バットマン(1989年アメリカ)

Batman

日本でも言わずと知れた、
アメリカン・コミックから飛び出したヒーローであるバットマンを主人公とした、
人気アクション・シリーズの第1弾で、如何にもティム・バートンらしい作品で実にご機嫌な一本だ。

08年にクリストファー・ノーランが再構築した新シリーズ『ダークナイト』で、
再びジョーカーがクローズアップされ、ヒース・レジャーの怪演が話題となりました。
ひょっとすると、彼にとっては軽い息抜きがてらに出演した作品だったのかもしれませんが、
いろんな意味で余裕すら感じさせる怪演が圧巻の出来で、これはホントに凄い存在感です。

ハッキリ言って、映画の主人公であるはずのバットマンの方が印象が薄いぐらいで、
ティム・バートンも事前にそのことを察知してか、クレジットではジャック・ニコルソンの方が
最初になっているという、この手の映画にしては珍しい結果になっていますね。

映画の舞台は、強烈に背の高い市庁舎のビルディングが印象的なゴッサム・シティ。
街は次第に犯罪都市の様相を呈しており、街の政治家や警察官たちは危機感を募らせていました。

当然のごとく、違法行為も行われており、警察の汚職も認められる実態。
そこで悪事をはたらく連中に、次から次へと天罰を加えるのが、謎の超人“バットマン”。
彼は倒し際に、「オレのことを広めろ!」と豪語し、悪い連中をこらしめてやります。

一方、アクシス化学という会社と悪巧みをしていた街の有力者は、
自分の会社に所属する腕利きのもみ消しやジャックを使おうとするものの、
ジャックが有力者の愛人に手を出していたことに気づき、ジャックを汚職警官エックハートに殺害させようと、
アクシス化学への侵入を指示することによって、ジャックを罠にハメようと画策します。

ところがエックハートもジャックを殺害する直前で、
警察署長らの妨害にあい、“バットマン”も登場して、エックハートはジャックの返り討ちにあってしまいます。

しかし、“バットマン”に追い詰められたジャックは化学薬品槽に転落し、
口元が異様に引きつった顔へと変化してしまい、彼は“ジョーカー”として“バットマン”への復讐を誓います。

本作でジャック・ニコルソンが好き放題に頑張ったからこそ(笑)、
この『バットマン』シリーズで悪役キャラクターがアピールするというセオリーが誕生したし、
ひょっとすると凡百の映画に埋もれてしまって、シリーズ化すらされていなかったかもしれません。
それを考えると、本作でのジャック・ニコルソンの芝居はホントに価値のあるものだったと言えると思いますね。

それからヒロインを演じたキム・ベイシンガーが良いですねぇ。
やっぱり彼女は80年代、ノリにノッている感じで最高のキャスティングでしたね。

後のシリーズでお馴染みとなる、“バットシグナル”や“バットモービル”が
惜しげもなく登場してくる、ティム・バートンのアイテムに対する異様なこだわりも良いですね。
主人公ブルースが暮らす大屋敷の造詣なども、荘厳な感じで実に素晴らしい。

ゴッサム・シティのどことなく陰気な雰囲気の作り方なんかも、凄く上手くって、
基本、夜のシーンを主体にダークなイメージを基調として、更に昼の屋外のシーンにしても、
寒く、晴れ間がほとんど差さないという、映画の世界観の作り込み方は実に素晴らしいですね。
この辺はティム・バートンの世界観のベースとなっている感じで、これは貴重な原点ですね。

これはロジャー・プラットのカメラもひじょうに貢献度が高く、
案外、85年のテリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』のときの経験が活きている感じがしますねぇ(笑)。

『バットマン』はシリーズ化され、後に何本か続編が製作されましたが、
どうも僕の中ではこの第1作でイメージが確立されたせいか、ティム・バートンのカラーが一番、
しっくり来るんですね。丁度良くダークで、エンターテイメント性もキチッと残っている。
やはりティム・バートンって、本作を観る限りは器用なところがあって、それが本作では上手くいってるんですね。

そういう意味で、僕の中では“バットマン”と言えば、マイケル・キートンなのですが、
前回、ティム・バートンと組んだ『ビートルジュース』とは、えらい違いだ(笑)。

何より、ジャック・ニコルソンの好き放題の怪演を許した、
ティム・バートンの演出の上手さも見事にマッチしており、これは大成功でしたね。
特に最初にジョーカーがボスに復讐に来るシーンなんて、最高の芝居をしてくれており、
まるでサーカス団の一員のように、狂喜しながら銃をブッ放すシーンは妙に印象的でしたね。

欲を言えば、映画のクライマックスでの粘りが今一つ弱かったのがネックではありましたが、
それでも本作の悪役キャラクターも重要視するというスタンスこそが、スピンオフを生んだ要因なんですね。
(04年の『キャットウーマン』は次作から生まれたスピンオフ・ムービー)

やっぱり最近はこの手のエンターテイメントでヒット作が生まれないのが悲しいですね。
確かに『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなんかもあるにはあるのですが、
80年代のバブリーな時代には、映画界も戻れなくて伸び悩んでいる感は拭えないですね。

そういう意味で、ホントはもっとティム・バートンに頑張って欲しいんだよなぁ。
なんか最近は彼も、数多くの回り道をしているようで、どうも残念なんですよねぇ〜。。。

(上映時間127分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ティム・バートン
製作 ピーター・グーバー
    ジョン・ピーターズ
原作 ボブ・ゲイン
脚本 サム・ハム
    ウォーレン・スカーレン
撮影 ロジャー・プラット
特撮 デレク・メディングス
編集 レイ・ラブジョイ
音楽 ダニー・エルフマン
出演 マイケル・キートン
    ジャック・ニコルソン
    キム・ベイシンガー
    ジャック・パランス
    ビリー・ディー・ウィリアムズ
    パット・ヒングル
    ロバート・ウール
    マイケル・ガフ
    ジェリー・ホール

1989年度アカデミー美術監督賞 受賞
1989年度アカデミー美術装置賞 受賞