしれませんが、
ここまで最後まで何もないと、さすがに映画としての魅力を削いでいるとしか思えないんだよなぁ・・・。

おそらくマイク・ミルズに起こった出来事としては、ホントにこんな感じなんだろうけど、
大袈裟ではない程度に、何か一つ脚色を加えても良かったのではないかと思うんですよね。
こういうところを思うと、意外にマイク・ミルズって、生真面目な映像作家なのかもしれません。

人生は一度きり。だからこそ、この邦題は言い得て妙ですね。
(チョット、ダサい邦題だけど・・・)

(上映時間103分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 マイク・ミルズ
製作 レスリー・アーダング
    ディーン・ヴェネック
    ミランダ・ドゥ・ペンシェ
    ジェイ・ヴァン・ホイ
    ラース・ヌードセン
脚本 マイク・ミルズ
撮影 キャスパー・タクセン
編集 オリヴィエ・ブッゲ・クエット
音楽 ロジャー・ネイル
    デイヴ・パーマー
    ブライアン・レイツェル
出演 ユアン・マクレガー
    クリストファー・プラマー
    メラニー・ロラン
    ゴラン・ヴィシュニック
    メアリー・ペイジ・ケラー
    キーガン・プース
    カイ・レノックス

2011年度アカデミー助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度全米映画俳優組合賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度インディアナ映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度デトロイト映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度カンザス・シティ映画批評家協会賞脚本賞(マイク・ミルズ) 受賞
2011年度ノース・テキサス映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度デンバー映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度トロント映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
2011年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(マイク・ミルズ) ノミネート
2011年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(クリストファー・プラマー) 受賞
2011年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(マイク・ミルズ) ノミネート