ビフォア・サンセット(2004年アメリカ)

Before Sunset

95年に公開された『恋人までの距離<ディスタンス>』の9年ぶりの続編で、
あまりに印象的なウィーンでの素敵な一夜を共にしたジェシーとセリーヌも、もう既に30歳オーバー。
お互いの連絡先も告げずに、ウィーンでの再会を約束したものの、果たすことなく9年の月日が流れていました。

妻子を持ち、アメリカで作家として成功したジェシーは営業活動で訪れたパリで、
彼のサイン会を見に来たセリーヌと9年ぶりの再会を果たします。

ジェシーが搭乗する予定である飛行機までの85分、2人はパリを散策することになります。
映画はただひたすら久しぶりの再会を果たした2人がお茶する姿や、お喋りしながら散策する姿を描きます。
まぁただ単に友達以上、恋人未満(...感情的には相思相愛)の2人のプチデートをドキュメントしているだけの
映画ではあるのですが、まだまだ恋する心を忘れていない2人の男女の活き活きした姿を見事に撮れている。

もっと大胆に言ってしまうと、僕は前作に続いて本作も傑作だと思っています。

おそらく本作はリチャード・リンクレーターとイーサン・ホーク、ジュリー・デルピーの3人にしか撮れないと思う。
これは『恋人までの距離<ディスタンス>』があってこそ映える作品であることはほぼ間違いないし、
誰もが本作のスタイルを物まねすれば、同じ感覚の仕上がりになるとまでは保証できない。

とは言え、お喋りで埋め尽くしながらも、お互いの感情を出し入れしながら、
時に苛立ったり、時に経過した時間の長さを痛感したり、時に初デートのウキウキした感情の高ぶりがあったり、
2人の心の揺れ動きを見事に画面に吹き込んでおり、前作の良い部分はしっかりと継承されている。

正直、最初にスクリーンにジュリー・デルピーが映った時、
失礼ながらも「チョット...年とったなぁ〜」と思ってしまいましたが(苦笑)、ジェシーが彼女に言ったように
前作の頃と比べると、少し痩せたようですね。でも、彼女もいい年のとり方をしていると思いますね。
映画女優としての風格は感じられるし、相変わらずの透明感でホントに良い女優さんですね。

この映画に何か結論めいたものや、劇的なストーリー展開を求めてはいけません。
何が正しくて、何が間違っているのかを議論する類いの映画でもなく、誰かが幸せを手にする映画でもない。
9年ぶりの再会を果たしたジェシーとセリーヌが9年前のウィーンでの出来事をお喋りの中で回想したり、
現況、家族、政治思想、日常生活の愚痴など、脈絡のない会話を映しているだけの映画なのです。
でも、それが映画というフォーマットにカスタマイズすると、それがピタッとハマっているから凄いですね。
作り手たちも久しぶりに再会して前作での成功をあれやこれやと話しているうちに、話しが盛り上がって、
いつの間にか続編を製作することになったみたいな感じのする映画ではありますが、
キチッと練られた脚本があったからこそ、本作の出来は良くなったことは確かだと思うんですよね。

作り手のジェシーとセリーヌのその後を撮りたいとする気持ちが強く、
ハッキリと撮りたい情景があったからこそ、ここまで自然体で素敵な仕上がりになったと思うんですよね。

特に撮りたい情景という意味では、観光客用の船に乗船するシーンが素晴らしい。
ゆったりと川下りをする中で、9年という時間というブランクを浄化してくれるような空気がある。
それだけでなくロケーションが抜群な映画で、そうとう入念にリサーチしたのかもしれませんね。
前作は夜のシーンが印象的でしたが、温暖なパリの昼下がりの素敵な時間を上手く描けている。

残念なことに本作は前作を観ていない人には、本作の良さが分からないでしょう。
前作とセットで観て初めて、本作の中で起きているマジックに気づくといった感じです。
そういう意味では、チョットだけズルい映画だとは思うんですよね。できれば、本作だけで勝負したいところです。

とは言え、前作同様、ひじょうに頭のいい映画であることは間違いありません。

ジェシーとセリーヌは止めどなくお喋りを続けますが、彼らの会話を吟味する必要はありません。
フレーズでは良いものがありますが、2人のお喋りの内容とはハッキリ言って、映画における重要な意味はない。
そうではなく、2人の過去を懐かしむことに必死になったり、お互いにヤキモチを妬いたり、
これから先、お互いの関係をどう展開させようかと迷う姿を、ひたすら移動していくパリの街並みを背景にして、
楽しむべき映画だと思います。これを15日という極めて短い撮影期間で撮れてしまうという要領の良さ。

前作も含めて、その発想の起点からして、何もかもが頭のいい映画なのです。

続編である本作を撮影するにあたっても、いくらでもアイデアはあったと思う。
それでも前作のスタイルを敢えて捨てず、無理をしてジェシーとセリーヌの関係に答えを出さないのが良い。
おそらく賛否は分かれるだろうが、抽象的なラストシーンにした選択も僕は正解だったと思う。

お互いの関係を進めようか、これっきりにしようか感情が高ぶり合いながらのラストだった前作は、
言わば若さゆえの演出であり、対照的に続編である本作のラストというのは、大人の余裕みたいなもんですね。

こういう映画が自然に撮れてしまう作り手の関係って、大事にして欲しいなぁ。
あくまで僕の勝手な推測にしかすぎませんが、彼らの良好な友好関係こそが本作を支えている気がします。
是非ともまた10年後、中年に差し掛かった2人の“その後”を描いた第3作を発表して欲しいですね。

(上映時間80分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 リチャード・リンクレーター
製作 リチャード・リンクレーター
    アン・ウォーカー=マクベイ
原案 リチャード・リンクレーター
    キム・クリザン
脚本 リチャード・リンクレーター
    キム・クリザン
    ジュリー・デルピー
    イーサン・ホーク
撮影 リー・ダニエル
出演 イーサン・ホーク
    ジュリー・デルピー
    ヴァーノン・ドブチェフ
    ルイーズ・レモワン・トレス
    ロドルフ・ポリー

2004年度アカデミー脚色賞(リチャード・リンクレーター、キム・クリザン、ジュリー・デルピー、イーサン・ホーク) ノミネート
2004年度サンフランシスコ映画批評家協会賞主演女優賞(ジュリー・デルピー) 受賞