ニューヨーク東8番街の奇跡(1987年アメリカ)

Batteries Not Included

スピルバーグ製作総指揮の不思議な能力を持つ円盤と、お年寄りの交流を描いたSFファンタジー。

監督は73年に『続・激突!/カージャック』で脚本家デビューしたマシュー・ロビンスで、
思いのほか、映画の内容的にはノホホンと平和な雰囲気で描かれた、実に魅力溢れるファンタジーでした。
まぁ・・・一般に大傑作と言われることはないタイプの作品だとは思いますが、個人的には推したい一作なんですよね。

主演のフェイを演じたジェシカ・タンディも、彼女の夫を演じたヒューム・クローニンも
既に他界して久しいですが、実はアパートの住人たちに立ち退きを迫るカルロス役のマイケル・カーマインも、
アパートの住人で妊婦さんのマリサを演じたエリザベス・ペーニャも、残念ながら早逝してしまっている。
加えて、心優しい元ボクサーのハリーを演じたフランク・マクレーも他界してしまっており、悔まれるところ。

ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンの実際の夫婦共演もどこか微笑ましいが、
ジェシカ・タンディが演じたフェイが、過去のツラい出来事から塞ぎ込んでしまって、痴呆症のような症状が出ていて、
そんな妻の変貌ぶりにも落ち込まずに、日常生活のアシストをするヒューム・クローニン演じる夫も、なんだか泣ける。
これは現代流に言うと、典型的な老老介護であり、高齢化社会が進んだ現代の日本では現実に起きていることだ。

アパートの住人たちの人間模様もユニークで面白いが、フェイたちの子供であるかのように
振る舞う謎の円盤も可愛らしく、UFOのような未確認飛行物体をキュートに見せることに成功している。
(まぁ・・・映画の途中で出産のようなニュアンスで描いたシーンは、さすがに“引いた”けど)

まぁ、映画の序盤に描かれる地上げ屋の“嫌がらせ”が、“嫌がらせ”の範疇を超えて、
完全に犯罪行為というところまでエスカレートしているにも関わらず、地元警察が見て見ぬフリをしている。

お年寄りが暮らすアパートメントなだけに警察が無視するとなると、完全に孤立無援なわけで、
そんな苦しい状況を救う存在となるのが、まるでお年寄りの子どもみたいに愛らしい小さな円盤という発想が面白い。
映画の雰囲気自体がとても温かく、スピルバーグ的にはTVシリーズ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』の
延長線上にある企画と言っても過言ではないくらい、摩訶不思議な物語であり、とっても見事なファンタジーですね。
(本作の原案が『世にも不思議なアメージング・ストーリー』の脚本を書いたミック・ギャリスが参加しています)

不思議な能力を持つのは勿論のこと、フェイらを助けるかのように
老夫婦が経営するカフェの調理場を手伝うという描写があり、ハンバーガーを作ったりと微笑ましいシーンがある。

これって、超高齢化社会になった現代の日本社会に於いても、
省人化を目的としたロボット化を進めるということが工業では大きな課題になっていますけど、
それを飲食店のようなサービス業でも進めようという、究極の形態を具現化させた映画ですね(笑)。
オートフォーメーション化する調理場という構想は今ではあるのでしょうが、ロボットが調理するというのはなかなか無い。

最近は“エイジ・フレンドリー”というキーワードで国が、高齢者が就労するハードルを下げようとしていますから、
完全にロボットが取って代わるというよりは、まずは人間がやり切れないことをロボットがアシストするという
ところからかなと思いますので、本作ほどではないにしろ、いつかこれに近い調理場が当たり前になるかもしれません。

そもそも、物語の舞台となるアパート自体がノスタルジーを感じさせる存在で味わいがある。
そんな魅力に住人たちが気に入って住んでいるわけですが、実業家たちが再開発事業で自分たちの個性を出した、
最新鋭のビルディングを建てたいと目論む中で、この古いアパートだけが立ち退かないというところがミソ。

それで地元のチンピラに頼んで、地上げ屋として住人たちに嫌がらせをさせるのですが、
自分たちは悪事に手を染めないという、安全なポジションから立ち退かせようと、チンピラたちを使うのがズルい。

しかし、かつては再開発事業ともなって、立ち退き反対にあえば、これに近いことはあったのかもしれない。
エスカレートすると事件になるところですが、ここを不思議なUFOが介在することで物騒なトラブル自体が
不思議な魅力を持ったファンタジー映画に昇華するのだから、何とも言えないマジックを発揮した作品と思う。

ILMが手掛けた映像技術自体は、現代の映像表現と比べると発展途上というか、
見劣りするのは否定しませんが、スピルバーグも良い企画をマシュー・ロビンスにプレゼントしましたね。
85年の『コクーン』の系譜とも言える、老人を主人公にしたSF映画ですが、個人的には本作を推したい。
本作はクライマックスに地上げ屋が強硬手段に出ることにより、トンデモないことになってしまいますが、
結果的に円盤たちが不思議な力を使って、地上げ屋の凶行に反抗したことによって、大きな奇跡が訪れます。

これって、僕は尊いものが失われてしまうことの儚さを、同時に描いている作品だなぁと感じるのです。

さり気なく、壊れた床の小さなタイルを一つ一つ張っていくという、途方もない作業を映していますが、
ああいう様子を見ると、作り上げるには凄い労力と時間を費やす必要があるけど、壊すのは一瞬という儚さを感じる。
どんな建物にも歴史があり、積み上げるには長い時間をかけて尊さを醸成するも、一時の破壊行為で全てが壊される。

これは映画の冒頭に老夫婦が若いときや、亡き息子との写真などを懐かしの音楽に乗せて
綴ったオープニング・クレジットのシーンで、いろんな思い出が詰まったアパートであることが分かると思います。
言わば、このアパートは彼らにとっては“終の棲家”というつもりであったのかもしれない。それくらいに大きな存在だ。
それが一方的な立ち退き請求だけで、すぐに立ち退かなければならないとは、確かに理不尽に感じる面がある。

新しいものを生み出していく原動力も必要だとは思いますが、
古き良きものを尊いものとして愛する心というのも大切にしたいと思うだけに、本作で描いたことは心に響いたなぁ。

壊されてしまったものを、アッという間に直してくれるという円盤の不思議なマジック。
この辺は良くも悪くもスピルバーグらしいファンタジーですが、このマジックを本作は大活躍します。
しかも、以前よりさり気なくグレードアップしたように再建するという“オマケ”までつけるあたりが、なんとも心ニクい。

この映画の原題を日本語に直訳すると、“バッテリーが内蔵されていません”になりますが、
映画の中身を見ると、この原題が絶妙なものと感心させられましたね。謎の円盤が地球に来た理由とリンクします。

最初にこの円盤たちの不思議な力に気付いたフェイは、まるで自分の子どものように接し、
円盤たちを可愛がりますが、円盤たちだけではなく、地上げ屋に雇われたカルロスをも息子だと接する姿が切ない。
しかし、そんなフェイの姿が報われるように、双方からまるで“鶴の恩返し”のような奇跡が起きて、彼女は救われます。
本作はこの起承転結が実にスムーズに良い意味で破綻なく描かれていて、安心して観ることができますね。

本作には予想外の展開も、驚くような演出も、観客を泣かせようとする作為も感じさせません。
でも僕は、こういう映画なりに良さがあると思いますし、本作はとっても良く出来た優れた傑作だと思います。

何度観ても、ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンのおしどり夫婦の共演作は実に良い。
85年の『コクーン』がヒットしたことから、彼らの映画出演が増えました。フェイを演じたジェシカ・タンディについては
89年の『ドライビング Miss デイジー』で80歳という年齢でアカデミー主演女優賞を獲得する再ブレイクにつながります。

ところでこの映画...いつも何故かクリスマス時期に放送されることが多い気がして、
映画の雰囲気的にもクリスマスっぽい感じがでているので、僕はてっきりクリスマス映画だと思っていたのですが、
あらためて観ると、実は一っつもクリスマスと関係するストーリーではないんですね(笑)。すっかり勘違いしてました。

これって、奇跡が起こる=聖夜というイメージがあるから起きた勘違いなのかなぁ〜。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 マシュー・ロビンス
製作 ロナルド・L・シュワリー
原案 ミック・ギャリス
脚本 ブラッド・バード
   マシュー・ロビンス
   ブレント・マドック
   S・S・ウィルソン
撮影 ジョン・マクファーソン
特撮 ILM
   デイブ・アレン
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ジェシカ・タンディ
   ヒューム・クローニン
   フランク・マクレー
   エリザベス・ペーニャ
   マイケル・カーマイン
   トム・アルドリッジ
   デニス・ボウトシカリス