ベートーベン(1992年アメリカ)

Beethoven

いいですね、たまにこういう映画も(笑)。
単純明快、シンプル、作り手の見せたいものがハッキリとしていて、ノホホンと平和なひと騒動という感じで。

危険な動物実験のため、違法な獣医師の策略によって強奪されたセントバーナード犬を救おうと、
犬を飼うことに積極的ではない父親を中心に、獣医師に立ち向かう姿を描いたハリウッドらしいファミリー映画。

僕も子供の頃、レンタルビデオ屋が最全盛の時期でよく家族で通ってましたけど、
そのときに丁度、本作が新作扱いの頃で大量にソフトが並んでいて、店もオススメだったので観た思い出があります。
まぁ、大人になれば不足な映画かもしれませんが、家族で揃って安心して観ることができる貴重な映画だと思います。

上映時間も短くて、極めてコンパクトでスリム。飽きる前に映画が終わるので、とっても観易い(笑)。

こういう映画が市民権を得ていましたが、あるときからこの手の映画が批判され易い時期になって、
ファミリー層も映画ファンとしてもボリューム・ゾーンでなくなったということもあってか、少なくなっていきましたからね。
こういう安心して観れる映画って、僕はやっぱり貴重だなぁと思っていて、ずっと作り続けて欲しいというのが本音。

本作も製作総指揮としてアイバン・ライトマンが参加していたのですが、
当時はこういうコメディが得意なディレクターも多くいましたし、ハリウッドでも競争は激しかったですからねぇ。

何より犬にここまで上手く芝居させているように見せる技術が素晴らしい。
やっぱり犬が主役の映画ですから、ワンちゃんたちに魅力がないと成り立たないし、自然体に見せる必要があります。
こういうタレント化した動物たちって、アメリカなら数多くいるのでしょうけど、本作のセントバーナード犬は上手かった。
映画の序盤は家を汚し破壊するなど、厄介なことばかりやらかす存在として描いてますが、それはそれで可愛らしい。

ちなみに本作の撮影では、セントバーナード犬の成長を表現する部分があるためか、
撮影にあたって16頭のセントバーナード犬を代わる代わる登場させているらしく、大変な撮影だったのだろうと思う。
おそらく、これだけ上手く演技“させられて”いることを考えると、相当に厳選して選抜された16頭なのでしょうねぇ。
ひょっとすると、いわゆる“動物タレント”を養成する会社から借りているのかもしれませんが、これは実にスゴいことだ。

セントバーナードって、メチャメチャ大量に食事をするし、体も大きいからパワーがスゴいし、
躾をするのも大変でしょうね。でも、性格的にはおとなしいと聞きますし、人懐こい印象があるので
大きな家に暮らしている家族からすれば、懐けば最高のペットなのかも。日本ではあまり多くはいないですけどね。

まぁ、核家族の家庭で子供たちからねだられて犬を飼うことになったものの、
いつしか子供たちは面倒を看ることができなくなり、結局を犬を飼うことに反対していた父親が犬を風呂に入れたり、
散歩を連れて行ったりしているうちに、父親が最も強い愛着を抱くなんてことは、数多く実例としてあるのでしょう。
古い言葉で言えば、ペットは「愛玩動物」ですが、「伴侶動物」とも言いますからね。もう存在としては家族の一員です。

ペットを飼うことの最たるツラさは、やはりペットの喪失であるだろうし、存在としてはドンドン大きくなるのでしょうね。

昨今では高齢者社会が進んだということもあってか、飼い主が高齢化して面倒を看切れなくなり、
場合によっては制限のない多頭飼育で衛生状態が悪く、第三者が介入しなければならなくなるケースも少なくない。
そうなると保健所による殺処分にまで至ってしまうこともあるので、飼い主のリテラシーというのも大事ですね。

本作はあくまでファミリー映画で、描きたいことだけをコンパクトに描いている作品ですので、
そんなシリアスな要素は一切含めておらず、あくまでセントバーナード犬との交流、悪徳獣医師との闘いのみに
フォーカスしていることは賢かった。悪徳獣医師との闘いもあまり小難しく描くことはせずに、アッサリと終わらせる。
個人的には、家族で揃って安心して観れる映画としては、これでいいと思う。作り手に変な欲がないのは、潔く感じる。

なんでも面倒クサそうに対応する父親を演じたチャールズ・グローディンは良いですね。
88年の『ミッドナイト・ラン』での持ち味をそのままファミリー映画に持ち込んだような感じですが、最後は大活躍。
一方で、犬を飼うことに理解を示す優しいママを演じたボニー・ハントは、この手の映画で安心させてくれる存在感。

彼らがしっかりと機能したからこそ、本作はそれなりに受け入れられヒットし、続編も製作されたのでしょう。
実は本作、第2作までは同じキャストで続編が作られたのですが、第3作以降はキャストを一新して製作されていて、
勢い余って第5作まで作られたのですね。さすがに僕も知らなかったのですが、どうやら3作以降は別物らしいです。
(そのせいか、第3作以降は日本では劇場公開されずに、いわゆる“ビデオスルー”扱いとなりました)

それから何気に悪徳獣医師から指示されて、多くの実験動物をペットショップなどから盗んでくるという
乱暴な手段にでる悪党2人組に名前が売れる前のスタンリー・トゥッチとオリバー・プラットが配役されていて、
しかも一家の父親が経営する会社に投資を持ち掛ける実業家役として、後にTVシリーズ『X−ファイル』でブレイクする
デビッド・ドゥカブニーがキャスティングされるなど、地味に豪華な布陣を敷いているあたりも本作の注目ポイントだ。

偶然かもしれませんが、本作のキャスティングにチョットした光るものを感じずにはいられませんね。

まぁ、末っ子の女の子がプールで溺れかけたところを、なんの以心伝心か分からないけど、
離れたところにいたセントバーナードが突如として走り出して、一目散に末っ子を助けに来るというシーンは
少々やり過ぎなところはあるけど、こういう犬はやはり飼い主には忠実ですし、憧れではありますよね。懐くなら(笑)。

ここまで躾けるというのも大変だろうし、大型犬になるとエサ代も大変な金額になるだろうし、
散歩だって体力は使うでしょう。映画で描かれた通り、現実には家の中も汚されて破壊されるなんてこともあるだろう。
きっと、その一つ一つが良い思い出になるのでしょうけど、この父親のように受け入れるには時間がかかるかも(笑)。

でも、きっと犬好きなら楽しいこと請け合いな作品でしょうし、前述したように一家で安心して観れるのが良い。
少しだけハラハラさせられる展開ですけど、どれを取っても“安全な範囲で”ハラハラさせられる構成になっている。
こういう企画にも資金を投入することができたというのは、やはり当時のハリウッドの懐の深さそのものだと思います。

正直、日本だとこうはいかないし、映画の出来自体もここまでのクオリティにはできないことが多いですから・・・。

監督のブライアン・レバントはこの手のファミリー映画が得意な人のようで、本作でもその手腕を発揮している。
どうやら70年代からTVシリーズで経験を積んでいた人のようで、地味にキャリアの長い人なんですね。
本作の後も94年の『フリントストーン/モダン石器時代』をヒットさせ、それなりに定評のある人だったのだろうと思う。
ところが、シュワちゃんを主演に据えた96年の『ジングル・オール・ザ・ウェイ』で興行的に失敗してしまいました。

一時期はこういう映画に興味が無くなってしまったこともありましたけど、いざ一児の親となると
まだ一緒になって映画を観るということはほとんどないにしろ、こういうファミリー映画の存在は貴重だなぁと思います。
最近ではどうしても子供たちもYoutubeにいきがちなので、映画の存在価値が薄らいでいるような気もしますけど、
定期的にこういうファミリー映画がヒットするような環境は、やはり子供たちにとっては大切なことだと思っています。
たまに僕が観ている映画を、字が分かるようになると字幕を読んだりして、子供も興味を持つことがありますからねぇ。

まぁ、ハートウォーミングな映画ではあるけれども、無理に感動に持っていこうとせずに、
実にアッサリと描きたいことだけ描いて映画を終わらせていて、良い意味でサッパリした映画だと思いますね。
だからこそ、映画のラストがスゴく良い。意味ありげなラストでもなく、端的で的確。終わり良ければ、すべて良しかと。

小型犬から大型犬へと成長していくのは飼い主としては、感慨深いでしょうね。だからペットというより家族なんです。
結局は飼い主たちが育てて、人生を共に歩んでいるパートナーだからです。だからこそ喪失がショックなわけですが、
こういう家族の一員のような存在に変わっていったのは時代の流れというか、核家族化の流れなのかもしれませんね。

いわゆる番犬のような役割もあるのかもしれませんが、まぁ・・・やっぱり伴侶動物なんですよね。
だからこそ本作のような映画が成り立つわけで、日本でもそういう流れがあるので、これはこれで欧米化なのかも。

犬の活躍を描いた映画としては出来も良く、そこそこオススメできる作品です。
大人になっても、「たまにはこういう映画を観るのも良いなぁ」と思えるということは、それなりに心が荒んでるのかな?

(上映時間86分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ブライアン・レバント
製作 ジョ−・メジャック
   マイケル・C・グロス
脚本 エイミー・ホールデン・ジョーンズ
   エドモンド・ダンテス
撮影 ビクター・J・ケンパー
音楽 ランディ・エデルマン
出演 チャールズ・グローディン
   ボニー・ハント
   ニコール・トム
   ディーン・ジョーンズ
   クリストファー・キャスタイル
   サラ・ローズ・カー
   オリバー・プラット
   スタンリー・トゥッチ
   デビッド・ドゥカブニー
   パトリシア・ヒートン