バットマン リターンズ(1992年アメリカ)
Batman Returns
ティム・バートンが撮った『バットマン』シリーズの第2弾。
これは僕は傑作だと思っていい作品だと思いますね。
ティム・バートンの持ち味が活かされた、実に素晴らしいエキサイティングなエンターテイメントで
あまり知られてはいませんが、最高のクリスマス・ムービーとなっていますね。
勿論、ジャック・ニコルソンの怪演にも恵まれた第1作も良かったのですが、
本作では“ペンギン”と“キャット・ウーマン”という2大悪役キャラクターを打ち立てて、
映画のインパクトとしては第1作に負けないように配慮されており、彼らに加えて悪事を目論む、
会社経営者マックスを演じたクリストファー・ウォーケンの存在感も抜群で、充実したキャストですね。
残念ながら、初代バットマンを演じたマイケル・キートンと、
監督のティム・バートンは本作を最後に交代してしまうのですが、
彼らが持ち味を活かし、第2作にして実にテンポの良い、物語の世界観をフルに活かした作品になっています。
ラジー賞にノミネートされてしまいましたが、
一切、両親からの愛情を受け取れなかった“ペンギン”の屈折した感情と、
スタン・ウィンストンの名人芸とも言えるメイクの奇怪さが秀逸そのもので、ひじょうに上手くできていますね。
とにかく矢継ぎ早に次から次へとエピソードを繰り出すティム・バートンのスタンスは相変わらずで、
さすがに今回は3人のクセ者キャラクターを打ち立てたせいか、ヴォリュームが多く感じますねぇ。
そしてこの映画は、とにかくミシェル・ファイファーに救われていますね。
彼女が演じた“キャットウーマン”は04年にスピンオフ作品が製作されるなど、
このシリーズでも人気キャラクターになったのですが、それも納得できるぐらい強烈なキャラクターである一方、
変貌する前のセリーナを、徹底したドジな性格を表現したのが妙に男心をくすぐりますね(笑)。
そして“キャットウーマン”に変貌した後、
アパートに放心状態で戻っていた途端、家具を片っ端からなぎ倒して、
猫に与えた牛乳を口からこぼすほどのガブ飲みをするワイルドな姿も妙に気になる(笑)。
まぁこの作品を観てから、僕はミシェル・ファイファーのファンになったのですが(笑)、
スーパーに侵入して警備員に見つかって、彼らをムチで打つシーンも良いですねぇ(←おバ●)。
おそらくティム・バートンが描く、ダークな陰気くさい物語の世界観は賛否両論でしょうが、
僕はこの空気が一番、しっくりきますし、その善し悪しを超越して、この徹底ぶりは映像作家として、
お手本になるべきアプローチであると思いますし、実効が感じられるというのは凄いことだと思いますね。
特に“ペンギン”を見ていると、ホントに臭ってくるような雰囲気があって、
こういう感覚を生んだというのは、ティム・バートンの執拗なまでの演出のおかげでしょう。
僕はこれを実現できた時点で、ティム・バートンの映像作家としての役割は十分に果たせていたと思いますね。
(これは『ビートルジュース』からの潮流で、『スリーピー・ホロウ』などにも活かされていますね)
第1作は意識的に夜のシーンが主体となっておりましたが、
本作は一転して昼のシーンが多く、その代わりに「地下から上がってくる」イメージを強調しており、
これは“ペンギン”が人々の生活環境とは、明らかに一線を画していることを象徴した演出ですね。
アクション・シーンはそれほど多くはありませんが、今だったらVFXを使って表現してそうな、
バットマンと“ペンギン”の家来や“キャットウーマン”との対決ですが、オーソドックスながらも
一つ一つを丁寧に表現しており、ひじょうに堅実なシーン演出で好感が持てますね。
この映画はティム・バートンの集大成とも言っていい作品だと思うのですが、
人形劇的な作風が好きなのか、“ペンギン”の最期もまるでオペラの如く劇的で良いですね。
但し、ティム・バートンにとって大きな問題であったのが、
こういった物悲しい世界観から抜け出せなかったのが大きな問題であり、
このアプローチばかり続けてしまったがために、映像作家として“殻”を破り切れませんでしたね。
最近の『アリス・イン・ワンダーランド』なんかもそうなのですが、同じことの繰り返しなんですね。
厳しい言い方ではありますが、さすがにこれでは映像作家として進歩してるとは言い難いんですよね。
あくまで『バットマン』シリーズに関して言えば、この路線を踏襲して欲しかったですね。
やはりヴィジュアル的には、これぐらい寒々した世界観の方が浮世離れしていて、しっくり来る気がします。
そういう意味では、ティム・バートンがイメージする世界観が、『バットマン』に上手くマッチしたのでしょうね。
“キャットウーマン”なんかも愛情を持って描いたティム・バートンなのですから、是非ともスピンオフ作品も
彼に撮って欲しかったですね。彼が撮っていれば、ひょっとすると失敗していなかったかもしれません。
この映画はあまりヒットしなかったと聞きますが...
そりゃ、内容が完全にクリスマス・ムービーなのにアメリカはじめ世界各国で、
思いっ切り夏休みシーズンに劇場公開するというワーナー・ブラザーズの戦略ミスのせいだろう(苦笑)。
いくらなんでも、この内容を夏休み映画にするというのは、
話しに無理があるような気がしてならなく、ただの季節ハズレの映画という印象しか持たなかったと思いますね。
本来的には『バットマン』は子供たちも安心して観れるヒーロー映画であるはずなのですが、
ひょっとすると子供たちよりも、大人の方が楽しめるダークな世界かもしれません。
この辺の微妙な居心地の悪さも、ティム・バートンらしいと言えば、彼らしいところですね。
(上映時間128分)
私の採点★★★★★★★★★★〜10点
監督 ティム・バートン
製作 デニーズ・ディ・ノヴィ
ティム・バートン
原案 ダニエル・ウォーターズ
サム・ハム
脚本 ダニエル・ウォーターズ
撮影 ステファン・チャプスキー
音楽 ダニー・エルフマン
出演 マイケル・キートン
ダニー・デビート
ミシェル・ファイファー
クリストファー・ウォーケン
マイケル・ガフ
パット・ヒングル
マイケル・マーフィ
ビンセント・スキャヴェリ
1992年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
1992年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
1992年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ダニー・デビート) ノミネート