ビューティフル・ガールズ(1995年アメリカ)

Beautiful Girls

久々に故郷の田舎町へと帰郷した、都会でピアニストとして、
夜ごとバーで弾き語りをする男が、束の間の故郷での時間の中で、町の人々と交流を重ね、
心の中のどこかに迷いがあった恋人に対する気持ちを整理する様子を描いた大人のための青春映画。

監督は若くして急逝してしまったテッド・デミで、
彼は映画監督ジョナサン・デミの甥にあたるのですが、01年の『ブロウ』を撮った直後に
プライベートでバスケに興じていた際に心臓発作を起こして、残念ながら他界してしまいました。

この映画、おそらくテッド・デミが94年の『サイレント・ナイト こんな人質もうこりごり』で注目され、
すぐに撮った作品なだけあってか、良い意味での勢いがあって、とても価値のある一作ですね。

正直言って、映画の出来としてはそこまで秀でたものを感じることはありませんでしたが、
全体的にはとても堅実に撮っているし、登場人物たちの感情の流れがとても読み易くできている。
これができているからこそ、各エピソードの交通整理が上手くついて、群像ドラマとしてまとまっていますね。
得てして、こういう映画は撮るのが凄く難しいと思うのですが、テッド・デミは実に簡単にクリアしている。

ただ、この映画、少し勿体ない。
観る価値は十分にある作品なのですが、観終わって、こみ上げるものが今一つ弱い。

この手の映画であれば尚更、映画を観終わった後に、もっと感情が高ぶるものが欲しい。
映画の雰囲気作りから、観客を巻き込むぐらいの力強さが必要で、この映画はそういう力が弱い。
全体的には体裁良く、見てくれは上手くできているのですが、映画に今一つ力強さが出なかったというのは、
そもそもの映画の雰囲気作りに物足りなさがあるからでしょう。夜ごとバーに繰り出すシーンだけでは不足です。
主人公の古い友人たちとの友情の強さを感じるエピソードが、映画の最後くらいしかないのが問題でしょう。

映画の前半から、さり気なく友情の強さを描いて欲しいものです。
そうでなければ、主人公が故郷の懐かしい空気に心を洗われて、気持ちを整理する過程が描けないのです。

この映画であれば、思わず観客に「なんか、懐かしい〜」とか、
「この映画を観たら、思わず故郷に帰りたくなった」とか、感情や行動に強く訴えるものがないとダメです。

当時、『レオン』で大注目だったナタリー・ポートマンが主人公の実家の隣家に暮らす、
13歳の美少女で、主人公が思わず一目惚れしてしまうなんてエピソードがありますけど、
そりゃナタリー・ポートマンが観れたことは良かったけど、このエピソードは再考して欲しかった。

主人公をただのロリコンにしたかったのか、よく意図が分からないのですが、
いくら完璧な人間などいないとしたって、彼女をこういう扱いにしたというのは共感できない。
できることなら、彼女からの一方的な好意で、それは大人の男性に対する憧れからくるものとして
描いて欲しかったし、本気で主人公が迷ってしまうなんて、あまり気持ち良く観れるエピソードじゃないなぁ。

この部分だけ再考すれば、この映画はもっと良くなったと思うし、
ナタリー・ポートマンももっと良い意味でスクリーンの中で輝いたと思うのですよね。

まぁ・・・しかしながら、映画が破綻していないことは凄い(笑)。
ナンダカンダで、映画の終盤はしっかりまとめているし、各登場人物のエピソードを並行させて、
それぞれ描かなければならない最低限のことは、しっかり描けているのは良かったと思う。
それらをゴチャゴチャにせず、しっかり交通整理して配列しているのは、編集も優れているからだろう。

キャスティングは結構、豪華なのですが、
当時、既にトップ女優に近い扱いを受けていたユマ・サーマンは、持ち前の美貌を活かした役柄ですが、
ほぼチョイ役に近い扱いで、この時期に本作のような映画に彼女が出演していたのは、とても貴重だと思う。

この映画は社会人になってから10年ぐらい経って、
仲間うちに家庭を持つ人がでてきたり、そう遠くはない未来への岐路に立たされたりして、
いろいろと悩み疲れたような状態に陥ってしまった、“アラサー”から35歳ぐらいの人にはオススメですね。

境遇が一緒までは言わないけれども、
丁度、私もこの年頃にあたるせいか、全てではないけれども、映画の中で描かれたことが
自分の中に通じるものがあるなと感じることはありましたし、社会人としての疲労のピークが来る頃なんでしょうね。

別に癒しを求めているわけではないけど、心落ち着ける時間が欲しいと思いがちなんでしょう。

そういう意味では、テッド・デミ自身も本作を製作した頃に
同じような年頃を迎えていたわけで、おそらくこの映画で描かれた主人公に自分を重ね合せて、
青春時代の自分を思い出し、人生を前へ進めようとする姿を描いていたのではないかと思いますね。
まぁ・・・だからこそ、主人公がナタリー・ポートマン演じるマーティに恋する姿は、観たくなかったですね(苦笑)。

あと、もう一人、人妻となったかつての恋人と不倫関係を断ち切れない、
除雪業者を演じたマット・ディロンも好演なのですが、彼もまたモラトリアムみたいな役柄だ。

いけないことは分かっていながらも、かつての恋人が求めるままに関係を断ち切れず、
現在の恋人シャロンを傷つけることを理解しながらも、どうしても前へ進むことができません。
結果的に不倫相手の旦那と彼の仲間にボコボコにリンチされてしまうのですが、そこまでやられて初めて気づく。
そんな大人になり切れない姿がなんとも痛々しいのですが、これはこれで一つの彼らの「成長」なんですね。

この映画の良いところは、過剰に「演出」しようとしなかったところですね。
あくまで自然体な姿、それを軸に映画を構成しているようで、アプローチそのものは間違ってないと思いますね。

やはりテッド・デミ、とても惜しい映像作家を失ったなぁ・・・。
この映画を観る限り、とても期待値の高い映像作家と思えるだけに、とても残念です。
01年の遺作『ブロウ』もなかなかの力作だっただけに、ハリウッドにとっても大きな損失でしたね。

もう少し勢いのある映画でしたら、「観たら元気になれる映画」と太鼓判を押せましたが、
そこまでではないにしろ...人生の岐路に立たされて、ゆっくりと前へ進みたい人にオススメ。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 テッド・デミ
製作 ケイルー・ウッズ
脚本 スコット・ローゼンバーグ
撮影 アダム・キンメル
音楽 デビッド・A・スチュワート
出演 ティモシー・ハットン
    マット・ディロン
    ナタリー・ポートマン
    ローレン・ホリー
    ミラ・ソルビーノ
    ノア・エメリッヒ
    ユマ・サーマン
    アナベス・ギッシュ
    マイケル・ラパポート
    マーサ・プリンプトン
    サム・ロバーズ
    デビッド・アークエット
    ジョン・キャロル・リンチ